西伊豆の廃屋から東京のタワマンへ。美しき食人鬼たちは、人間を喰らって愛を成す

秦江湖

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番外編 里帰り編(2):饗宴の夜

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  村の夜は、都会のそれとは比べものにならないほど深い。

  街灯などほとんどない路地を、あたしは鼻歌まじりに歩く。背中からは黒い触手が、獲物を見つけた蜘蛛の脚のように、周囲の家の壁を愛おしそうに撫で回していた。


「まずは、あの家からにしようかな」


 あたしが指差したのは、村の区長を長年務めていた男の家だ。  かつて、あたしたちを「不浄」と呼び、父様と母様が行う禁忌の儀式を敵視した、あの男。

 拝み雇と自警団を差し向けて、あたしとお兄様に無謀にも嫌がらせをしてきた、おバカなカエル。

 
  家は大きくても古い。

  あたしからすれば、鍵などかかっていないに等しい古い木造のドア。

  ノブに触れることすらなく、背中の触手で扉を「粉砕」して中に入った。



 「な、なんだ!? 泥棒か!?」


  奥の寝室から、パジャマ姿の老いさらばえた区長が這い出してくる。 

  あたしは、鏡の前で練習した通りの「那美お姉ちゃん」の笑顔で、彼を迎えた。



 「こんばんは。……おじさん、お久しぶり。那美だよ。……ううん、世璃だよ」

 「な……!? なぜ、お前たちがここに……!」


  男の顔が、恐怖で土色に変わる。

   あたしは迷いなく、彼の喉元に飛び込んだ。 

   ガブッ!…… ブチブチッ!

  悲鳴を上げる暇も与えない。

   あたしの口は、耳元まで裂け、鋭い牙が男の細い首を軽々と断ち切った。

   噴き出す温かい「命」の味。東京の洗練された獲物も美味しいけれど、憎しみの詰まったこの村の人間たちの味は、また格別なコクがある。


  「世璃、そんなところで時間を食っていては、夜が明けてしまうよ」

  背後から、お兄様の静かな声がした。  お兄様は玄関先に立ち、左足を一歩、強く踏み鳴らした。

  ドォォォォン……!

  地響きとともに、家全体が泥の中に沈み込んでいくような錯覚。

   移植された「泥の王」の力が、地面を通じて村全体へと侵食を開始していた。

   村の家々の隙間から、黒い泥が溢れ出し、住人たちの悲鳴が夜の闇に次々と吸い込まれていく。

  異変を察知して、家から出てきた連中は、公民館へ避難を始めた。



  「お兄様、一軒ずつ食べるって約束したじゃない!」

  「ああ、わかっているよ。……でも、デザートはまとめて食べたほうが美味しいだろう?」


   お兄様が指をさす。その先には村の公民館があった。

  「世璃。あれだよ。逃げてる奴らを燻りだして、逃げ場をなくす」

  「OK!お兄様」

 

  村の中心部にある公民館に、二人で手をかざす。

  屋根が、目に見えない巨大な力で押し潰された。

   中に逃げ込んでいた連中が、ゴミのように外へ放り出される。



  あたしは、逃げ惑う人々の群れの中へ、喜悦の声を上げて飛び込んだ。

   ある者は手首をへし折り、ある者は腹を裂き、ある者は頭から丸呑みにする。

   かつてあたしたちを「忌み嫌い星殺そうとした」連中が、今は泣き叫びながら、あたしたちの「肉」になるのを待っている。


 「いい、お兄様。もっと、もっと! 全部、あたしたちの栄養にしちゃおう!」


  あたしたちは、月明かりの下で踊るように、村を喰らい尽くしていった。 


  一晩。お兄様が言った通り。


   この村が積み上げてきた数百年の因習も、罪も、誇りも、すべてはあたしたち二人の飢えを満たすためだけの、ささやかな供物に過ぎなかった。

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