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忍び寄る影と、氷の公爵の怒り
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ノースガル公国での穏やかな生活を切り裂くように、ルミナリス王国からの使者が現れた。
吹雪の合間を縫って城門に現れたのは、黄金の国の紋章を掲げた一隊だった。リーダー格の男は、アデリーンを「欠陥品」と罵ったあの日、王子の側近として冷笑を浮かべていたバルト男爵だ。
報告を受けたゼノスの瞳が、瞬時に凍てつくような殺気を帯びた。
彼は謁見の間にアデリーンを同行させた。逃げるのではなく、彼女が今、誰の強固な庇護下にいるのかをルミナリスの連中に知らしめるためだ。
「……久しいな、バルト男爵。我が領地はルミナリスのような『光の加護』はない。吹雪で喉を痛めたか?」
玉座に深く腰掛けたゼノスが、低く地を這うような声で言った。 バルト男爵は、ゼノスの隣に、見違えるほど美しく、そして誇り高い表情で立つアデリーンを見て、驚愕に目を見開いた。
「な……アデリーン!? なぜ貴様のような無能が、閣下の隣に座っているのだ……!」
「無能だと? 私の賓客に対して、無礼が過ぎるぞ。……用件を言え」
ゼノスが指先を動かすと、謁見の間の気温が急激に下がり、床の石畳が白く凍りついた。バルトは身震いしながら、懐から一枚の書状を取り出した。
「は、はい! 実は……先日アデリーンが追放された際、ベルグラード公爵家から『王国の至宝』が盗み出された疑いが出ております! 加えて、彼女がいなくなってから国内の精霊たちが不穏な動きを見せており……これを鎮めるべく、彼女を本国へ連行せよとのエリオット殿下の命です!」
アデリーンは息を呑んだ。 至宝など盗んでいない。それに、精霊が不穏なのは、調律師である自分を追い出したことが原因のはずだ。それを自分のせいにし、あまつさえ罪人として連れ戻そうとする王子の身勝手さに、アデリーンは震える拳を握りしめた。
「……引き渡せ、だと?」
ゼノスが静かに立ち上がった。 その瞬間、謁見の間全体が激しい振動に見舞われた。ゼノスの背後から、膨大な魔力が黒い影となって立ち昇り、巨大な狼の姿を形作る。
「彼女を連行するということは、我が公国の『主権』を冒し、私の『魂』を奪うということだ。……その覚悟があってここへ来たのか、ルミナリスの犬共め」
「ひ、ひぃ……!」
「待ってください、ゼノス様!」
アデリーンが咄嗟にゼノスの袖を掴んだ。 ゼノスの怒りは、自分への愛ゆえだとわかっていた。けれど、ここでこの男を殺せば、今の不穏な状況がさらに悪化し、アデリーンを案じる兄たちを窮地に立たせるかもしれない。
「……私は、二度とあの国へは戻りません。でも、ここで血を流す必要もありませんわ」
アデリーンは凛とした声で、震えるバルト男爵を見据えた。 彼女が手にした銀の扇子を軽く一振りすると、ゼノスの荒ぶる魔力が、嘘のように穏やかな霧へと変わった。
「閣下の仰る通りです。私は何も盗んでいません。……エリオット王子に伝えなさい。私は今、世界で一番幸せです。もう、私を探さないでください、と」
ゼノスはアデリーンの手に指を絡め、バルトに向けて冷たく言い放った。
「……聞こえたか。三秒以内に私の視界から消えろ。さもなくば、お前たちの命で、この冷たい床を磨くことになるぞ」
バルト男爵たちは、悲鳴を上げながら逃げ出していった。その様子を、王国の郊外で見守る三人の兄たち。
「公爵様、なかなかいい反応だね。アデリーンを守る意志は本物のようだ」
三男ファビアンが、楽しげに肩を揺らす。
「……バルトが動いた。これで王子が『友好国を挑発した』という事実が貴族たちの間に広がる。……一歩一歩だ。アデリーンを傷つけたすべてを、確実に詰ませていくぞ」
長男マクシミリアンが、暗い情熱を瞳に宿して頷いた。
吹雪の合間を縫って城門に現れたのは、黄金の国の紋章を掲げた一隊だった。リーダー格の男は、アデリーンを「欠陥品」と罵ったあの日、王子の側近として冷笑を浮かべていたバルト男爵だ。
報告を受けたゼノスの瞳が、瞬時に凍てつくような殺気を帯びた。
彼は謁見の間にアデリーンを同行させた。逃げるのではなく、彼女が今、誰の強固な庇護下にいるのかをルミナリスの連中に知らしめるためだ。
「……久しいな、バルト男爵。我が領地はルミナリスのような『光の加護』はない。吹雪で喉を痛めたか?」
玉座に深く腰掛けたゼノスが、低く地を這うような声で言った。 バルト男爵は、ゼノスの隣に、見違えるほど美しく、そして誇り高い表情で立つアデリーンを見て、驚愕に目を見開いた。
「な……アデリーン!? なぜ貴様のような無能が、閣下の隣に座っているのだ……!」
「無能だと? 私の賓客に対して、無礼が過ぎるぞ。……用件を言え」
ゼノスが指先を動かすと、謁見の間の気温が急激に下がり、床の石畳が白く凍りついた。バルトは身震いしながら、懐から一枚の書状を取り出した。
「は、はい! 実は……先日アデリーンが追放された際、ベルグラード公爵家から『王国の至宝』が盗み出された疑いが出ております! 加えて、彼女がいなくなってから国内の精霊たちが不穏な動きを見せており……これを鎮めるべく、彼女を本国へ連行せよとのエリオット殿下の命です!」
アデリーンは息を呑んだ。 至宝など盗んでいない。それに、精霊が不穏なのは、調律師である自分を追い出したことが原因のはずだ。それを自分のせいにし、あまつさえ罪人として連れ戻そうとする王子の身勝手さに、アデリーンは震える拳を握りしめた。
「……引き渡せ、だと?」
ゼノスが静かに立ち上がった。 その瞬間、謁見の間全体が激しい振動に見舞われた。ゼノスの背後から、膨大な魔力が黒い影となって立ち昇り、巨大な狼の姿を形作る。
「彼女を連行するということは、我が公国の『主権』を冒し、私の『魂』を奪うということだ。……その覚悟があってここへ来たのか、ルミナリスの犬共め」
「ひ、ひぃ……!」
「待ってください、ゼノス様!」
アデリーンが咄嗟にゼノスの袖を掴んだ。 ゼノスの怒りは、自分への愛ゆえだとわかっていた。けれど、ここでこの男を殺せば、今の不穏な状況がさらに悪化し、アデリーンを案じる兄たちを窮地に立たせるかもしれない。
「……私は、二度とあの国へは戻りません。でも、ここで血を流す必要もありませんわ」
アデリーンは凛とした声で、震えるバルト男爵を見据えた。 彼女が手にした銀の扇子を軽く一振りすると、ゼノスの荒ぶる魔力が、嘘のように穏やかな霧へと変わった。
「閣下の仰る通りです。私は何も盗んでいません。……エリオット王子に伝えなさい。私は今、世界で一番幸せです。もう、私を探さないでください、と」
ゼノスはアデリーンの手に指を絡め、バルトに向けて冷たく言い放った。
「……聞こえたか。三秒以内に私の視界から消えろ。さもなくば、お前たちの命で、この冷たい床を磨くことになるぞ」
バルト男爵たちは、悲鳴を上げながら逃げ出していった。その様子を、王国の郊外で見守る三人の兄たち。
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「……バルトが動いた。これで王子が『友好国を挑発した』という事実が貴族たちの間に広がる。……一歩一歩だ。アデリーンを傷つけたすべてを、確実に詰ませていくぞ」
長男マクシミリアンが、暗い情熱を瞳に宿して頷いた。
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