冥界の金継ぎ花嫁 ~うつけな閻魔王子の「ヒビ」は、私が愛で直します~

秦江湖

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錆びついた剣山と、電気メッキの大魔術

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「――電気メッキ?」

 赤錆に覆われた針山の麓で、波旬様が怪訝な顔をした。 


「人間界の技術です。電気の力で金属の表面に膜を張り、錆を防ぐ加工のことです」 


 私は巨大な筆を構え、目の前にそびえる剣の山を見上げた。  


    この山全体が、一つの巨大な金属塊だ。  普通の研磨では、直した端からまた錆びてしまう。だから、化学的に「変質」させるしかない。


「手順はこうです。まず、私がこの山全体に『還元作用のある漆』を塗布し、巨大な回路を描きます」  


私は波旬様を指差した。


 「そして、波旬様が山頂に陣取り、私の合図と共に『持続的な雷撃』を流し込んでください」


「雷を? ぶっ壊れねえか?」 

「一瞬の爆発ではなく、弱い電流を長く流すんです。……貴方の繊細な魔力コントロールが頼りですよ?」

 私が挑発的に微笑むと、波旬様はニヤリと笑い返した。 


「面白い。マッサージの要領だな」



   ◆



 作戦開始。  私は夜狐さんの背に乗り、空中を駆け巡った。  

     筆にたっぷりと魔力を帯びた特殊な漆を含ませ、赤茶色の山肌にラインを引いていく。  縦、横、斜め。  錆びついた刃の一本一本を繋ぐように、金色の幾何学模様を描き出す。それはまるで、山全体を包む巨大な魔法陣のようだ。


「よし……回路接続、完了! 波旬様、お願いします!」

 山頂に立つ波旬様が、両手を掲げた。  バリバリバリッ!  彼の身体から漆黒の雷が溢れ出し、避雷針のように突き立てた大太刀へと吸い込まれていく。


 ドォォォォン……!!  雷撃が山を直撃した。  しかし、それは破壊の光ではない。  私が描いた金色のラインを通り、電流が山全体へと脈に広がる。  バチバチと青白いスパークが走り、化学反応が始まった。


シュウウウウウ……。  山肌から、大量の蒸気が噴き出す。  それは、還元された酸素と、剥がれ落ちた錆の残骸だ。  赤茶色の粉塵が舞い散り、その下から現れたのは――。

「おおぉ……!」 「す、すげぇ……!」

 麓で見ていた鬼たちが歓声を上げた。  錆が落ちた刃が、プラチナのように白銀に輝き始めたのだ。  一本、また一本。  


     波旬様の雷が流れるたびに、死んでいた鉄の山が、鏡のように美しい「銀の山」へと生まれ変わっていく。


「成功です! これならあと百年は錆びません!」  私がガッツポーズをした時だった。


カァァァァァァン!!

 山頂付近から、耳をつんざくような金属音が響き渡った。 

「な、なんだ!?」  

     波旬様が雷を止める。  すると、美しく磨き上げられた剣山の中から、一際巨大な一本の「刀」が、まばゆい光を放ちながら宙に浮き上がった。



『――フン。騒がしい目覚めだ』

 光が収束し、そこには一人の男が立っていた。  刃のように鋭い長身。銀色の長髪に、鋼鉄の着物。  そして、切れ長の瞳が、傲岸不遜な光を宿して波旬様を見下ろしている。

「付喪神(つくもがみ)……? それも、相当な業物(わざもの)の」  私が呟くと、その男は空中で腕を組み、フンと鼻を鳴らした。

『我が眠りを妨げたのは貴様か、小僧。……ほう、面白い魔力を持っておる』

 男は波旬様の目の前に舞い降り、値踏みするように睨みつけた。


『我が名は名刀『斬鉄(ざんてつ)』。……貴様、名は?』 「あ? 俺は閻魔王子の波旬だ。テメェこそ何様だ、偉そうに」 『ハッ、閻魔の小僧か。どうりで生意気なツラ構えだ』

 斬鉄と名乗った男は、ニヤリと笑った。

『良いだろう。貴様のその破壊的な魔力……少しは興味が湧いた。特別に、この俺様が力を貸してやっても良いぞ?』 「はぁ? 何言ってんだコイツ。誰が頼んだよ」 『黙れ。俺様が「貸す」と言ったら貸すのだ。光栄に思え』

 斬鉄は勝手に話を進め、私のほうを一瞥した。


『おい、そこの貧相な人間。貴様の小細工で錆は落ちたが、この俺様の輝きには程遠いな』


 「むっ……貧相とは失礼な」 


『フン。まあ、目覚めの手助けにはなった。褒めて遣わす』



 何様だ、この刀。  波旬様もこめかみに青筋を浮かべている。 


「……おい。なんかムカつくから、もう一回錆びさせて埋めていいか?」 


「同感です。スクラップにしましょう」


『ハハハ! 面白い! やってみろ!』  


     斬鉄は高笑いした。 


『だが覚えておけ。俺様を使いこなせば、貴様のそのナマクラな大太刀では斬れぬものも、両断してやれるぞ?』


こうして。  針山地獄の修復は完了したが、私たちは非常に態度のでかい「俺様刀」につきまとわれることになったのだった。



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