冥界の金継ぎ花嫁 ~うつけな閻魔王子の「ヒビ」は、私が愛で直します~

秦江湖

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冥界の合戦と、光る金継ぎ

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「――撃てぇぇッ!!」


 夜明けと共に、第二皇子・廉浄様の号令が響き渡った。  


 ドォォォォン!!  地獄の業火を纏った砲弾が、唸りを上げて離宮へと殺到する。



「ひぃぃぃ! 始まったぁぁ!」 

「巴様ぁ! 本当に大丈夫なんでしょうね!?」


 離宮の屋根裏。私と牛頭、馬頭、夜狐さんはそこに潜んでいた。  

 砲弾が直撃する――その瞬間。

 カィィィン!!  離宮を覆う半透明の結界が、黄金色に発光し、砲弾を弾き返した。



「よし! 計算通り!」  

 私はガッツポーズをした。  昨夜、私は離宮の結界の「脆くなっている部分」をあえて誘発するように調整し、そこに集中して自分の魔力を塗り込んでおいたのだ。  

 名付けて、『金継ぎ式・衝撃吸収結界』。  衝撃を受けると、継ぎ目がバネのようにしなって威力を拡散させる仕組みだ。


「なっ……!?」  

 前線で指揮を執っていた廉浄様が、目を見開いたのが遠目にも見えた。 

「弾いただと? あのボロ離宮の結界に、そんな強度が残っているはずが……!」

「ふふふ、ボロなんて言わせませんよ」  

 私は屋根の隙間から、戦場の様子を観察した。  廉浄軍は動揺している。  そこへ、夜狐さんが仕掛けた幻術が発動した。


「わぁぁぁ! 伏兵だ! 窓を見ろ!」 

「数が多すぎる! 数百……いや、千はいるぞ!?」


 離宮の窓という窓に、人影が浮かび上がっている。  もちろん、それは私が夜なべして作った「ガラクタ製カカシ」だ。壊れた鎧や壺を組み上げ、夜狐さんの狐火で影を投影しているだけだが、遠目には立派な軍隊に見える。


「怯むな! ただのハッタリだ! 全軍、突撃して門を破壊せよ!」  

 廉浄様が苛立ちを露わにして叫んだ。  数千の鬼たちが、雄叫びを上げて正門へと押し寄せる。

「くっ……さすがに数が多いですね」  


 物理的な攻撃が結界を叩き始める。  ミシミシ、と結界が悲鳴を上げる音が聞こえた。  私の視界に、結界の表面に走る微細な「亀裂」が浮かび上がる。

(――視える)

 私は筆を構えた。これはもう、修理(なおし)の時間だ。  亀裂が広がるよりも速く、私は魔力の糸を紡ぎ出す。


「そこッ! 右舷三番、亀裂発生!」  

 私が筆を振るうと、空中に金のラインが走り、遠くの結界のヒビを瞬時に埋める。

 「左舷、衝撃きます! ……修復!」  

 パリン、と割れる寸前で、金色の漆が傷を縫い止める。  割れようとする力が、逆に結界を強固にする。それが金継ぎの真髄だ。
 

「な、なんだあれは!?」 

「結界が……光って再生していく!?」 

「ゾンビ離宮だ! 不気味すぎる!」


 廉浄軍はパニックに陥っていた。  攻撃すればするほど、離宮は黄金の継ぎ目だらけになり、禍々しくも美しく輝きを増していくのだから。


「ええい、おのれ兄上! コソコソと小細工を!」  

 廉浄様が扇子をへし折った。 

「もういい! 私が直接、最大出力で吹き飛ばしてやる! ……兄上の魔力ごと消し飛べぇぇ!!」


 廉浄様が両手を掲げた。  上空に、巨大な氷の槍が出現する。あんなものが直撃すれば、私の修復速度でも追いつかないかもしれない。


「……巴様、限界です!」

 「波旬様はまだですか!?」


 牛頭と馬頭が泣き叫ぶ。  私は冷や汗を拭いながら、ニヤリと笑った。



「大丈夫。……あの人が、遅刻するわけありません」


 その言葉が終わるか終わらないかの時だった。

 ドォォォォォォン!!

 離宮ではない。  敵の本陣――廉浄様の背後に、漆黒の雷が直撃した。


「なっ……!?」  

 廉浄様が振り返る。  氷の槍が霧散し、兵士たちが吹き飛ぶ。  爆煙の中から、ゆらりと現れたのは、一人の「魔王」だった。

 
「――よう、廉浄。背中が煤けてるぜ?」


 波旬様だ。  裏山の瘴気溜まりを抜けてきたはずなのに、その衣には泥一つついていない。  爛々と輝く金色の瞳。そして、はだけた胸元には、私が施した「金の亀裂」が紋様のように美しく発光している。



「あ、兄上……!? なぜそこに! 離宮の中にいたのでは……!」 

「テメェが俺の城を見てる間に、お散歩だ」  


 波旬様は大太刀を一閃させた。  たった一振り。それだけで、廉浄様を守っていた親衛隊が枯れ葉のように吹き飛ぶ。  圧倒的な武力。  けれど、以前のような「自壊する危うさ」はない。力が制御され、洗練されている。


「バカな……! 身体が壊れていないだと!? 毒はどうした!」  

 廉浄様が狼狽して尻餅をつく。  波旬様は切っ先を、愛しい弟の鼻先に突きつけた。


「俺のヒビはな、最高の修復師が直したんだよ」  


 波旬様は、屋根の上にいる私へと視線を向け、ニカッと笑って見せた。


「テメェの安っぽい兵器よりも、あいつの継いだ傷跡のほうが、億倍硬ぇんだよ!」



 勝負あり。  大将を制圧され、廉浄軍は完全に沈黙した。  


 離宮からその光景を見ていた私は、へなへなとその場に座り込んだ。


 「……はぁ、なんとか持ちこたえた……心臓に悪い」  


けれど、口元からは笑みがこぼれた。  見たか!あれが、私の旦那様だ!





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