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番外編 里帰り編(3):愛の城へ
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空の端が、薄い紫に染まり始めていた。
鳥の声さえ聞こえない、完全なる沈黙。
つい数時間前まで、そこには家があり、畑があり、卑しい人間たちの営みがあったはずの場所。
今、そこには、ただ一面の、真っ赤な鉄の臭いが染みこんだ「泥」が広がっていた。
あたしは、お兄様の肩に頭を預け、満足感でいっぱいのお腹をさすった。
村は、文字通り「消えた」のだ。
お兄様の力が大地の底からすべてを呑み込み、あたしが地表にいた者たちを残さず咀嚼した。
家も、墓も、戸籍も、因習も、記憶も。
この場所から、人間という種が存在した痕跡が、一晩ですべて消失した。
「……終わったね、お兄様」
「ああ。……これで、地図は綺麗になった」
お兄様は、返り血を拭うことさえせず、朝露に濡れた泥の平原を見つめていた。
その瞳は、かつての絶望に沈んだ色ではなく、すべてを支配した王のそれだった。
背後では、犬飼がベントレーのドアを開けて待っている。
彼は、この惨劇を目にしても眉一つ動かさず、ただ忠実な番犬として、主人たちの帰還を待っていた。
「……世璃。お城へ帰ろう」
「うん。……あのお家、あたし、大好きだよ」
お兄様にあたしの手を引かれ、車に乗り込む。
もう、後ろを振り返る必要はない。
この泥の底に沈んだ過去は、あたしたちの血となり、肉となり、二度と引き剥がせない一部となったのだから。
車が山道を下り、朝陽に照らされた都会へと向かっていく。
窓の外の景色が、荒涼とした山から、やがて整然としたアスファルトへと変わる。
遠くに見える、東京の街並み。
その中心にそびえ立つ、自分たちの「お城」が見えてきた。
「ねえ、お兄様。……次は、何をしようか?」
「そうだね。……とりあえず、あの部屋で最高級のワインを開けよう。犬飼に、新しい獲物のリストを作らせてある」
お兄様の手が、あたしの首筋を愛おしそうになぞる。
その温もりがある限り、あたしはどこへだっていける。
たとえそこが、天国であっても、地獄であっても。
東京・港区。 一千万人の欲望が渦巻く都会の頂上で、あたしたちは今日も、誰にも見られず、誰にも触れられず、美しく、残酷に、愛を成す。
あたしたちの物語に、終わりなんてない。
この広い世界そのものが、あたしたちを養うための、大きな大きな、狩場なのだから。
鳥の声さえ聞こえない、完全なる沈黙。
つい数時間前まで、そこには家があり、畑があり、卑しい人間たちの営みがあったはずの場所。
今、そこには、ただ一面の、真っ赤な鉄の臭いが染みこんだ「泥」が広がっていた。
あたしは、お兄様の肩に頭を預け、満足感でいっぱいのお腹をさすった。
村は、文字通り「消えた」のだ。
お兄様の力が大地の底からすべてを呑み込み、あたしが地表にいた者たちを残さず咀嚼した。
家も、墓も、戸籍も、因習も、記憶も。
この場所から、人間という種が存在した痕跡が、一晩ですべて消失した。
「……終わったね、お兄様」
「ああ。……これで、地図は綺麗になった」
お兄様は、返り血を拭うことさえせず、朝露に濡れた泥の平原を見つめていた。
その瞳は、かつての絶望に沈んだ色ではなく、すべてを支配した王のそれだった。
背後では、犬飼がベントレーのドアを開けて待っている。
彼は、この惨劇を目にしても眉一つ動かさず、ただ忠実な番犬として、主人たちの帰還を待っていた。
「……世璃。お城へ帰ろう」
「うん。……あのお家、あたし、大好きだよ」
お兄様にあたしの手を引かれ、車に乗り込む。
もう、後ろを振り返る必要はない。
この泥の底に沈んだ過去は、あたしたちの血となり、肉となり、二度と引き剥がせない一部となったのだから。
車が山道を下り、朝陽に照らされた都会へと向かっていく。
窓の外の景色が、荒涼とした山から、やがて整然としたアスファルトへと変わる。
遠くに見える、東京の街並み。
その中心にそびえ立つ、自分たちの「お城」が見えてきた。
「ねえ、お兄様。……次は、何をしようか?」
「そうだね。……とりあえず、あの部屋で最高級のワインを開けよう。犬飼に、新しい獲物のリストを作らせてある」
お兄様の手が、あたしの首筋を愛おしそうになぞる。
その温もりがある限り、あたしはどこへだっていける。
たとえそこが、天国であっても、地獄であっても。
東京・港区。 一千万人の欲望が渦巻く都会の頂上で、あたしたちは今日も、誰にも見られず、誰にも触れられず、美しく、残酷に、愛を成す。
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この広い世界そのものが、あたしたちを養うための、大きな大きな、狩場なのだから。
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