人生初の友達ができたので一緒に世界救ってきます (せかます)

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章1

氷の世界の死者蘇生(2)

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 リファスの話によると、表面に見えている部分や既に宝石化して動かせなくなっている場所以外にも体内のあちこちで宝石化が進んでおり、それらを今むりやりスキルで切除してしまうと命を落とす危険がある、とのことだった。

 宝石化といっても、肉体が少しずつ硬くなって石になるのではなく、小さな粒単位で肉体が宝石に変換されていっている、というのが正しい現状らしい。

 その辺は、体液が宝石になっていたのと同じか。

「君は、この手を治療するために私を頼って来てくれたのかい?」
「は、はい、それと、イベントクエストで……」

 勝宏の方に視線を向ける。
 そちらの目的まで話してしまっていいものか迷ったが、イベントの通知は全転生者に行き届いている。
 透が話さなくとも、ダンジョンに足を運ぶのを視野に入れていることなど容易に推測できるだろう。

 リファスがああ、と相槌をうつ。

「あの、町外れの氷のダンジョンだね。あそこだったら、確か階層は全部で40層のはずだよ。私も防衛側に配置されてしまったみたいでね、天然のダンジョンだけどメニューから情報が見れるんだ」

「え? い、いいんですか……?」

 防衛側ならば、攻略側である自分たちとは敵対する勢力だ。
 調べれば入手できる程度の情報かもしれないが、そう簡単に教えられるものだろうか。

「いいんだよ。なんならダンジョンの見取り図も描いてあげようか」

 勝宏もこれには驚いたようで、リファスが机から紙を取り出したのを見て目を瞬かせている。

「君たちは、ポイント交換所のスキル一覧に目を通したことはあるかな」
「いえ、俺は……」

「あれにはね、実はすべてのスキルが載っているわけじゃないんだ。一覧の中にないスキルは、ポイント交換じゃ手に入らない。私が欲しいスキルも、その中には無くてね。だからポイント集めはどうでもいいんだよ」

 なるほど。
 転生者ゲームに興味がないというほど平和主義でもないが、欲しいスキルが手に入らないなら危険を冒してまでポイント集めをする意味がない、ということらしい。

 イベントに消極的な理由が明確だと信憑性がある。

 階層を下る扉の位置とトラップのメモを簡単に書き記したリファスが、それを勝宏に手渡して微笑んだ。

「予定が合えば、明日もおいで。透くんの症状について、調べておいてあげるから」



 診療所からの帰り道、詩絵里たちから頼まれていたものを町で購入していく。

 買うものリストは主に食料だ。透の手が使えなくなってしまった今、ダンジョン内での食料調達は難しい。
 透はというと、弁当やハンバーガーを買ってくるくらいはできると主張したかったのだが、言い切る前に勝宏に止められてしまった。

「変なやつだったよな」

 リファスの何が気に入らなかったのかは分からないが、ダンジョンのメモを渡される前のマイナスな感情を思い出してしまったのだろう。
 隣を歩く勝宏の表情は拗ねた子供のようだ。

「なんか手つきえろかったし」
「そ、そうかな……」

 彼が不機嫌な理由になんとなく見当がついた。
 哲司のことがあったおかげで、透を心配してくれているのだろう。

「でも、腕は良いみたいだよな。町の皆にも慕われてるっぽいじゃん」
「うん。調べてくれるって、いいひとだよね」

 買い物がてら、町人にリファスの話を訊ねてみると皆そろって「あの人がこの町にいるだけで怪我や病気への不安がなくなる」と言っていた。
 お金を持たない人にも、症状を軽くするための対処方法を教えるなど分け隔てなく接しているようである。

「明日も行ってみるか?」

「うん。でも、ダンジョン攻略の方もやらないと」

 せっかく調べてくれると言われたのだから、話は聞きに行くべきだ。
 しかしマジックアイテムに縛られている以上、ダンジョン攻略の方を怠るのもまずい。

「そのへんは詩絵里たちに相談だな。俺も一緒に行くし」

 勝宏の付き添いはやはり、必要だろう。
 時間をかければ一人でも着替えられるが、他にリファスのことを待っている人がいるのに診療所でもたもたしているわけにはいかない。

 普段使えていた手が急に使えなくなるだけで、こんなに迷惑をかけることになるとは思っていなかった。

「ごめんね、俺今、手が使えないから……」
「あいつのとこに透一人で行かせるの、なんか心配なんだよ」

 介護だけでなくそっちまで、気を遣ってもらって申し訳ない。
 おつかいを終えて宿に戻ったところで、ウィルが話しかけてくる。

『透、今日はもうどこにも出ねえな?』
(え? う、うん……もうご飯は作れないし、こっちで寝るつもりだし……)

『俺ちょっと野暮用ができたんだが、大丈夫か』
(あ、うん。いってらっしゃい。……早めに、戻ってきてね)

『ああ。まあたいして時間かからねえけどな』

 こちらの心細さを感じ取ったのだろうウィルが、くっと笑った。

『契約だからな、勝手にいなくなったりしねえさ。俺が戻るまで、絶対に宿から出るなよ』

 続けて、勝宏たちを森に迎えに行った時と同じように他の悪魔が来ても言葉に耳を貸すなだの、何かあったら俺を呼べだのとあれこれ付け加えられていく。
 聞いているうちにだんだんざわついていた心が落ち着いてくる。

 それを見て取ったウィルは、おやすみ、と一回転して消えた。

「透? どうした?」
「う、うん、なんでもない……」

 買ってきたものはすべて勝宏のアイテムボックスの中。
 詩絵里たちの待つテーブルの上に購入物をひととおり出し終えて、勝宏がこちらを振り返る。
 既に女性メンバーは買い忘れがないか確認を始めてくれているところで、未だ部屋の入り口に立ったままの透は不自然に思えたに違いない。

 勝宏のそばに歩み寄って、声を潜める。

「前に話した、精霊……みたいな子、が、ちょっと用があるっていなくなっちゃったから」
「じゃあ、今の透は転移できねえの」

「うん。だから、気をつけてって言われてたところ、だったんだ」

 詩絵里はいま、事情を説明できないルイーザの隣にいる。
 同じことを彼女に伝えるのは難しいだろう。
 勝宏が頷く。

「そういうことなら、そいつが戻ってくるまで宿から出ないほうがいいな。俺今日、同じベッドで寝ようか?」

「そ、そこまでしなくていいよ……」

 男女別で2部屋取れたのだから、わざわざ勝宏に小さなベッドできゅうくつな思いをさせることはない。

 詩絵里がこちらを振り返る。

「特に買い忘れはないみたいよ。じゃああと半分はそっちでしまっておいてね」

 食料の半分を自分のアイテムボックスに収納して、女性メンバーは揃って部屋を出て行った。
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