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第44話『母と子の永遠』
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かつて幼い頃に一度、俺は母という存在を排除した方が良いのではないかと考えた事がある。
その考えが実行に移される事はなく、母は俺が何かをする前にどこかへ消えてしまった訳だが……。
改めて己に問おう。
俺は俺の人生を生きる為に、母を排除する事が出来るだろうか?
「タツヤ。おかえりなさい」
「うん。ただいま」
「あぁ、そうそう。ごめんなさい。机の上にあった小さな花瓶ね、お母さん落としちゃって」
「……っ」
「でも、新しいのを買っておいたから。……でもタツヤも言ってくれれば良いのに。男の子でもやっぱり華やかさは欲しいのね。お母さん。新しい発見だったわ」
「……あぁ、ありがとう母さん」
「いーえ。枯れちゃったらまた新しい花を買ってくるから。気にしないでね。全部お母さんに任せてくれれば良いから」
「うん。ありがとう母さん」
俺は部屋に入り、前の花瓶よりも二回りは大きな花瓶を見た後、すぐ近くのゴミ箱で、まるで踏みつけられたかの様に無残な姿になってしまった花を拾う。
あぁ、まったく。
母さんは何も変わらないんだな。
では、俺はどうだ?
俺は、あれから変わったか?
「どうしたの? タツヤ」
俺は改めて自分に問おう。
俺の人生において障害となる母を、俺は排除出来るだろうか?
「いや、何でもないよ」
俺は母を見つめ、笑いながら首を振る。
あぁ、そうだ。
答えなど、考えるまでもなく、決まっているのだ。
この人は俺のたった一人の肉親で、たった一人の母なのだから。
母による干渉が行われた次の日。
俺はまずメリア様に謝罪する事にした。
事情は分からないだろうし、俺も言うつもりはないが、それでもせっかく贈ってもらえた花をあんな風にしてしまったのだ。
謝罪しなければ俺の気が済まない。
のだが、メリア様は慈悲深い微笑みを浮かべると、大丈夫ですよ。とだけ言っていた。
何が大丈夫なのか、さっぱり分からないが……良いというのら、良いのだろう。
俺は後日何か贈ろうとだけ考えて、その場を去った。
そして、俺は気持ちを切り替えて、放課後にいつも向かっていた場所へと走る。
今は一緒に住むことが出来ないから、せめて外では遊ぼうとエリスちゃん達と約束をしていたのだ。
しかし、息を荒げながらたどり着いたその場所には誰もおらず、俺は一人周囲を見ながら立ち尽くしていた。
「どうしたの? タツヤ」
「っ!? 母さん」
「駄目じゃない。学校が終わったら真っすぐに帰ってくるって。お母さんとの約束でしょう?」
買い物袋を持って、笑顔のままそう告げる母さんに、俺は何も言えず、唾を飲み込んだ。
エリスちゃん達は本当に遊ぶのを楽しみにしていたし。
ラナ様が約束を一方的に破る事はない。
もしそうなるとしても、何かしらの手段でそれを伝えようとするはずだ。
しかし……。
「残念ね。タツヤ」
「……」
「貴方の生まれた世界でも、貴方は色々な害虫にたかられて。お母さん。一生懸命、タツヤを守ってあげようとしてたんだけど。タツヤは優しいから」
俺が何も言わずとも、母さんは一人で笑いながら言葉を発する。
おぞましい言葉を。
「だから貴方を誘導して別の世界へ連れて来たのに、そこでもすぐに囲まれてしまったわ。魅力的過ぎるのがいけないのかしら。困った物ね」
「だから、この世界に付いてきて、もう一度同じ事をやろうというのか。母さん……いや、ヒナヤクさん」
「あら。思い出したの? 愛の力かしらね」
俺は嬉しそうに見当違いな事を言うこの人の笑顔を何とか崩してやりたくて、ヒナヤクさんが苛立つであろう言葉を口にした。
「そうだね。ラナ様への愛の力かな」
「っ! 母さん。好きじゃないな。母さん以外の女の名前を出されるのは」
「子供はいずれ大人になって母親の元を旅立つんだよ。母さんなら知ってるでしょ?」
「そんなものは普通の人の常識でしょう? 私とタツヤには関係ないわ」
「関係あるさ。俺だって普通の人間なんだから」
「ふふ、あは、アハハハハハ」
「……何が、おかしい」
俺はいつの間にか買い物袋も消え、母親らしい姿から、見た事もない様なドレスを着ているヒナヤクさんを見据え、唇を噛み締める。
取り戻した記憶の中では、ヒナヤクさんはスポンサーと同じ様な存在だと語っていた。
つまり、その程度の超常現象は容易く起こせるという訳だ。
「だって、タツヤ。貴方まだ自分が普通の存在だって思っているんだもの。おかしくて!」
「……」
「貴方は頭のいい子だけど、意識的に目を逸らす事があるのが欠点ね。まぁ、そんな所も可愛いのだけれど」
「っ」
「怖かったのね。分かるわ。貴方の事はなんでも。さ、お母さんに甘えて良いのよ?」
「来るな!」
俺はヒナヤクさんに向けて、隠していたナイフを抜き、睨みつける。
だが、そんな俺の態度にもヒナヤクさんはクスリと笑うだけだった。
「そんな物に意味は無いって。貴方もよく分かっているでしょう?」
「だとしても、相手が強いから、勝てないからって諦めたら、俺たちはデモニックヒーローズの社員失格なんでな!」
「ふふ。良いわ。とても良い。強い目。そうなる様に産んだのだから当然と言えば当然かもしれないけど。私の想像以上よ」
「なに?」
冷汗が止まらない。
何故だろう。体の奥が凍える様に寒く、震えが止まらない。
「まだ立っている事が出来るのね。素敵だわ。これも想像以上。本当に素敵。あの時、貴方の瞳の奥にある輝きを見たのは気のせいなんかじゃなかったんだわ」
「……はぁ……はぁ」
「タツヤ。私は貴方に出会った日。貴方を縛り付けるものを全て消したわ。そして、貴方を私だけのモノにする為に、私の体に宿して産みなおしたの。これがどういう意味か分かる?」
俺はガンガンと鳴り響く頭痛に頭を押さえながら、地面に膝をついた。
「貴方は細胞の一つ、一つ。貴方を構成する全てが私のモノなの。私しか好きになっちゃいけないし、私としか子供は作れない。そういう風になっているのよ。でも、貴方は逆らってばかり。お母さん。悲しくなっちゃうな」
「それが、人間だ」
「うん。そうみたいね。でもね。お母さん。こういう時の為に準備をしておいたのよ?」
「じゅん、び?」
「タツヤはタツヤ。貴方の全てを本当に私の自由にしてしまったらお人形さんと変わらないでしょう? だからね。タツヤはやっぱりタツヤであるべきだと思うの」
「何が、言いたい!」
「貴方と私の子供を作るわ。そして、生まれてきた子供の無意識に貴方の記憶と精神を混ぜ合わせるの。そしたら、次の貴方は私を伴侶として愛した記憶と、私に愛されて生まれてきた記憶でいっぱいになるでしょう? そしたら、貴方のまま。私を愛するようになるわ」
「……く」
「勿論ね。一度じゃ上手く行かないかもしれないから、二度、三度って何度でも繰り返してあげる。いつかタツヤが私を愛する様になるまで。何度でも。どう? 素敵でしょう?」
「やっぱり貴女とは趣味が合わないみたいだ」
「ふふ。違う同士の方が長く楽しめるわ。そうでしょう? タツヤ」
俺は地面にナイフを落としながら、ヒナヤクさんから迫ってきた闇に飲み込まれるのだった。
その考えが実行に移される事はなく、母は俺が何かをする前にどこかへ消えてしまった訳だが……。
改めて己に問おう。
俺は俺の人生を生きる為に、母を排除する事が出来るだろうか?
「タツヤ。おかえりなさい」
「うん。ただいま」
「あぁ、そうそう。ごめんなさい。机の上にあった小さな花瓶ね、お母さん落としちゃって」
「……っ」
「でも、新しいのを買っておいたから。……でもタツヤも言ってくれれば良いのに。男の子でもやっぱり華やかさは欲しいのね。お母さん。新しい発見だったわ」
「……あぁ、ありがとう母さん」
「いーえ。枯れちゃったらまた新しい花を買ってくるから。気にしないでね。全部お母さんに任せてくれれば良いから」
「うん。ありがとう母さん」
俺は部屋に入り、前の花瓶よりも二回りは大きな花瓶を見た後、すぐ近くのゴミ箱で、まるで踏みつけられたかの様に無残な姿になってしまった花を拾う。
あぁ、まったく。
母さんは何も変わらないんだな。
では、俺はどうだ?
俺は、あれから変わったか?
「どうしたの? タツヤ」
俺は改めて自分に問おう。
俺の人生において障害となる母を、俺は排除出来るだろうか?
「いや、何でもないよ」
俺は母を見つめ、笑いながら首を振る。
あぁ、そうだ。
答えなど、考えるまでもなく、決まっているのだ。
この人は俺のたった一人の肉親で、たった一人の母なのだから。
母による干渉が行われた次の日。
俺はまずメリア様に謝罪する事にした。
事情は分からないだろうし、俺も言うつもりはないが、それでもせっかく贈ってもらえた花をあんな風にしてしまったのだ。
謝罪しなければ俺の気が済まない。
のだが、メリア様は慈悲深い微笑みを浮かべると、大丈夫ですよ。とだけ言っていた。
何が大丈夫なのか、さっぱり分からないが……良いというのら、良いのだろう。
俺は後日何か贈ろうとだけ考えて、その場を去った。
そして、俺は気持ちを切り替えて、放課後にいつも向かっていた場所へと走る。
今は一緒に住むことが出来ないから、せめて外では遊ぼうとエリスちゃん達と約束をしていたのだ。
しかし、息を荒げながらたどり着いたその場所には誰もおらず、俺は一人周囲を見ながら立ち尽くしていた。
「どうしたの? タツヤ」
「っ!? 母さん」
「駄目じゃない。学校が終わったら真っすぐに帰ってくるって。お母さんとの約束でしょう?」
買い物袋を持って、笑顔のままそう告げる母さんに、俺は何も言えず、唾を飲み込んだ。
エリスちゃん達は本当に遊ぶのを楽しみにしていたし。
ラナ様が約束を一方的に破る事はない。
もしそうなるとしても、何かしらの手段でそれを伝えようとするはずだ。
しかし……。
「残念ね。タツヤ」
「……」
「貴方の生まれた世界でも、貴方は色々な害虫にたかられて。お母さん。一生懸命、タツヤを守ってあげようとしてたんだけど。タツヤは優しいから」
俺が何も言わずとも、母さんは一人で笑いながら言葉を発する。
おぞましい言葉を。
「だから貴方を誘導して別の世界へ連れて来たのに、そこでもすぐに囲まれてしまったわ。魅力的過ぎるのがいけないのかしら。困った物ね」
「だから、この世界に付いてきて、もう一度同じ事をやろうというのか。母さん……いや、ヒナヤクさん」
「あら。思い出したの? 愛の力かしらね」
俺は嬉しそうに見当違いな事を言うこの人の笑顔を何とか崩してやりたくて、ヒナヤクさんが苛立つであろう言葉を口にした。
「そうだね。ラナ様への愛の力かな」
「っ! 母さん。好きじゃないな。母さん以外の女の名前を出されるのは」
「子供はいずれ大人になって母親の元を旅立つんだよ。母さんなら知ってるでしょ?」
「そんなものは普通の人の常識でしょう? 私とタツヤには関係ないわ」
「関係あるさ。俺だって普通の人間なんだから」
「ふふ、あは、アハハハハハ」
「……何が、おかしい」
俺はいつの間にか買い物袋も消え、母親らしい姿から、見た事もない様なドレスを着ているヒナヤクさんを見据え、唇を噛み締める。
取り戻した記憶の中では、ヒナヤクさんはスポンサーと同じ様な存在だと語っていた。
つまり、その程度の超常現象は容易く起こせるという訳だ。
「だって、タツヤ。貴方まだ自分が普通の存在だって思っているんだもの。おかしくて!」
「……」
「貴方は頭のいい子だけど、意識的に目を逸らす事があるのが欠点ね。まぁ、そんな所も可愛いのだけれど」
「っ」
「怖かったのね。分かるわ。貴方の事はなんでも。さ、お母さんに甘えて良いのよ?」
「来るな!」
俺はヒナヤクさんに向けて、隠していたナイフを抜き、睨みつける。
だが、そんな俺の態度にもヒナヤクさんはクスリと笑うだけだった。
「そんな物に意味は無いって。貴方もよく分かっているでしょう?」
「だとしても、相手が強いから、勝てないからって諦めたら、俺たちはデモニックヒーローズの社員失格なんでな!」
「ふふ。良いわ。とても良い。強い目。そうなる様に産んだのだから当然と言えば当然かもしれないけど。私の想像以上よ」
「なに?」
冷汗が止まらない。
何故だろう。体の奥が凍える様に寒く、震えが止まらない。
「まだ立っている事が出来るのね。素敵だわ。これも想像以上。本当に素敵。あの時、貴方の瞳の奥にある輝きを見たのは気のせいなんかじゃなかったんだわ」
「……はぁ……はぁ」
「タツヤ。私は貴方に出会った日。貴方を縛り付けるものを全て消したわ。そして、貴方を私だけのモノにする為に、私の体に宿して産みなおしたの。これがどういう意味か分かる?」
俺はガンガンと鳴り響く頭痛に頭を押さえながら、地面に膝をついた。
「貴方は細胞の一つ、一つ。貴方を構成する全てが私のモノなの。私しか好きになっちゃいけないし、私としか子供は作れない。そういう風になっているのよ。でも、貴方は逆らってばかり。お母さん。悲しくなっちゃうな」
「それが、人間だ」
「うん。そうみたいね。でもね。お母さん。こういう時の為に準備をしておいたのよ?」
「じゅん、び?」
「タツヤはタツヤ。貴方の全てを本当に私の自由にしてしまったらお人形さんと変わらないでしょう? だからね。タツヤはやっぱりタツヤであるべきだと思うの」
「何が、言いたい!」
「貴方と私の子供を作るわ。そして、生まれてきた子供の無意識に貴方の記憶と精神を混ぜ合わせるの。そしたら、次の貴方は私を伴侶として愛した記憶と、私に愛されて生まれてきた記憶でいっぱいになるでしょう? そしたら、貴方のまま。私を愛するようになるわ」
「……く」
「勿論ね。一度じゃ上手く行かないかもしれないから、二度、三度って何度でも繰り返してあげる。いつかタツヤが私を愛する様になるまで。何度でも。どう? 素敵でしょう?」
「やっぱり貴女とは趣味が合わないみたいだ」
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