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第6話『策謀は会議室で踊る』
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ミラが王都で暮らす様になり、セオドラー達と日々を過ごす様になってから半年ほどが経過した。
ミラは早々と王都にも馴染み、相変わらず王都の陰でコッソリと人を癒す生活をしていた。
無論、ミラとしては表立って癒しの魔術を使っても良いのだが、街の住人や両親や兄姉によって止められていた為、なるべく人に見つからない場所で、人目を気にしながらフードなどを被って行動していたのである。
そんなミラを、王都の住人はヴェルクモントの女神なんて呼びながら崇めており、決して彼女の情報を外部には漏らさぬという固い意思を持っていた。
しかし、どれだけ民が固い意思でミラの秘密を守ろうとしても、人の目とはどこにでもあり、目があれば口もある。そして口があれば人から人へと伝わるという事であった。
例えば、ミラが王城からたまに抜け出し城下へ行く際に、護衛として付けていた者からの報告も、その一つである。
「……ふむ。そうか。ミラ・ジェリン・メイラーは聖女であったか」
「陛下。この事は」
「まだそれほど広くは広まっておらんよ。無論、表面上は……という話だがな。そうだろう?」
ヴェルクモントの王、レギー・アラヴァクア・ヴェルクモントは市民の動向を探る目として用意している一組の男女に目を向けた。
通称王立劇団と呼ばれる彼らは、ヴェルクモント王国に古くから存在する情報機関の一つであり、主にヴェルクモント王国や他国で市民として生活しながら情報を集めるエキスパートである。
「はい。表面上はメイラー伯爵家の直轄領及び王都のみに留まっております。少なくとも、二つの都市以外の場所で情報は表立っては流れておりません」
「あくまで、内部から内部か。口の軽い者が少ないというのは喜ぶべき事なのだろうが、それも永遠ではあるまい。いずれは世界も知る事となる」
「ですが、そうなる前に、ミラ嬢を王妃としてしまえば良いのではないですか? セオドラー王太子殿下も彼女の事を気に入っているのでしょう? それに無能ではない。少々お転婆な所もありますが、彼女の兄や姉が抑制する事も可能なようだ」
「フン。お前はそれで良いのか? グリセリア。かの娘を随分と気に入っていただろう。わざわざグリセリアの本家から古き時代の書を取り寄せて、彼女に渡していたと聞いたぞ? それに息子の嫁にと挨拶の様に言っているそうじゃないか」
「私も可能であれば、その様になればと願っておりますがね。息子は少々……いや、大分気が弱い性格でしてな。ミラ嬢の奪い合いには参加出来そうにない。あの子の周りには二匹の獰猛な獣が居ますからね。まぁ、手段はいくらでもありますが」
「ハリソンとフレヤか」
「フレヤはしょうがないだろう。彼女は既に王国でも指折りの実力者になりつつある。たった十三の小娘がだ。娘もライバルが出来たと喜んでいたが、まぁいずれ勝てなくなるだろうな」
「厳しい意見だな」
「当然だ。親の欲目等という曇った目で娘を見誤れば、あの子を死地へ送りかねないからな。冷静な判断が必要だ」
「その割に、息子には無茶な場へ送り込もうとしているようだがな」
「……さて、何のことやら」
「出来もしない腹芸は止めろ。レンゲント。お前、自分と同じ武ばかりの息子に北方の伝承を叩きこんで、偶然を装ってミラ嬢に近づけたそうだな。騎士団の中で噂になっていたぞ。『読みもしない書を片手に女神へ近づくレンゲントの行動は騎士道に反する卑劣なもの』だとな」
「アレも。面白き本に目覚めたのであろう。特に珍しい事ではあるまい。まぁ、そこで偶然北方のドラゴン伝承に興味を持ったミラ嬢と話が合うというのも、おかしな話ではない。まぁ、偶然だな」
「苦しい言い訳を言いおって。貴様ら、次代の王を立てようという気は無いのか。忠誠はどうした。忠誠は」
「それはそれ。これはこれ。という神の世界での言葉があるそうですよ。陛下」
「セオドラー殿下は、グリセリアの娘か我が娘を選べば良かろう。元々ミラ嬢が出てくる前まではその様に決まっていたのだからな」
「あの何事にも退屈そうなセオがようやく見つけた光だぞ。早々容易く奪われてたまるか」
「陛下。愛とは奪い合い。戦争でございます」
「そうそう。騙し合い。裏切り共闘。命の奪い合いさえしなければ何をやってもよい世界。覚悟をされよ。陛下」
「……そうか。貴様らの意見はよく分かった。よぉーく。な。何でもありか。そうかそうか。セオの初恋だ。私は陰ながら見守ろうかと思っていたが。貴様らがそういうのであれば。私も遠慮はしない。現国王として、王命を以って、ミラ・ジェリン・メイラーをセオドラー・レスタ・ヴェルクモントの婚約者としてくれるわ!」
「なっ! 汚いぞ! そこまでやるか! レギー!」
「権力はやり過ぎだろ!! 自重しろ!」
「貴様らが言い始めた事だ。愛は戦争であるとな。であるなら、セオの為に私が出来る最大限の援護をしてやるまでよ」
「くっ……なんと卑劣な。我が息子も弱い精神ながら必死に頑張っているというのに」
「何を言うか! 貴様の息子がミラ嬢へ贈った物の中に違法ギリギリの薬が混入されていたと、報告があったぞ! まだ一桁の子供にやる事か! まったく……それにな。あの薬。入手するには相当な地位が無ければ難しい。例えば宰相とかな!」
「はて。私は存じ上げませんな。しかし聖女様は薬物への耐性が強い。その薬がどの様な物であっても、大した効果はないでしょう」
「ほー。そうかそうか。私が持っている文献によれば、かの薬は精神を錯乱させる作用があるらしいが、耐性の強い人間には精々気分が昂る程度の効果しか出ないらしい。しかし、手紙に染みこませて、写真を送り、それを見ていると胸が高鳴る様にする。どう考えても犯罪者のやり方だろうが!」
「まだ罪は犯してませんよ。陛下」
「……」
「それに。恋とは一時の感情ですが、愛は時間を掛けて育ててゆくモノ。最初の感情など人工的でも良いでは無いですか」
「そうだな。貴様の言う事は正しい。私も賛成だ」
「おぉ……陛下」
「という訳で、ミラ嬢はセオの婚約者とする。愛は時間を掛けて育ててゆくものだからな。最初の切っ掛けは何でも良いのだろう。私も同意見だ。宰相」
「くっ、しかし、その様な横暴! 許されませんぞ! 王は女神を己の欲望の為に抱え込もうとしていると民に広め、反対運動を起こさせる事だって出来るんですからね!?」
「止めんか! 無駄に国を混乱させるな!」
「うむ。確かにな。グリセリアのやり方は少々無謀だ」
「おぉ、レンゲント。貴様はよく理解しているでは無いか。そうだ。民を暴徒に変えるなど……」
「そうだな。やるなら統率の取れた騎士団でやるべきだ。でなければ無駄な犠牲が出るだろう」
「レンゲント……貴様もか!」
「既に騎士団の中でミラ嬢のファンは多い。俺が何かせずとも、反乱は勝手に起こるだろう」
「くっ」
「どの道だ。ミラ嬢の意思を無視し、彼女をどうにかしようとすれば、どこかしらから反乱は起こる。彼女は既にそれだけの存在となりつつあるのだ。事は慎重に行わなければいけない。そうであろう?」
「そうだな」
「分かっておりますよ」
レンゲントの言葉に、その場にいた全員が頷き、そして最後にヴェルクモントの王が口を開いた。
「表立っての援護はご法度だ。そしてミラ嬢を悲しませるのもな。あくまで公平に。公正にだ。分かっているな。グリセリア」
「えぇ。そのお言葉。そのまま陛下にもお返しします」
「あぁ言えばこういう。まぁ良い。あくまで主役は子供たちだ。我らは彼らの壁となり、邪魔をさせぬ様に立ちまわる。良いな!」
「あぁ。承知した」
「承知いたしました。陛下」
「では本日のミラちゃん会議は終了する! 解散!」
かくして、深夜行われた秘密の会合は終わりを迎えた。
この会議が世界に何か影響を与えるかは、誰も知らない。
ミラは早々と王都にも馴染み、相変わらず王都の陰でコッソリと人を癒す生活をしていた。
無論、ミラとしては表立って癒しの魔術を使っても良いのだが、街の住人や両親や兄姉によって止められていた為、なるべく人に見つからない場所で、人目を気にしながらフードなどを被って行動していたのである。
そんなミラを、王都の住人はヴェルクモントの女神なんて呼びながら崇めており、決して彼女の情報を外部には漏らさぬという固い意思を持っていた。
しかし、どれだけ民が固い意思でミラの秘密を守ろうとしても、人の目とはどこにでもあり、目があれば口もある。そして口があれば人から人へと伝わるという事であった。
例えば、ミラが王城からたまに抜け出し城下へ行く際に、護衛として付けていた者からの報告も、その一つである。
「……ふむ。そうか。ミラ・ジェリン・メイラーは聖女であったか」
「陛下。この事は」
「まだそれほど広くは広まっておらんよ。無論、表面上は……という話だがな。そうだろう?」
ヴェルクモントの王、レギー・アラヴァクア・ヴェルクモントは市民の動向を探る目として用意している一組の男女に目を向けた。
通称王立劇団と呼ばれる彼らは、ヴェルクモント王国に古くから存在する情報機関の一つであり、主にヴェルクモント王国や他国で市民として生活しながら情報を集めるエキスパートである。
「はい。表面上はメイラー伯爵家の直轄領及び王都のみに留まっております。少なくとも、二つの都市以外の場所で情報は表立っては流れておりません」
「あくまで、内部から内部か。口の軽い者が少ないというのは喜ぶべき事なのだろうが、それも永遠ではあるまい。いずれは世界も知る事となる」
「ですが、そうなる前に、ミラ嬢を王妃としてしまえば良いのではないですか? セオドラー王太子殿下も彼女の事を気に入っているのでしょう? それに無能ではない。少々お転婆な所もありますが、彼女の兄や姉が抑制する事も可能なようだ」
「フン。お前はそれで良いのか? グリセリア。かの娘を随分と気に入っていただろう。わざわざグリセリアの本家から古き時代の書を取り寄せて、彼女に渡していたと聞いたぞ? それに息子の嫁にと挨拶の様に言っているそうじゃないか」
「私も可能であれば、その様になればと願っておりますがね。息子は少々……いや、大分気が弱い性格でしてな。ミラ嬢の奪い合いには参加出来そうにない。あの子の周りには二匹の獰猛な獣が居ますからね。まぁ、手段はいくらでもありますが」
「ハリソンとフレヤか」
「フレヤはしょうがないだろう。彼女は既に王国でも指折りの実力者になりつつある。たった十三の小娘がだ。娘もライバルが出来たと喜んでいたが、まぁいずれ勝てなくなるだろうな」
「厳しい意見だな」
「当然だ。親の欲目等という曇った目で娘を見誤れば、あの子を死地へ送りかねないからな。冷静な判断が必要だ」
「その割に、息子には無茶な場へ送り込もうとしているようだがな」
「……さて、何のことやら」
「出来もしない腹芸は止めろ。レンゲント。お前、自分と同じ武ばかりの息子に北方の伝承を叩きこんで、偶然を装ってミラ嬢に近づけたそうだな。騎士団の中で噂になっていたぞ。『読みもしない書を片手に女神へ近づくレンゲントの行動は騎士道に反する卑劣なもの』だとな」
「アレも。面白き本に目覚めたのであろう。特に珍しい事ではあるまい。まぁ、そこで偶然北方のドラゴン伝承に興味を持ったミラ嬢と話が合うというのも、おかしな話ではない。まぁ、偶然だな」
「苦しい言い訳を言いおって。貴様ら、次代の王を立てようという気は無いのか。忠誠はどうした。忠誠は」
「それはそれ。これはこれ。という神の世界での言葉があるそうですよ。陛下」
「セオドラー殿下は、グリセリアの娘か我が娘を選べば良かろう。元々ミラ嬢が出てくる前まではその様に決まっていたのだからな」
「あの何事にも退屈そうなセオがようやく見つけた光だぞ。早々容易く奪われてたまるか」
「陛下。愛とは奪い合い。戦争でございます」
「そうそう。騙し合い。裏切り共闘。命の奪い合いさえしなければ何をやってもよい世界。覚悟をされよ。陛下」
「……そうか。貴様らの意見はよく分かった。よぉーく。な。何でもありか。そうかそうか。セオの初恋だ。私は陰ながら見守ろうかと思っていたが。貴様らがそういうのであれば。私も遠慮はしない。現国王として、王命を以って、ミラ・ジェリン・メイラーをセオドラー・レスタ・ヴェルクモントの婚約者としてくれるわ!」
「なっ! 汚いぞ! そこまでやるか! レギー!」
「権力はやり過ぎだろ!! 自重しろ!」
「貴様らが言い始めた事だ。愛は戦争であるとな。であるなら、セオの為に私が出来る最大限の援護をしてやるまでよ」
「くっ……なんと卑劣な。我が息子も弱い精神ながら必死に頑張っているというのに」
「何を言うか! 貴様の息子がミラ嬢へ贈った物の中に違法ギリギリの薬が混入されていたと、報告があったぞ! まだ一桁の子供にやる事か! まったく……それにな。あの薬。入手するには相当な地位が無ければ難しい。例えば宰相とかな!」
「はて。私は存じ上げませんな。しかし聖女様は薬物への耐性が強い。その薬がどの様な物であっても、大した効果はないでしょう」
「ほー。そうかそうか。私が持っている文献によれば、かの薬は精神を錯乱させる作用があるらしいが、耐性の強い人間には精々気分が昂る程度の効果しか出ないらしい。しかし、手紙に染みこませて、写真を送り、それを見ていると胸が高鳴る様にする。どう考えても犯罪者のやり方だろうが!」
「まだ罪は犯してませんよ。陛下」
「……」
「それに。恋とは一時の感情ですが、愛は時間を掛けて育ててゆくモノ。最初の感情など人工的でも良いでは無いですか」
「そうだな。貴様の言う事は正しい。私も賛成だ」
「おぉ……陛下」
「という訳で、ミラ嬢はセオの婚約者とする。愛は時間を掛けて育ててゆくものだからな。最初の切っ掛けは何でも良いのだろう。私も同意見だ。宰相」
「くっ、しかし、その様な横暴! 許されませんぞ! 王は女神を己の欲望の為に抱え込もうとしていると民に広め、反対運動を起こさせる事だって出来るんですからね!?」
「止めんか! 無駄に国を混乱させるな!」
「うむ。確かにな。グリセリアのやり方は少々無謀だ」
「おぉ、レンゲント。貴様はよく理解しているでは無いか。そうだ。民を暴徒に変えるなど……」
「そうだな。やるなら統率の取れた騎士団でやるべきだ。でなければ無駄な犠牲が出るだろう」
「レンゲント……貴様もか!」
「既に騎士団の中でミラ嬢のファンは多い。俺が何かせずとも、反乱は勝手に起こるだろう」
「くっ」
「どの道だ。ミラ嬢の意思を無視し、彼女をどうにかしようとすれば、どこかしらから反乱は起こる。彼女は既にそれだけの存在となりつつあるのだ。事は慎重に行わなければいけない。そうであろう?」
「そうだな」
「分かっておりますよ」
レンゲントの言葉に、その場にいた全員が頷き、そして最後にヴェルクモントの王が口を開いた。
「表立っての援護はご法度だ。そしてミラ嬢を悲しませるのもな。あくまで公平に。公正にだ。分かっているな。グリセリア」
「えぇ。そのお言葉。そのまま陛下にもお返しします」
「あぁ言えばこういう。まぁ良い。あくまで主役は子供たちだ。我らは彼らの壁となり、邪魔をさせぬ様に立ちまわる。良いな!」
「あぁ。承知した」
「承知いたしました。陛下」
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