西伊豆の廃屋から東京のタワマンへ。美しき食人鬼たちは、人間を喰らって愛を成す

秦江湖

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魔城の年代記(4:最初の狩り)

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 静かな夜だった。  あたしとお兄様は、リビングのソファで寄り添っていた。

  電気は消している。  お兄様の新しい目は、暗闇の中でもよく見えるし、あたしも夜の方が落ち着くから。

  窓の外から聞こえる雨音と、互いの鼓動だけが、世界の全てだった。



 ブォォォォォン!!

 突如、下品な爆音が静寂を引き裂いた。  エンジンの音だ。しかも一台じゃない。  強いライトの光が、カーテンの隙間から差し込み、天井を薙ぎ払う。


「……来たね」

 お兄様が、本を閉じた。  その顔に、不快感が走る。

  あたしは鼻をひくつかせた。  安っぽいコロン。汗。タバコ。そして、浮ついた興奮の臭い。  犬飼のような「恐怖」も、里見先生のような「正義」もない。  ただの好奇心と、悪意だけで膨れ上がった、中身のない人間たち。


 ガヤガヤと、騒がしい声が近づいてくる。


『うぇーい! 着いたぜ、一家心中屋敷!』

 『マジで雰囲気ヤバく音? 霊感あるから頭痛いんだけど~』 

『はい、配信開始しまーす! 今日の肝試しはガチでヤバいとこ来ました!』


 門を乗り越える音。  庭の土を踏み荒らす音。 

 3人……いいえ、4人だ。男が3人に、女が1人。  彼らは手に持った小さな機械(スマホ)に向かって喋りながら、ズカズカと敷地内に入ってくる。


「……排除してくる」


 あたしが立ち上がろうとすると、お兄様の手がそれを制した。  大きくて、硬い手。  爪が伸びた指先が、あたしの肩を優しく押す。


「いいよ、世璃。座っていて」


 お兄様が立ち上がった。  その動きは、以前のような緩慢なものではなく、肉食獣のようにしなやかで、音がない。

  暗闇の中で、お兄様の瞳が金色に光った気がした。



「僕たちの城だ。  ……掃除くらい、主である僕がやるよ」


 お兄様はニッコリと笑った。  それは、獲物を見つけた猛禽類の笑顔だった。
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