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5章 第三、第四の街 ブリジア・ギガンテス
60話 ゴブリンの群れ
しおりを挟むウォルトスを後にした俺達は次の街へ向けて歩いていた。
しかし特に行先は決まっておらず、ユーリが指差す方向へただ進んでいた。
その間に俺は今後の方針について、一人考え込んでいた。
――四天王達の相手をアイリスに押し付けてしまったけど大丈夫だろうか?
でも本当に俺も手一杯だし、会った事もないお爺達に構っていられない。
それにお爺達の狙いは俺なわけだし、その内勝手に向こうからやって来るだろう。
その時にちゃんと成仏させてやればいいか。
それより問題は五芒星の三人だな。
シエスタとロクサーヌとゴラムだったっけ。
アイツらが今、魔王城にいなかったということは既に何処かで悪事を働いているのは間違いないよな。
その三人を優先的に探し出して悪事を止めつつ、知恵なき魔物達も人間を襲わない様に何か考えないといけないな……。
あぁ、もう……! やる事が多すぎる!
とてもじゃないけど裁ききれん!
もうこれ以上は何も起きてくれるなよ……?
俺はこうして盛大にフラグを立てつつユーリ達の後に続いて歩き続けていた。
すると――
「いたっ……!!」
俺は前を歩いていたセリーヌの脚にぶつかった。
「あ! ごめん、エルきゅん……! 大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ! それより何で急に止まったの?」
そう。俺がセリーヌにぶつかってしまったのは彼女が突然足を止めたからである。
俺が考え事をして前を向いていなかったのも要因ではあるが。
それより一体何があったのか。
俺はセリーヌの脚の横から顔を出し、前方を確認した。
「ひぃぃぃぃ……! や、やめてぇ……!」
するとそこには三体のゴブリンに襲われて情けない声を上げている男冒険者がいた。
「やっぱり……。こっちから誰かが助けを求める声がしたんだよね!」
ユーリは自慢げに話しているが、周りのメンバーからの視線は冷たいものだった。
――嘘つけアホめ。
どうせ適当に歩いて来たものの一向に街に辿り着かないし、今更誰かに道を聞くのもなーとか考えていたんだろ。
「ユーリ、あの人を助けたら何かお礼をくれるかもとか考えてる?」
「何を言ってるんだエル? 勇者たるもの、見返りを求めて人助けはしないんだぞ?」
――何を偉そうな事を……。
「へーすごいねー。でももしかしたらお礼として、次の街まで道案内してくれるかもよ?」
「よし。今すぐ助けるぞ。みんな! 手伝って!」
――やっぱり道がわかってなかったんじゃねーか!
ったく……方角も距離すらもわからないアホなんだからイキらずに素直に聞けばいいだろうが……。
それからゴブリン三体くらい君一人で倒してみせなさい?
君、勇者なんでしょ?
すると俺の心の声を聞いたかの様にセリーヌが口を開いた。
「ゴブリン三体だけでしょ? ユーリ一人でも十分ね」
「リリィもそう思う……。無駄に魔力を使いたくない……」
「何ならオイラが代わりにやりましょうか?」
セリーヌに続きリリィとボンズも口を開いた。
そして俺は三人から今までにない逞しさを感じた。
――セリーヌとリリィは元からあんな事を言いそうではあるけど、ボンズが自分から魔物と戦うと言い出すとは……。
成長したんだな……うぅ。
皆が成長していておじさん嬉しいよ。
「えぇ? 何でみんなそんな感じなのさ? ……わかったよ! 俺一人でやるからいいよもう!」
そう言うとユーリは男冒険者の元へと駆け寄った。
そして男に大丈夫かと声を掛け、無事を確認すると彼を守る様に前に立ち聖剣を構えた。
「おぉ。ユーリ、まるで勇者みたいだね」
俺はあまりのユーリの勇者ムーブに思わず心の声を表に出してしまった。
「エルきゅん? まるでじゃなくて、ユーリはちゃんと勇者よ?」
俺の言い方が悪かったのか、セリーヌはすかさず俺にツッコミを入れた。
「あぁ、そうだったね! 普段がちょっとアレすぎて、なんか不思議な感じがしただけだよ!」
「まぁ……確かに彼、普段はアレよねぇ」
「アレ……ですね」
「アレだね……」
俺の言葉の後にセリーヌ、ボンズ、リリィも同じ様に続けた。
――聞いてるか、勇者ユーリよ?
パーティメンバー全員からアレだと言われているぞ?
こんな時だけ勇敢な顔して立ち向かっているけど、君の事をみんな普段はアレだと思っているんだぞー?
しっかりしろー? アホ勇者ー?
「ひぃぃぃー!!! また来ちゃったよー……!」
俺達が呑気にそう話しているとユーリに守られているはずの男冒険者が突然悲鳴を上げた。
「来た……? 何が来たんだい?」
ユーリは振り返って男にそう問うた。
「ぼ、僕、実は魔物を呼び寄せてしまう体質みたいなんです……」
「何だって!?」
ユーリは酷く驚いた表情を見せた。
すると荒野の遠くの方から土煙を上げてゴブリンの大群が押し寄せてきた。
「うわぁ……これはちょっと、まずいわね」
セリーヌは遠くに見えるゴブリンの群れを見て少し顔を引きつらせていた。
「リリィの修行の成果を見せる時が来た……!」
「お、オイラはまた今度でもいいかな。リリィにこの場は譲るよ……ははは」
リリィは杖をブンブン振り回しやる気十分といった感じだった。
それに比べてボンズは今まで通り臆病風を吹かせていた。
「駄目だよボンズ! みんなで力を合わせなきゃあの数は倒せないよ!?」
「でもね、エル君。オイラだって怖いんだよ?」
「大丈夫だよ、エル……。リリィに任せて……! 【アイスロック】からの……【ファイアダンク】……!!」
ボンズが怯えている内にリリィはアイリスとの修行中にずっとぶっぱなしていた二つの魔法を放った。
さすがは範囲攻撃なだけあって狙いが定まっていなくてもゴブリンの大群の大半が一瞬で消し飛んだ。
「やるわね、リリィ! どんな修行をしたの?」
「ふふん……! 内緒の特訓だよ……!」
「えー? 何それー? 教えなさいよー!」
「いーやーだー……!」
セリーヌとリリィは戦闘中だというのに何だかとても楽しそうにしていた。
一方ボンズはというと――
「オイラはやっぱり駄目なんだ……。マッゾさんに修行してもらったのに結局ビビって何も出来なかった……」
――わかりやすく落ち込んでいた。
「ボンズ……? まだゴブリンは残ってるし、きっとボンズにも活躍の場があるよ。きっと!」
「エル君……!」
俺は何とかボンズを励まそうと声を掛けた。
するとボンズは涙を目に溜めながら俺の顔をじっと見た。
「オイラ次こそは頑張る……!」
「うん! その意気だよ!」
そう言うとボンズは顔を上げゴブリンの残党を睨み付けた。
しかしリリィが大半のゴブリン達を消し飛ばしたお陰か、奥に隠れていた大物が姿を現した。
「ゲェ……あのゴブリンちょっとでかくない?」
その頃三体のゴブリンを何とか倒していたユーリがその大物を目にして少し後ずさりしていた。
すると先まではしゃいでいたセリーヌとリリィもその大物を見るやいなや、その元気を失っていった。
「あれってゴブリンロードよね……?」
「うん……。ゴブリンの群れを率いる強敵って聞いた事があるよ……」
――おいおい、ここに来てゴブリンロード襲来とかマジか……。
俺はともかくユーリ達にはまだ早いだろ。
でも今までの魔物の中にあれクラスの奴はいなかったよな……?
最近魔物の動きが活発化しているのに何か関係があるのかもしれないな。
俺が思案していると、俺の後ろでずっと黙っていたスカーレットが突然口を開いた。
「エル様。私、ようやく閃きました!」
「うぉっ!? びっくりした……。――コホン。何を閃いたのだ……?」
「エル様のアルバムのサブタイトルです!」
――珍しくずっと黙っていると思えば、この馬鹿なお世話係は何を言っているんだ?
仲間が全員やられてしまうかもしれないというこの状況で。
「はぁ……。馬鹿な事言ってないでさっさとあのゴブリンロードを始末して来い」
「えぇ……少しは聞いてくださいよー」
「そんなものはどうでもいいし、聞く気もないわ。それよりも、あのゴブリンロードを何とかしろ」
「一生懸命考えたのに……。わかりました……行って参ります」
「頼む。――あぁそうそう。そのゴブリンには話があるから殺さないでくれ」
「承知しました……」
スカーレットはそう言うとうつむき加減で颯爽と走り出し、ゴブリンロードの懐へと潜り込んだ。
そして――――
「あなたのせいでエル様に新しいアルバムの名前をお伝えするタイミングを逃してしまったではありませんか。せっかく考えましたのに。まったく……許しませんからね……! 【フル・ドレイン】」
――スカーレットはゴブリンロードの腹に手を当て【フル・ドレイン】を唱えた。
「うぐぅォォァアアアア!」
するとゴブリンロードは物凄く苦しそうな声を上げながらみるみる内に萎んで行った。
因みに【フル・ドレイン】とはサキュバス固有のスキルで相手の精気を吸い取るというものらしい。
「ふぅ……。このくらいにしておいてあげます。エル様が殺すなと命じられましたので」
スカーレットはそう言うとゴブリンロードから手を離し数歩後ろへ下がり距離を取った。
するとゴブリンロードは前向きに倒れ意識を失った。
そしてゴブリンロードの統率が無くなった途端、残党達は縦横無尽に駆け回り始めた。
しかしユーリ、セリーヌ、リリィは突然の事に動揺し動けずにいた。
するとボンズが全員の前に立ち、大きく腕を広げ叫び声を上げた。
「ご褒美いただきまぁぁぁぁす!!!」
そして俺は絶句した――――
因みにスカーレットが考えたアルバムのタイトルは『エル様すくすく成長記録~うちの魔王様が可愛すぎて婚期を逃してしまったが最早そんな事はどうでもいい! 私はこの子を一生愛でていきます!~』という何ともふざけたラノベタイトルの様な物だった。
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