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聖獣たちの茶会と、初めての贈り物
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ノースガル公国での生活は、アデリーンにとって驚きの連続だった。
黄金の国ルミナリスでは「冷酷な氷の公爵」と恐れられ、その名を聞くだけで子供が泣き止むとまで言われていたゼノスだったが、実際に接してみれば、彼は不器用なほどに誠実な男だった。
彼は言葉こそ少ないが、アデリーンの体調を気遣い、彼女が「調律師」として無理をしていないか、常に鋭い、けれど温かな視線を送っていたのである。
「……ふわぁ、みんな集まってきたわね」
ある日の午後、アデリーンは城の奥深くにある『氷晶の庭園』にいた。ここは魔力が泉のように湧き出る場所で、公国の精霊たちが最も好む聖域だ。
アデリーンが雪の上に腰を下ろすと、どこからともなく不思議な生き物たちが姿を現した。
雪原で助けた仔狼の『スノウ』は、今やアデリーンの影のように寄り添っている。それに加え、空を泳ぐように飛ぶ青い翼の氷鳥や、水晶のような角を持つ白鹿たちまでもが、彼女の周囲に集まってきた。
「みんな、今日は少しだけ、私の歌を聴いてくれる?」
アデリーンは銀の扇子をゆったりと揺らした。
ルミナリスで磨いた舞踏の仕草が、ここでは精霊たちとの対話の言葉となる。彼女が奏でる「静寂」の旋律は、聖獣たちの荒ぶる魔力を優しく鎮め、彼らの心に安らぎを与えていった。 聖獣たちはうっとりと目を細め、アデリーンの膝に顎を乗せたり、彼女の肩に羽を休めたりしている。その光景は、まるでおとぎ話のワンシーンのようだった。
「アデリーン。……ここにいたか」
低く、心地よい声が響く。振り返ると、ゼノスが重厚な足取りでこちらへ歩いてくるところだった。
途端に、聖獣たちが一斉に警戒の声を上げる。スノウにいたっては、アデリーンの前に立ち塞がり、公爵に向かって小さな牙を剥いてみせた。
「……私の城だぞ。主に向かってその態度はなんだ」
ゼノスが呆れたように溜息をつく。だが、そのアイスブルーの瞳には、アデリーンに向けられる時特有の、熱を帯びた光が宿っていた。
ゼノスは聖獣たちを鋭い視線で退けると、アデリーンの隣に腰を下ろした。公爵という身分でありながら、冷たい石の上に直接座る彼の姿には、ルミナリスの貴族のような虚飾がない。
ゼノスは懐から、小さな紺色の小箱を取り出した。
「お前に渡したいものがある。……ルミナリスから持ってきたあの鞄、中身は兄たちが用意したものだが、これからは私がお前を整える。……受け取れ」
差し出された箱を開けると、そこには雪の結晶を象ったような、青く澄んだ宝石の首飾りが入っていた。
ただの宝石ではない。石の内部で、銀色の魔力が脈動しているのが見える。
「ノースガルの深層でしか採れない『氷魂石』だ。お前の調律の力を増幅させ、過度な負荷から体を守る。……それと」
ゼノスは自らの手で、アデリーンの細い首筋に首飾りをかけた。大きな指先が、彼女の肌をかすめる。その熱に、アデリーンの心臓が大きく跳ねた。
「……これには、私の魔力が刻んにある。お前に何かあれば、即座に私が駆けつける。お前を二度と、あのような雪原で一人にはさせん。誰にも、どこにも、行かせはしない」
独占欲を隠そうともしない言葉に、アデリーンは顔を赤らめた。
「閣下……。どうして、私にここまでしてくださるのですか? 私は、あちらの国では『欠陥品』だと……」
「……欠陥、だと? あの国は、宝石と石ころの区別もつかなくなったようだな」
ゼノスはアデリーンの頬を、その無骨な指でそっとなぞった。
「お前は、この国の宝だ。……お前を捨てた者たちが、いずれ地の底で後悔する姿を、私は楽しみにしておこう」
その言葉通り、黄金の国「ルミナリス」では、まだ「小さな違和感」ではあったが、異変が始まりつつあった。 王宮の魔法灯が不自然に瞬き、庭園の聖なる花が少しずつ枯れ始める。それはアデリーンという「調律師」を失ったことへの、精霊たちからの静かな抗議であったが、第一王子エリオットはまだ、その重大さに気づいてはいなかった。
黄金の国ルミナリスでは「冷酷な氷の公爵」と恐れられ、その名を聞くだけで子供が泣き止むとまで言われていたゼノスだったが、実際に接してみれば、彼は不器用なほどに誠実な男だった。
彼は言葉こそ少ないが、アデリーンの体調を気遣い、彼女が「調律師」として無理をしていないか、常に鋭い、けれど温かな視線を送っていたのである。
「……ふわぁ、みんな集まってきたわね」
ある日の午後、アデリーンは城の奥深くにある『氷晶の庭園』にいた。ここは魔力が泉のように湧き出る場所で、公国の精霊たちが最も好む聖域だ。
アデリーンが雪の上に腰を下ろすと、どこからともなく不思議な生き物たちが姿を現した。
雪原で助けた仔狼の『スノウ』は、今やアデリーンの影のように寄り添っている。それに加え、空を泳ぐように飛ぶ青い翼の氷鳥や、水晶のような角を持つ白鹿たちまでもが、彼女の周囲に集まってきた。
「みんな、今日は少しだけ、私の歌を聴いてくれる?」
アデリーンは銀の扇子をゆったりと揺らした。
ルミナリスで磨いた舞踏の仕草が、ここでは精霊たちとの対話の言葉となる。彼女が奏でる「静寂」の旋律は、聖獣たちの荒ぶる魔力を優しく鎮め、彼らの心に安らぎを与えていった。 聖獣たちはうっとりと目を細め、アデリーンの膝に顎を乗せたり、彼女の肩に羽を休めたりしている。その光景は、まるでおとぎ話のワンシーンのようだった。
「アデリーン。……ここにいたか」
低く、心地よい声が響く。振り返ると、ゼノスが重厚な足取りでこちらへ歩いてくるところだった。
途端に、聖獣たちが一斉に警戒の声を上げる。スノウにいたっては、アデリーンの前に立ち塞がり、公爵に向かって小さな牙を剥いてみせた。
「……私の城だぞ。主に向かってその態度はなんだ」
ゼノスが呆れたように溜息をつく。だが、そのアイスブルーの瞳には、アデリーンに向けられる時特有の、熱を帯びた光が宿っていた。
ゼノスは聖獣たちを鋭い視線で退けると、アデリーンの隣に腰を下ろした。公爵という身分でありながら、冷たい石の上に直接座る彼の姿には、ルミナリスの貴族のような虚飾がない。
ゼノスは懐から、小さな紺色の小箱を取り出した。
「お前に渡したいものがある。……ルミナリスから持ってきたあの鞄、中身は兄たちが用意したものだが、これからは私がお前を整える。……受け取れ」
差し出された箱を開けると、そこには雪の結晶を象ったような、青く澄んだ宝石の首飾りが入っていた。
ただの宝石ではない。石の内部で、銀色の魔力が脈動しているのが見える。
「ノースガルの深層でしか採れない『氷魂石』だ。お前の調律の力を増幅させ、過度な負荷から体を守る。……それと」
ゼノスは自らの手で、アデリーンの細い首筋に首飾りをかけた。大きな指先が、彼女の肌をかすめる。その熱に、アデリーンの心臓が大きく跳ねた。
「……これには、私の魔力が刻んにある。お前に何かあれば、即座に私が駆けつける。お前を二度と、あのような雪原で一人にはさせん。誰にも、どこにも、行かせはしない」
独占欲を隠そうともしない言葉に、アデリーンは顔を赤らめた。
「閣下……。どうして、私にここまでしてくださるのですか? 私は、あちらの国では『欠陥品』だと……」
「……欠陥、だと? あの国は、宝石と石ころの区別もつかなくなったようだな」
ゼノスはアデリーンの頬を、その無骨な指でそっとなぞった。
「お前は、この国の宝だ。……お前を捨てた者たちが、いずれ地の底で後悔する姿を、私は楽しみにしておこう」
その言葉通り、黄金の国「ルミナリス」では、まだ「小さな違和感」ではあったが、異変が始まりつつあった。 王宮の魔法灯が不自然に瞬き、庭園の聖なる花が少しずつ枯れ始める。それはアデリーンという「調律師」を失ったことへの、精霊たちからの静かな抗議であったが、第一王子エリオットはまだ、その重大さに気づいてはいなかった。
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