人生初の友達ができたので一緒に世界救ってきます (せかます)

す!ず!は!

文字の大きさ
170 / 193
章1

幕間 【どこかの世界の誰かの話:灯火】 (1)※

しおりを挟む
「あれ、それおれが日本から持ってきた本……え、読んでんの? 読めんのウィリー?」

「読めねえ」

「じゃあなんで見てるんだよ」

「暇つぶしだ」

 経験を重ねるごとにだんだんしつこくねちっこくなっていくセックスからようやく解放されて、俺はつい先ほどまで男を受け入れていたベッドで本のページを捲っていた。

 このページで最後だ。
 1ページ、目を通すのに3秒。本のページ数はたったの320。
 ヤクモが風呂に行って戻ってくるまでのきっかり16分でちょうど一冊といったところか。

「おれが読み聞かせてやろっか?」

「いらん」

「またまたー。あ、そうだ。三章だったかな、たんぽぽコーヒーの作り方、挿絵付きでちゃんと載ってるんだぞ。えーと……」

「106ページ目だ」

 俺の手から本を抜き取ったヤクモにそう言い添えてやると、彼は言われたとおりに106ページ目を捲った。

「ほんとだ。……って、読めてんじゃん」

「読めねえよ。飲み物の挿絵がついてるのはそこだけだろ」

「だからってページ数までは、数字が分からないと……まさかウィリー、全部覚えてんの? それを最初から数えて?」

「ああ。俺みたいな仕事してると、便利なスキルだ」

 実際には、一瞬だけ見たものを覚えていられるのは一日か二日。
 ほんのわずかな時間だけだ。

 覚えていられるうちに何度も繰り返し思い出して、頭に焼き付けていくことで、頭の中にデータとして残る。

「スキルってったって、この世界にそういう身体能力強化~みたいなやつないじゃん。あるのはガイアと魔法だけで……」

「たまにな、そういう子供が生まれる。見たものすべてを記憶できるような……まあ、分類上は病の一種とされているが」

「なんか日本でも聞いたことある! カメラアイだったっけ、ゲームの名人とかにたまにいるって話」

「忘れられないってのは、それほどいいもんじゃないがな」

 それだけ言って、ベッドに潜ろうとするヤクモの代わりにベッドから降りる。

 自分もさっさと風呂に入って休もう。そう思って、ベッドの下に散らばった衣服に手を伸ばした。
 浅いところに溜まっていた彼の精液が、下肢を伝う。

「うわ」

「なんだ?」

「ご、ごめん……あの……も一回、だめ?」

「……好きにしろ」

 何に催したんだか知らないが、最近闇目討伐がないからって無茶しすぎじゃないか、これは。

 降りたばかりのベッドの縁に膝を乗せる。

 もうあと少しもすれば夜が明けてしまう。
 さすがに断ってやったほうがよかったのだろうが、今はこれが自分の仕事だ。



「ウィリー、やらしい……」

 背後から腕の中に閉じ込められ、尻たぶに彼の股間がぐり、と押し付けられる。

 一晩で何度も発射され、かき出しすらできていないそこは女の性器のようにしとどに濡れていた。

 やらしいもなにも、おまえの出したもんだからなそれ全部。

 反論はベッドの中では飲み込むものだ。

 本当に彼と恋仲だというならともかく、少なくとも自分にとっては勇者の夜伽を任されただけでしかないのだから。

 首に噛みつかれ、彼の手が前に回される。

 この一晩でさんざん強制的に絶頂に追いやられていたので、いくらなんでももう出ないだろう。
 こちらの疲労などお構いなしに、無遠慮な手がそこを擦る。

「ひっ……! あ、待、ばか、あ、ん!」

 だいたいおまえがヤりたいだけなんだから、俺のことなんか気にせずてきとうに突っ込んで出してりゃいいんだ。

 これも口にはせず飲み込む。
 いまはどのみち口を開けば嬌声にしかならないが。

「っあ、ああ……! は、あん……ああ……!」

 男の上げるはしたない声にどうしたらそうも欲情できるのか、背中にぴったりくっついたヤクモは息を荒くしてがちがちに勃起させている。

「好きだ」

 泣きたくなってきた。
 仕事は順調そのもの、関係性も体の相性も良好、これだけ夢中になってくれているならなんの問題もないのに。

 ――悪いな、俺は別に好きでもなんでもないんだ。

 そう返してやることがきっと、本当は彼のためなのだろう。

「あ、……っヤクモ、もっと……、いって」

 後ろから穿とうとしてくる男を振り返って、その体を抱き寄せる。

 快楽に溺れた自分の顔は、盲目的な恋をしている表情に見えるだろうか。

 ……仕事、ね。
 これでは、レイアのやっていることと何も変わらない。

 ああ、いや。それこそ今更か。
 既に片棒を担がされている。

 レイアと自分たちは、皆一様に共犯者なのだ。

「好き。ウィリー、大好き」

 言葉だけの確認作業。
 ヤクモは幸せそうに、ふにゃっと笑って繰り返してくる。

 触れてくる熱い指先も、押し入ってくる彼の欲望も。

 この男に抱かれることに悦びを覚えている自分も。

「ああ……ヤクモ」

 なにもかも、これは。

「俺も、好きだ――」

 そういう感情では、ない。



 彼と同じ気持ちを返すことが出来ない。
 返しているのは偽物の愛の言葉だけで、それに気付く様子もなくそんなものに浮かれて喜んでいるヤクモを見ているのは、いい加減つらかった。

 上司の思惑など知ったことではない。
 だいいち、よその世界から子供を拉致同然に連れてきて戦わせようっていうのがそもそも気に入らない計画だったのだ。

 監視を誤魔化しやすいのは、ヤクモと体を重ねて眠りについてから、夜が明けるまでの間。
 行為中はほぼ間違いなく第三者に見張られている。

 その時間を使って調べるのは、勇者召喚の際レイアに力を貸したという、悪魔イグニス・ファトゥスについてだ。

 要人のプライベートルームに忍び込むのは慣れたものだ。
 ターゲットが今回は身内、上司であるレイアだというだけで、表向きの仕事となんら変わりはない。

 彼女の持つ資料をわずかな時間だけ拝借して、持ち出さずに暗記して戻ることを繰り返した。

 悪魔イグニス・ファトゥスに力を借りる場合、おおまかには三通りの方法から選ぶことになる。

 レイアと同じ方法では、自分には人柱の用意が難しい。
 現実的ではないだろう。

 ”契約”では、悪魔本体と契約者本人の二人だけしか世界を渡ることはできない。

 つまりこれらの手段では、彼を別の世界に連れ帰ってやれないわけだ。

 残るは、人間が悪魔イグニス・ファトゥスに融合し、主導権を自分が握ること。

 今のところ、もっとも効率的な手段だ。

 レイアの部屋で記憶してきた悪魔召喚の手順を整え、接触を試みる。

『……あら。あなた、いい香りがするわね』

 夜闇の中にゆらりと浮かび上がった火の玉が、知らない女の声で話しかけてきた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

転生したらBLゲームのホスト教師だったのでオネエ様になろうと思う

ラットピア
BL
毎日BLゲームだけが生き甲斐の社畜系腐男子凛時(りんじ)は会社(まっくろ♡)からの帰り、信号を渡る子供に突っ込んでいくトラックから子供を守るため飛び出し、トラックに衝突され、最近ハマっているBLゲームを全クリできていないことを悔やみながら目を閉じる。 次に目を覚ますとハマっていたBLゲームの攻略最低難易度のホスト教員籠目 暁(かごめ あかつき)になっていた。BLは見る派で自分がなる気はない凛時は何をとち狂ったのかオネエになることを決めた オチ決定しました〜☺️ ※印はR18です(際どいやつもつけてます) 毎日20時更新 三十話超えたら長編に移行します メインストーリー開始時 暁→28歳 教員6年目 凛時転生時 暁→19歳 大学1年生(入学当日) 訂正箇所見つけ次第訂正してます。間違い探しみたいに探してみてね⭐︎ 11/24 大変際どかったためR18に移行しました 12/3 書記くんのお名前変更しました。今は戌亥 修馬(いぬい しゅうま)くんです

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? 夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)は、見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良ワーウルフの悪友(同級生)まで……なぜかイケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、異世界学園BLラブコメディ! 毎日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

溺愛の加速が尋常じゃない!?~味方作りに全振りしたら兄たちに溺愛されました~

液体猫(299)
BL
毎日AM2:10分に予約投稿。   【《血の繋がりは"絶対"ではない。》この言葉を胸にクリスがひたすら愛され、大好きな兄と暮らす】  アルバディア王国の第五皇子クリスは冤罪によって処刑されてしまう。  次に目を覚ましたとき、九年前へと戻っていた。    巻き戻す前の世界とは異なるけれど同じ場所で、クリスは生き残るために知恵を振り絞る。  かわいい末っ子が過保護な兄たちに可愛がられ、溺愛されていく。  やり直しもほどほどに。罪を着せた者への復讐はついで。そんな気持ちで新たな人生を謳歌する、コミカル&シリアスなハッピーエンド確定物語。  主人公は後に18歳へと成長します(*・ω・)*_ _)ペコリ ⚠️濡れ場のサブタイトルに*のマークがついてます。冒頭のみ重い展開あり。それ以降はコミカルでほのぼの✌ ⚠️本格的な塗れ場シーンは三章(18歳になって)からとなります。

処理中です...