冥界の金継ぎ花嫁 ~うつけな閻魔王子の「ヒビ」は、私が愛で直します~

秦江湖

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俺様刀の挑発と、賽の河原の積み木崩し

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『おい小僧。次はどこへ行く? 退屈させるなよ』 

「うっせえ! 勝手についてくんな!」


 針山地獄を後にした私たち一行は、騒音に悩まされていた。  原因は、あの付喪神の刀、斬鉄だ。  彼は銀色の刀身のまま(たまに人の姿になって)、波旬様の周りをフワフワと飛び回り、上から目線で話しかけてくる。


『フン、その腰のナマクラ、重いだけだろう。捨ててしまえ。この俺様を持てば、世界が変わるぞ?』 

「誰が握るか! 俺には愛刀があるっつってんだろ!」

 『愛刀? くだらん感傷だ。武器とは強さこそが全て。……貴様、本当に魔王の端暮れか?』 

「テメェ……後で絶対にへし折るぞ……」


 波旬様がギリギリと歯噛みしている。  あの傲慢な波旬様が、口喧嘩で押されているのを初めて見た。ある意味、最強のコンビかもしれない。



 そうこうしているうちに、周囲の景色が一変した。  荒涼とした灰色の河原。冷たい風が吹き抜け、どこか寂しげな空気が漂っている。  第三の目的地、「賽の河原」だ。


「……静かですね」 

「ああ。ここは幼くして死んだ子供たちが、親への供養のために石を積む場所だ」  

 波旬様の声が、少しだけ優しくなった。


 河原を見ると、小さな子供の亡者たちが、懸命に小石を積み上げていた。

 「一つ積んでは父のため……二つ積んでは母のため……」  

 あどけない声が響く。胸が締め付けられる光景だ。

 その時だった。

 ヒュオオオオッ!!  突如として、不自然な突風が河原を吹き抜けた。
 

「ああっ!?」 「塔が!」  ガラガラと音を立てて、子供たちが積み上げた石の塔が崩れ去った。  あちこちで泣き声が上がる。


『ほう。……悪趣味な風だ』  

 斬鉄が興味なさげに呟く。

 見ると、一人の女の子が、泣きながら再び石を積み直していた。  ようやく五段目まで積めた、その瞬間。  再びつむじ風が発生し、女の子の塔を狙い撃ちにするように襲いかかった。

「――させるかよ」

 ドッ!  波旬様が瞬時に移動し、女の子と塔の前に立ちはだかった。  風が彼の背中に当たり、霧散する。

「お、おじちゃん……?」  

「泣くな。……せっかく積んだんだ、守ってやる」  

 波旬様は、女の子の頭をポンと撫でた。その顔は慈愛に満ちている。


『……フン。ガキの遊び相手とはな。魔王が聞いて呆れる』  

 斬鉄が鼻で笑う。 

「黙ってろ。俺は今、虫の居所が悪いんだ」



「ヒャハハハ! 邪魔をするなよ、うつけ皇子!」

 空中で風が渦巻き、一匹の妖怪が姿を現した。  両手に巨大な鎌を持ったイタチのような妖怪――「鎌鼬(かまいたち)」だ。 

「俺様は風だ! 子供の絶望した顔を見るのが最高の酒の肴なんだよ!」


「……テメェか」  

 波旬様がゆっくりと振り返る。その瞳は、完全に冷酷な「魔王」のものだった。 

「俺の庭で、弱い者いじめをするクズがのさばってるとはな。……万死に値するぞ」


「ヒャハッ! 斬れるもんなら斬ってみろ! 俺様は風だぞ!」  

鎌鼬が高速で飛び回り、無数の真空の刃を放ってきた。  波旬様は大太刀を抜こうとするが、相手が速すぎる上に実体がない。


「チッ、チョコマカと……!」


『ククク……。手こずっているようだな、小僧』


 その時、斬鉄が波旬様の目の前にスッと浮遊した。


『奴は風と同化している。貴様のその重たい一撃では、空を切るだけだ』

 「……だったら、どうすりゃいい」 

『フン、素直でよろしい。……俺様を使え』


斬鉄が、自らの柄を波旬様に向けた。


『俺様ならば、風の「概念」ごと切り裂いてやれる。……さあ、貴様の覚悟を見せてみろ。その怒りで、俺様を振るってみせろ!』 

「……上等だ。後で覚えとけよ、クソ刀!」


 波旬様は舌打ちし、乱暴に斬鉄の柄を掴んだ。  その瞬間、銀色の魔力が爆発的に膨れ上がった。


「ヒャハッ! 何を持とうが同じだ! 死ねぇぇ!」  

 鎌鼬が最大の突風となって襲いかかる。

「――消えろッ!!」


波旬様が一閃した。  それは、力任せではない、神速の抜刀だった。  キィィィン!!  空間そのものが悲鳴を上げ、吹き荒れていた風が、真っ二つに裂けた。


「え……? 俺様の風が……斬られ……?」 

「風ごと断ち切ったんだよ。……このバカ刀の力でな!」


 パッカーン!  鎌鼬は両断され、黒い煙となって消滅した。  風が止む。静寂が戻る。


『……フン。まあまあだな』  

 波旬様が血糊を払うと、斬鉄が満足げに唸った。 『少しは楽しめるスイングだったぞ、小僧。……しばらくは貴様の剣になってやろう』 

「……いつか絶対、溶鉱炉に放り込んでやるからな」


 波旬様がげんなりしていると、子供たちがわっと集まってきた。 

「すごい! お兄ちゃん強い!」

「ありがとう、魔王様!」  

 子供たちに囲まれ、波旬様は「けっ、礼には及ばねえよ」と照れくさそうに鼻をこすった。



 しかし、問題は解決していない。石の塔は不安定なままだ。

 「……波旬様。斬鉄さん」  

 私は道具袋から、あるものを取り出した。 

「喧嘩ばかりしてないで、手伝ってください。子供たちのために、私が二度と崩れない『最強の塔』を作りますから」


『ほう? 人間風情が、何をする気だ?』

 「簡単です」  

 私はニッコリと笑い、金色の漆が入ったチューブを掲げた。 

「全部、金継ぎしちゃうんです」

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