株式会社デモニックヒーローズ

とーふ(代理カナタ)

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第4話『ケーキと豚骨の違いについて』

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天使たちのお茶会準備を白目で見ながら、立ち尽くしていた俺は、永遠に等しい時間を乗り越えて、ようやく椅子に座る事が出来るのだった。

とは言っても、直接座ると、めっちゃ綺麗なクッションが汚れそうな気がしたため、空気椅子だ。

まぁ、もし俺が立ち去った後で、クッションが汚れてるね。なんて言われたら死ぬからな。当然である。

「それで、お話を聞いても良いでしょうか?」

俺はさっさと話を終わらせて、この天国から脱しようと話を始めた。

天使とは、遠くから見ているから落ち着いて見る事が出来るのであって、近くで話をしていては心臓が持たない。

「はい。実はですね。私たち、社長から何か目新しい事をやってほしいと言われまして、それで、普段は争ってばかりなので、争いのないお話が良いですね。って話していたんですよね。ね? アゼリアちゃん」

「はい。そうなのです。そこで私は何となく、皆さんがずっと笑っている話が良いですねと、よく考えずに発言しました所、社長がそれでいこうと仰いまして。デイジーちゃんがお話の基礎を考えてくださったんですね」

「えと。私は、そんなに凄い事をしていた訳では無くてですね。ただ、こう、アゼリアちゃんのお話が凄く良いなぁ。と思いまして、それなら、皆さんの日常の悩み事を解決する様なお話が良いなぁと思いまして、意見をさせて頂いたんです。それで、このお話をした時にですね。ローレルちゃんが、素敵なお店の絵を描いてくださったんですよ」

「私はただ、お店の絵を描いただけで、みんなの意見をまとめたのは、やっぱりウィスタリアちゃんだと思いますよ。皆さんのまとめ役ですからね」

「いえいえ。私はただ皆さんの意見を並び替えただけで、考えたのは私じゃないですよ」

あぁ。

つらい。

本当に、辛い。

ふわっとした問題をふわっと解決するという話が、今ようやく理解出来たような気がする。

何か、会話がふわふわしてるんだ。

そして、話がまったく先に進んでいない。

彼女たちから得た情報は『社長から新しい物語を考案しろと命令が入った』『全員で協力して物語を考えた』以上である。

俺の中の情報は何も増えちゃいない。

頭がおかしくなりそうだ。

甘い空気も合わさって、天国と言う名の、地獄なのではないかと思い始める。

しかし、男とは悲しい生き物だ。

可愛い女の子に、反対意見など出せるはずもなかった。

いや、だってそうだろう?

こんな砂糖菓子が人間の姿をしているみたいな子に、誰が厳しい事を言える?

いや、言う事は出来る。いう事は出来るが、その後で、あの人怖いね。とか言われたら、もう命はおしまいだ。

俺と言う存在は、尽き果てる。

別に好かれたいとかそういうのでは無いのだ。ただ嫌われたくないだけなのだ。

という訳で。どちらにせよ、話を進行していこうと思う。

このままじゃ、まったく話が進まないからな。

「えっと、ですね。現状の確認なんですが、スポンサーからの反応はどうなんでしょうか? 良い? 悪い?」

「反応は良いですよ。実際」

「そうなんですね。ではこのままで良いのではないですか?」

俺はアラミージさんの意見に全力で乗っかり、結論まで走った。

最速だ。最速で話を終わらせよう。

正直向いてない。

この職場。俺に向いてない。

アラミージさんの話から考えるに、演出って多分他にも色々あると思うのよ。

それこそ王道ファンタジーとか、ロボットアクションとかもあるんじゃないかって思うんだよ。

ならさ。そっちの会議に俺は参加したい。

燃え滾る様な物語をどうやって演出するのか! そういう話し合いに俺は参加したい。

いや、別に女の子と話をするのがイヤって訳じゃないよ?

むしろ嬉しいよ? だって、四人とも全員が全員、美少女の中の美少女だからね? 全員主役級だからね?

近くに居るだけで生まれてきた事を感謝するくらいには嬉しいよ?

でもさ。女の子が多すぎるんだよ。四対二だぞ。向こうの方が倍以上多いんだぞ?

無理だろ。冷静に考えて。

口が回らないよ。何を話せば良いかも分からないよ。

男同士なら、ラーメン旨いって話だけで五時間は話せるよ。でもさ。女の子って何を話せば良いのか分からないんだって。

テーブルの上に置いてあるのも、何か高そうなお菓子と綺麗なカップに入った紅茶と思われる物だからね?

テレビでしか見た事ねぇわ。そんなの。

湯飲みと婆ちゃんが数人相手とかなら何とかなるのに、向こうはふわふわの女の子である。

漫画で言うなら、少年漫画じゃなくて、少女漫画出身みたいな人たちだ。

無理だろ……。

という訳で、さっさと話を終わらせて、むしろアラミージさんともっと仲を深めたくなっていた俺だったが、何と悲しい事に会議はまだまだ終わりそうになかった。

何故なら、女の子たちは俺たちの意見に難色を示していたからだ。

「ご意見は大変ありがたいのですが、私はその意見に、賛同するのが難しいです」

「……何故」

俺はあまりの辛さに思わず声を出していた。

さっさと会議を終わらせたい。その一心で。

「な、何故、ですか?」

「はい。理由が分かりません。こんなにも可愛らしい方々が、ふわっとした問題をふわっと解決するスローライフ物。需要の塊。どこに問題があるのか分かりません。これを路線変更しようだなんて、編集が無能としか言いようがありません」

「で、ですが、他の課の方は、新しい武器を手に入れたり、宝物を探す為に危険な場所へ行ったりする様な物語を……」

「他所は他所! ここはここです! 良いですか? 顧客が求めているのはスローライフ物なのです。であるならば、スローライフを出さねば、客は食べたい物を食べられません!」

俺は空気椅子が辛くなり、思わずテーブルに手を付いて、立ち上がっていた。

足がガクガクと震えている為、思わずかなり強くテーブルを叩いてしまい、天使たちがビクッと震えていたが、俺にそれを気にしている余裕はない。

何故なら、俺はもう色々と限界だったからだ。

空気椅子で足は痛いし、緊張しすぎて呼吸だってうまく出来ない。

呼吸も殆どしてないから頭はうまく回っていないし。ラーメンだって食べたい。

そう。気持ち的にはあれだ。

電車に乗ってる最中に激しい腹痛に襲われて、今すぐ電車から飛び降りたいけど、会社に遅れるから降りられない。

進む事も戻る事も出来ない。追い詰められた状態だ。

だからこそ、俺は前に進む。

さっさと終わらせてこの素晴らしい天国から逃げ出すのだ。

「良いですか? 世界には、需要と供給があります。需要があるから供給が行われるのです。そして、今回の話で言うのであれば、需要とはふわふわの女の子達が行うスローライフ。スローライフを求められているのであれば、スローライフを出しましょう! 何故か。その理由は簡単です。客はスローライフを求めているからです。突然筋肉ダルマが出てきて、暑苦しい戦闘が始まるのを求めている訳じゃない。あくまで見ているだけで癒される様な世界を求めているのです! ハッキリと言いましょう! ここで急激な路線変更をすれば、客は激しい失望を感じるでしょう。言うなれば、ケーキ屋に入ったら、油ギトギトのラーメンを出される様な物! 合ってるのはカロリーくらいなものだ。そんな物! 客は喜ばない。良いですか!? 客はケーキが食べたくて、ケーキ屋に来ているんです。ならば、ケーキを出してください。ケーキ以外を出そうかと考えるのは、ケーキ屋に人が来なくなってからでよろしい! 確かにケーキばかりを出しているのは不安でしょう。変化が無いのは恐ろしいでしょう。しかし、それならばデコレーションでこだわれば良い。紅茶の種類にこだわれば良い! 皿やカップ、内装にこだわれば良い。客が求める変化はそこなのです! 決して、ダージリンが豚骨に変わる事を望んでいるわけじゃない。そこを勘違いしない様に! 良いですね!?」

俺は言うだけ言って、深く息を吐いた。

そして、心の中で叫ぶのだった。

やってしまったぁぁぁああああああ!!!

後悔とは後に悔やむと書いて、後悔。

先に悔やむ事は出来ないのだ。

俺は言葉の意味を深く理解するのだった。

そして、申し訳なさと耐えきれない気持ちで、部屋から飛び出すのだった。

もうアカン。アカンわ……。
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