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第2話『では今日はこの世界の歴史について学びましょう』
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あの日、夕暮れの教室でアリスちゃんに出会った日から一年ほどが経った。
当時の私はと言えば、目を覚ましても変わらない世界の景色に動揺して泣きわめいてしまい、アリスちゃんにはかなり迷惑を掛けた様に思う。
年上として実に恥ずかしい。
しかし、アリスちゃんはそんな私を嫌がらず傍に居て、慰めてくれたのであった。
そのお陰で私は何とか精神を安定させる事が出来るようになり、少しずつこの世界の事を受け止められる様になったのである。
「はい。では今日はこの世界の歴史について学びましょう。先日の復習となります。お二人ともよろしいですか?」
「はい!」
「分かりました!」
「二人ともよい返事ですね。まず歴史の始まりから学んでゆきましょうか。ではアリス様。我ら人類の歴史を語る上で最も重要な方はどなたでしょうか?」
「はい! アルマ様です!」
「そうですね。ではエリカさん。アルマ様の行った事をお答えください」
「はい。えっと、アルマ様はその手に光を集めて剣とし、光の剣を振るって闇を退けたとされています」
「よろしい。今エリカさんが答えた様に、アルマ様は何もない所から世界に光を齎す剣をお創りになり、その剣で以って闇に住まう者たちを打ち払いました。この剣はアルマ様がお隠れになった後も、世界の中心に収められ、今もなお世界を照らしていると言われております。二人とも良く出来ました」
私とアリスちゃんは顔を見合わせて笑う。
そして、先生は本のページをめくりながら、次なる問題を私とアリスちゃんの前に掲げた。
「では次なる偉人についてお答えいただきましょうか。時代の針を先に進めてゆきますよ。光歴847年頃の話です。この時代にはある重要な人物が誕生し、我らに大きな恩恵を齎しましたが、その人物についてお答えください。エリカさん」
「はい。847年に誕生したとされているのは、シャーラペトラ様になります。シャーラペトラ様は人類で最初に精霊契約をされた方で、人類と精霊のかけ橋になったとも言われています」
「よろしい。では精霊契約について、当時の状況をお答えください。アリス様」
「はい! 精霊は人の魂を見て力を貸してくれるようになり、その契約を元にして魔術という技術が使えるようになりました。ただ、最初期は精霊と契約できる人が少なく、あまり契約が進んでいなかったです」
「そうですね。大変素晴らしい。流石はアリス様です。では精霊が好む資質についても答えていただきましょうか。精霊が司る属性を一つずつ、交互にゆきましょう。まずはエリカさんから」
「えーっと。火の精霊は、前向きな方や熱量の強い性格の方。協調性の高い人が好まれるとされています」
「よろしい。では次にアリス様」
「はい! 光の精霊は、より精神力の強い人、目的を成し遂げる勇気を持っている人、勇者様みたいな人が契約する事が多いです!」
「大変元気で良いですね。素晴らしいです。ただ……そうですね。アリス様の回答は完璧ですが、一つ付け加えるなら、光の精霊と契約する方には善性の強い方が多いとされています。特に歴史上一番最初に光の精霊と契約された光の聖女アメリア様は、その生涯全てで人の為に世界の為に力を使い続けたとされております。ですから! アリス様も! 聖女アメリア様の様に美しく、気高く、光り輝く生涯を送られる事でしょう。その為にもお勉強を頑張りましょうね!」
キラキラと輝く瞳で先生に両手を握られ、困ったような顔で愛想笑いをするアリスちゃんを見て、私も曖昧な笑顔を浮かべた。
きっと本当は勇者様になりたいのに。という様な事を想っているのだろう。
でも世界は残酷なのだ。
おそらくアリスちゃんの願いが叶う事は無いだろう。
「オホン。少々話が逸れましたね。では次をエリカさん」
「はい。土の精霊について。彼らは真面目な方。意思の強い方、固い方。騎士様などの忠誠心が強い方を好まれるとされています」
「よろしい。では次にアリス様」
「えっと、じゃあ闇の精霊を。闇の精霊は野心や独善的な感情を強く持つ人を好むとされています。でも、それだけではなくて、逆境であっても負けず抗える気高い魂を持っている人に力を貸すとも言われています」
「大変素晴らしい! アリス様はよく勉強されていますね! 闇の精霊についてはアリス様の仰る事で完璧でございます。その上で補足をさせていただくなら、闇の精霊と契約をしているというだけで、差別をする人間が多く居るという事も、お二人にはご留意いただきたい点です」
「どうして、差別するんでしょうか。まだ何もやっていないのに」
「歴史上に存在する犯罪者たちの多くは闇の精霊と深く契約していた者ばかりだからですよ。アリス様」
「でも! でもマティアス君は、何も悪い事やってないのに」
「アリス様。人というのは皆、アリス様の様に慈悲深く、無条件に他者を愛する事は出来ないのです。知らぬものを恐れ、分からぬものを排し、己の正しさを証明する為に他者を否定する。それが歴史上多くの争いを起こしてきた人類の本質なのですよ」
「……」
「ですが、アリス様もエリカさんも大変勉強熱心です。かつて多くの人が行ってきた過ちも、歴史を識る事で正しき道を歩む事が出来るでしょう。愚かなる者は自らが歩んできた世界しか知らぬ者ですが、賢き者は多くの人が積み重ねてきた歴史を見る事が出来ます。どうかお二人は研鑽を忘れぬよう」
「「はい!」」
「良い返事です。では最後の二つもお答えください。まずはエリカさんから」
「はい。一つは風の精霊となります。風の精霊は気まぐれな性格を好み、自分の想いを大事にしている方を好むとされています」
「よろしい。では最後の精霊についてお話しください。アリス様」
「……」
「アリス様? どうされましたか? アリス様も契約されております水の精霊についてですよ?」
「……う」
「アリス様?」
「み、水の、精霊は……その、勇者様の様に研ぎ澄まされた正義の心を持つ人に」
「アリス様。残念ながら違います。エリカさん。答えられますか?」
「えっと……はい」
私はチラっと隣に座っているアリスちゃんを盗み見た。
顔を真っ赤にして俯きながら、違う違うと呟いている。
何だか可哀想になってきた。
でも、答えないと多分もっと可哀想な目に遭いそうだし。上手く答えよう。
「水の精霊は、その。整った顔立ちをされている方を好まれます。ただ、その整ったというのは凛々しい顔立ちをされている勇者様の様な方も多く居る為、より多くの大衆から見て、整っているというだけの話で」
「エリカさん。少し落ち着いてください。間違いではありませんが、少々本題からズレている様に思います」
「……申し訳ございません」
「ただ、先ほども言いましたが、間違いではありません。ですが、補足をするなら、水の精霊と契約されている方というのは、見た目が大変可愛らしい方が多いとされております。凛々しい方は水の精霊が氷の精霊に変化するとの事で、水の精霊のまま上位契約をされているアリス様は、この世界でも、いえ! 歴史上見ても類を見ないほどに可愛らしく、人を惹きつける素晴らしい容姿をしているという事になります!!」
もはやアリスちゃんの顔は夕焼けよりも赤く染まっており、足の上で握り締めている両手が解き放たれた時には、この部屋からも解き放たれるのだろうという事がよく分かる。
しかし、アリスちゃんはそんな逃げ出したくなる様な羞恥心を感じていながらも必死に耐え、椅子に座り続けているのだった。
涙が出るような光景だ。
だが興奮し、アリスちゃんの可愛さについて語り始めた先生は止まらない。
おそらくは今日の授業が終わるまでこのまま語り続けるのだろう。
私に出来る事はただ祈る事ばかりだ。
「アリス様がお生まれになった時、この世界の全てはその誕生を祝福しておりました! 空も重く厚い雲が割れ、天から光が差し込むほどに! そして、アリス様の可愛さの前には多くの命がひれ伏し、その魂を捧げたとされております。これほどの愛らしさを持った方は歴史上にもそう多くは居ません。いえ! アリス様より愛らしい方など、存在する筈が無いのです!!」
「くっ……ふぅ」
あ、泣きそう。
でも、ごめん。
私じゃ先生は止められないんだ。
だから、ごめん。アリスちゃん。
当時の私はと言えば、目を覚ましても変わらない世界の景色に動揺して泣きわめいてしまい、アリスちゃんにはかなり迷惑を掛けた様に思う。
年上として実に恥ずかしい。
しかし、アリスちゃんはそんな私を嫌がらず傍に居て、慰めてくれたのであった。
そのお陰で私は何とか精神を安定させる事が出来るようになり、少しずつこの世界の事を受け止められる様になったのである。
「はい。では今日はこの世界の歴史について学びましょう。先日の復習となります。お二人ともよろしいですか?」
「はい!」
「分かりました!」
「二人ともよい返事ですね。まず歴史の始まりから学んでゆきましょうか。ではアリス様。我ら人類の歴史を語る上で最も重要な方はどなたでしょうか?」
「はい! アルマ様です!」
「そうですね。ではエリカさん。アルマ様の行った事をお答えください」
「はい。えっと、アルマ様はその手に光を集めて剣とし、光の剣を振るって闇を退けたとされています」
「よろしい。今エリカさんが答えた様に、アルマ様は何もない所から世界に光を齎す剣をお創りになり、その剣で以って闇に住まう者たちを打ち払いました。この剣はアルマ様がお隠れになった後も、世界の中心に収められ、今もなお世界を照らしていると言われております。二人とも良く出来ました」
私とアリスちゃんは顔を見合わせて笑う。
そして、先生は本のページをめくりながら、次なる問題を私とアリスちゃんの前に掲げた。
「では次なる偉人についてお答えいただきましょうか。時代の針を先に進めてゆきますよ。光歴847年頃の話です。この時代にはある重要な人物が誕生し、我らに大きな恩恵を齎しましたが、その人物についてお答えください。エリカさん」
「はい。847年に誕生したとされているのは、シャーラペトラ様になります。シャーラペトラ様は人類で最初に精霊契約をされた方で、人類と精霊のかけ橋になったとも言われています」
「よろしい。では精霊契約について、当時の状況をお答えください。アリス様」
「はい! 精霊は人の魂を見て力を貸してくれるようになり、その契約を元にして魔術という技術が使えるようになりました。ただ、最初期は精霊と契約できる人が少なく、あまり契約が進んでいなかったです」
「そうですね。大変素晴らしい。流石はアリス様です。では精霊が好む資質についても答えていただきましょうか。精霊が司る属性を一つずつ、交互にゆきましょう。まずはエリカさんから」
「えーっと。火の精霊は、前向きな方や熱量の強い性格の方。協調性の高い人が好まれるとされています」
「よろしい。では次にアリス様」
「はい! 光の精霊は、より精神力の強い人、目的を成し遂げる勇気を持っている人、勇者様みたいな人が契約する事が多いです!」
「大変元気で良いですね。素晴らしいです。ただ……そうですね。アリス様の回答は完璧ですが、一つ付け加えるなら、光の精霊と契約する方には善性の強い方が多いとされています。特に歴史上一番最初に光の精霊と契約された光の聖女アメリア様は、その生涯全てで人の為に世界の為に力を使い続けたとされております。ですから! アリス様も! 聖女アメリア様の様に美しく、気高く、光り輝く生涯を送られる事でしょう。その為にもお勉強を頑張りましょうね!」
キラキラと輝く瞳で先生に両手を握られ、困ったような顔で愛想笑いをするアリスちゃんを見て、私も曖昧な笑顔を浮かべた。
きっと本当は勇者様になりたいのに。という様な事を想っているのだろう。
でも世界は残酷なのだ。
おそらくアリスちゃんの願いが叶う事は無いだろう。
「オホン。少々話が逸れましたね。では次をエリカさん」
「はい。土の精霊について。彼らは真面目な方。意思の強い方、固い方。騎士様などの忠誠心が強い方を好まれるとされています」
「よろしい。では次にアリス様」
「えっと、じゃあ闇の精霊を。闇の精霊は野心や独善的な感情を強く持つ人を好むとされています。でも、それだけではなくて、逆境であっても負けず抗える気高い魂を持っている人に力を貸すとも言われています」
「大変素晴らしい! アリス様はよく勉強されていますね! 闇の精霊についてはアリス様の仰る事で完璧でございます。その上で補足をさせていただくなら、闇の精霊と契約をしているというだけで、差別をする人間が多く居るという事も、お二人にはご留意いただきたい点です」
「どうして、差別するんでしょうか。まだ何もやっていないのに」
「歴史上に存在する犯罪者たちの多くは闇の精霊と深く契約していた者ばかりだからですよ。アリス様」
「でも! でもマティアス君は、何も悪い事やってないのに」
「アリス様。人というのは皆、アリス様の様に慈悲深く、無条件に他者を愛する事は出来ないのです。知らぬものを恐れ、分からぬものを排し、己の正しさを証明する為に他者を否定する。それが歴史上多くの争いを起こしてきた人類の本質なのですよ」
「……」
「ですが、アリス様もエリカさんも大変勉強熱心です。かつて多くの人が行ってきた過ちも、歴史を識る事で正しき道を歩む事が出来るでしょう。愚かなる者は自らが歩んできた世界しか知らぬ者ですが、賢き者は多くの人が積み重ねてきた歴史を見る事が出来ます。どうかお二人は研鑽を忘れぬよう」
「「はい!」」
「良い返事です。では最後の二つもお答えください。まずはエリカさんから」
「はい。一つは風の精霊となります。風の精霊は気まぐれな性格を好み、自分の想いを大事にしている方を好むとされています」
「よろしい。では最後の精霊についてお話しください。アリス様」
「……」
「アリス様? どうされましたか? アリス様も契約されております水の精霊についてですよ?」
「……う」
「アリス様?」
「み、水の、精霊は……その、勇者様の様に研ぎ澄まされた正義の心を持つ人に」
「アリス様。残念ながら違います。エリカさん。答えられますか?」
「えっと……はい」
私はチラっと隣に座っているアリスちゃんを盗み見た。
顔を真っ赤にして俯きながら、違う違うと呟いている。
何だか可哀想になってきた。
でも、答えないと多分もっと可哀想な目に遭いそうだし。上手く答えよう。
「水の精霊は、その。整った顔立ちをされている方を好まれます。ただ、その整ったというのは凛々しい顔立ちをされている勇者様の様な方も多く居る為、より多くの大衆から見て、整っているというだけの話で」
「エリカさん。少し落ち着いてください。間違いではありませんが、少々本題からズレている様に思います」
「……申し訳ございません」
「ただ、先ほども言いましたが、間違いではありません。ですが、補足をするなら、水の精霊と契約されている方というのは、見た目が大変可愛らしい方が多いとされております。凛々しい方は水の精霊が氷の精霊に変化するとの事で、水の精霊のまま上位契約をされているアリス様は、この世界でも、いえ! 歴史上見ても類を見ないほどに可愛らしく、人を惹きつける素晴らしい容姿をしているという事になります!!」
もはやアリスちゃんの顔は夕焼けよりも赤く染まっており、足の上で握り締めている両手が解き放たれた時には、この部屋からも解き放たれるのだろうという事がよく分かる。
しかし、アリスちゃんはそんな逃げ出したくなる様な羞恥心を感じていながらも必死に耐え、椅子に座り続けているのだった。
涙が出るような光景だ。
だが興奮し、アリスちゃんの可愛さについて語り始めた先生は止まらない。
おそらくは今日の授業が終わるまでこのまま語り続けるのだろう。
私に出来る事はただ祈る事ばかりだ。
「アリス様がお生まれになった時、この世界の全てはその誕生を祝福しておりました! 空も重く厚い雲が割れ、天から光が差し込むほどに! そして、アリス様の可愛さの前には多くの命がひれ伏し、その魂を捧げたとされております。これほどの愛らしさを持った方は歴史上にもそう多くは居ません。いえ! アリス様より愛らしい方など、存在する筈が無いのです!!」
「くっ……ふぅ」
あ、泣きそう。
でも、ごめん。
私じゃ先生は止められないんだ。
だから、ごめん。アリスちゃん。
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