「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。

秦江湖

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溶けゆく楽園と、愛の足枷

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 静止した時間の果て、青白く凍てついた公爵城の最上階。
 アデリーンは、窓の外に広がる「宝石のような死の世界」を見つめていた。しかし、その静寂を破るように、彼女の足元で金属が触れ合う澄んだ音が響く。

「……アデリーン、足を出しなさい」

 ゼノスが彼女の前に跪いていた。
 その手にあるのは、宝石箱に収められたどんな宝飾品よりも美しく、そして不気味な光を放つ白銀の足枷(アンクレット)。ゼノスの髪と同じ色の銀で作られたその鎖には、彼の膨大な魔力が凝縮され、脈動するように青白い光を帯びている。

「これは、お前をこの世界に繋ぎ止めるための楔(くさび)だ。どこにいても私がお前を感じ取り、もし私から逃げようとすれば……この鎖が、無理やりにでもお前を私の寝室へと引き戻す」

「……それが、世界を動かすための条件ですのね」

 アデリーンは微かに微笑み、躊躇うことなく白く細い足首を差し出した。
 カチリ、という冷たい感触と共に鎖が閉じられる。その瞬間、アデリーンの魂にゼノスの意識が濁流のように流れ込んできた。それは以前のテレパシーよりもずっと濃密で、逃げ場のない「結合」の感覚。

【ゼノスの心の声:歓喜と狂気のノクターン】
『……あぁ、ようやく。ようやくお前を物理的に、魔力的に、魂の根源から縛り付けることができた。……この鎖がある限り、神もお前の兄共も、ましてやあの奏者もお前を連れ去ることはできない。……お前は私の囚人であり、私の神だ。……あぁ、愛している。お前の自由を奪うこの重みこそが、私の愛の証明だ……』

「……重いですわ、ゼノス様。でも、とても温かいです」

 アデリーンがその手をゼノスの頬に添えると、彼は恍惚とした表情で彼女の手のひらに口づけした。

1. 世界の再始動:歪んだ「再誕」
 ゼノスが指を鳴らすと、世界を覆っていた絶対凍結の魔法が、パキパキと硝子が割れるような音を立てて崩壊を始めた。
 止まっていた雪片が再び舞い降り、凍りついていた人々の喉から、一斉に悲鳴や安堵の息が漏れ出す。しかし、動き出した世界は、アデリーンの知る「元の姿」ではなかった。

融合する異界: 空には巨大な「終焉の五線譜」が黄金の糸となって張り巡らされ、大地にはルーカスの神殿と公爵城の石材が混ざり合った異様な尖塔が幾つも突き出している。

不協和音の残響: 氷が溶けると共に、大気中には人々の精神を削るような鋭い高音が満ち溢れていた。

「……ルーカスの侵食が、これほどまでに。世界はもう、半分あの方の楽器に作り変えられてしまいましたのね」

2. 兄たちの復活と「義弟への制裁」
 氷解の波は、広間で固まっていたベルグラード三兄弟にも及んだ。
 カチコチの状態から解き放たれたマクシミリアン、シルヴェスター、ファビアンの三人は、解凍されるや否や、怒髪天を突く勢いでアデリーンのもとへ駆け込んできた。

「公爵!! 貴様、よくも私を『妹に手を伸ばした間抜けなポーズ』で三日間も放置してくれたな!」
 マクシミリアンが聖剣を抜こうとして……アデリーンの足首に光る銀の鎖に気づき、動きを止めた。

「……おい、それは何だ。その、……見るからに不道徳な装飾品は」
 シルヴェスターの眼鏡がキラーンと冷たく光る。

「……公爵。君、ついに一線を越えたね。魔導学的に見ても、それは完全に『所有権の固定』を目的とした拘束具じゃないか。妹を家畜扱いするつもりかい?」
 ファビアンが影の糸を指先に絡め、殺気を放つ。

「……フン。彼女が自ら望んで受け入れた愛の証だ。文句があるなら、もう一度今度は千年間ほど凍らせてやろうか?」

 ゼノスが冷淡にいなすと、兄たちとゼノスの間で激しい魔力の火花が散る。しかし、アデリーンが凛とした声でそれを制した。

「お兄様たち、やめてくださいまし。これは私が、ルーカスの調律に打ち勝つために必要な『力』なのです」

3. 最終決戦への行進(パレード)
 その時、空が黄金色に爆発し、ルーカスの幻影が巨大な姿となって現れた。

「素晴らしい、アデリーン! 公爵の歪んだ愛に縛られながらも、君の音色はさらに淫靡に、美しく輝いている! ……さあ、その鎖ごと、僕の神殿の最奥にある『原初のパイプ』の一部におなり!」

 ルーカスが放つ音波の刃が城を襲う。しかし、アデリーンは足首の鎖を強く踏みしめた。
 鎖を通じて、ゼノスの膨大な魔力がアデリーンの体へとダイレクトに流れ込む。彼女は銀の扇子を一閃させ、城全体を包み込む巨大な**「無音の盾」**を展開し、音波を霧散させた。

「……行きましょう、ゼノス様。お兄様たち。そして、みんな」

 アデリーンの足元には、正気に戻ったもふもふ軍団(スノウ、ネージュ、リヴァイア)が勢揃いしていた。

「この異界化した神殿を突き進み、世界の中心を……調律し直しますわ!」

「……行け、アデリーン。一歩でも私から離れようとすれば、この鎖がお前を引き戻す。……お前はどこへも行かせない。神の座だろうが、奈落の底だろうが、お前は私の隣で歌い続けるのだ」

 ゼノスはアデリーンの肩を抱き寄せ、そのまま異界の渦中へと足を踏み出した。
 
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