16 / 21
反則級の石積みと、地獄の託児所
しおりを挟む
「ええっ!? 石をくっつけちゃうの?」
「そんなことしていいの? 鬼さんに怒られない?」
私の提案に、子供たちは目を丸くしてざわついた。 無理もない。「賽の河原」の石積みは、積んでは崩れる徒労こそがルールだと思われているからだ。
「大丈夫だよ。ここの一番偉い人が『許可』を出したからね」
私は親指で、後ろにいる波旬(はじゅん)様を指差した。
「なっ、俺かよ!?」
「ですよね、波旬様? まさか子供たちが泣いているのを『規則だから』で見過ごすような、ケツの穴の小さい男じゃありませんよね?」
「……チッ。ああそうだよ! 俺がルールだ! 好きなだけくっつけろ!」
波旬様がヤケクソ気味に叫ぶと、子供たちは「わぁーい!」「魔王様やさしー!」と歓声を上げた。
◆
かくして、前代未聞の「金継ぎ工作教室」が始まった。
「いい? このチューブに入っているのは、私が調合した特製の『速乾性強力漆』です。これを石の接地面に塗って、十秒数えて……はい、ペッタン!」
私が実演してみせると、不安定な丸い石同士が、ガッチリと固定された。 指で突いても、蹴っても倒れない。
「すごい! くっついた!」 「これなら、斜めに積んでも落ちないよ!」
子供たちの目が輝き出した。 一度「崩れない」と分かれば、子供の発想力は無限大だ。 今までのように怯えながら高く積む必要はない。横に繋げたり、アーチを作ったり、動物の形にしたり。 殺伐としていた河原は、瞬く間にクリエイティブな「ブロック遊びの広場」へと変貌していった。
「お兄ちゃん、高いところ届かない! 抱っこして!」
「おう、任せろ。……よいしょっと」
波旬様は、両腕に二人の子供をぶら下げ、肩車までして、巨大な「五重塔」の建設を手伝っている。 その顔は、満更でもない……というか、完全にデレデレだ。
『フン。魔王がベビーシッターとはな。世も末だ』
空中に浮いた斬鉄が、呆れたように呟いた。
「斬鉄さんも手伝ってください。その切れ味で、石の底を平らにカットして」
『断る。俺様は最強の剣だぞ? 石工のような真似ができるか』
「あーあ。斬鉄さんなら、切断面をミクロン単位で調整して、接着剤なしでも噛み合う『究極の石積み』ができると思ったのになぁ」
『……なんだと?』
斬鉄がピクリと反応した。
『ミクロン単位……究極の噛み合わせ……。フン、貴様、俺様を煽るのが上手いな』
シュパッ! 斬鉄が閃くと、ゴツゴツした岩が見事な立方体に変わった。
『見ろ! この美しい断面! 俺様にかかれば、ピラミッド建設など朝飯前だ!』
「うわー! かっこいいー!」
『フハハハ! もっと崇めろ! もっと石を持ってこい小僧ども!』
……チョロい。 この剣、意外と子供たちの人気者になる素質がある。
◆
数時間後。 賽の河原には、黄金の継ぎ目が輝く、芸術的な「石の城」や「オブジェ」が乱立していた。 子供たちは達成感に満ちた顔で、自分の作品を自慢し合っている。
「コラァァァァッ!!」
そこへ、怒鳴り声が響いた。 金棒を持った獄卒の鬼たちが、血相を変えて走ってきたのだ。
「な、何をしてるんだお前たち! ここは苦役の場だぞ! こんな楽しそうな場所にして、許されると思ってるのか!」
子供たちがビクリと怯えて、波旬様の後ろに隠れる。 波旬様は、積み上げた石の塔に片足を乗せ、ドスの利いた声で睨み返した。
「あぁ? 俺が許可したんだ。文句あるか?」
「は、波旬様!? しかし、これは規則で……石は崩れなければ供養にならず……」
「崩す必要がどこにありますか」
私が前に出た。 「供養とは、親を想う心です。見てください、この子たちが作ったものを」 私は、金継ぎで強固に固められた塔を指差した。
「風が吹いても、嵐が来ても、二度と崩れない。それは『親への想いが、何があっても壊れない』という証明です。……ただ崩して絶望させるより、よほど立派な供養だと思いませんか?」
獄卒たちは言葉に詰まった。 目の前にあるのは、子供たちの笑顔と、黄金に輝く強固な祈りの形。 それを「壊せ」とは、さすがの鬼でも言えなかった。
「……ぐぬぬ。は、波旬様の顔に免じて、今回は見逃します……」
「二度と子供たちの邪魔すんじゃねえぞ。……ここは今日から、『賽の河原・記念公園』だ」
波旬様が宣言すると、わぁっと歓声が上がった。
◆
帰り際。 一人の小さな女の子が、トテトテと波旬様の元へ駆け寄り、その足にしがみついた。
「魔王様、おねえちゃん、ありがとう! ……パパとママみたいで、かっこよかった!」
「ブッ……!」 波旬様が吹き出した。
「パ、パパだと……!? 俺が……!?」
「ふふ、波旬パパ。お似合いですよ」
私がからかうと、彼は耳まで真っ赤にして、女の子の頭をワシャワシャと撫でた。
「……うるせえ。行くぞ、巴ママ」
「えっ」
不意打ちで呼ばれた「ママ」という響きに、今度は私が赤くなる番だった。
『フン。熱くて見てられんな。……だが、悪くない光景だ』 斬鉄が、空中で小さく独り言ちた。
こうして、第三の試練「賽の河原」は、地獄で一番平和な託児所へと生まれ変わった。 私たちの旅は、確実に地獄を変え始めている。 ……しかし、次の目的地には、そんな生易しい解決法が通用しない「闇」が待っていた。
「そんなことしていいの? 鬼さんに怒られない?」
私の提案に、子供たちは目を丸くしてざわついた。 無理もない。「賽の河原」の石積みは、積んでは崩れる徒労こそがルールだと思われているからだ。
「大丈夫だよ。ここの一番偉い人が『許可』を出したからね」
私は親指で、後ろにいる波旬(はじゅん)様を指差した。
「なっ、俺かよ!?」
「ですよね、波旬様? まさか子供たちが泣いているのを『規則だから』で見過ごすような、ケツの穴の小さい男じゃありませんよね?」
「……チッ。ああそうだよ! 俺がルールだ! 好きなだけくっつけろ!」
波旬様がヤケクソ気味に叫ぶと、子供たちは「わぁーい!」「魔王様やさしー!」と歓声を上げた。
◆
かくして、前代未聞の「金継ぎ工作教室」が始まった。
「いい? このチューブに入っているのは、私が調合した特製の『速乾性強力漆』です。これを石の接地面に塗って、十秒数えて……はい、ペッタン!」
私が実演してみせると、不安定な丸い石同士が、ガッチリと固定された。 指で突いても、蹴っても倒れない。
「すごい! くっついた!」 「これなら、斜めに積んでも落ちないよ!」
子供たちの目が輝き出した。 一度「崩れない」と分かれば、子供の発想力は無限大だ。 今までのように怯えながら高く積む必要はない。横に繋げたり、アーチを作ったり、動物の形にしたり。 殺伐としていた河原は、瞬く間にクリエイティブな「ブロック遊びの広場」へと変貌していった。
「お兄ちゃん、高いところ届かない! 抱っこして!」
「おう、任せろ。……よいしょっと」
波旬様は、両腕に二人の子供をぶら下げ、肩車までして、巨大な「五重塔」の建設を手伝っている。 その顔は、満更でもない……というか、完全にデレデレだ。
『フン。魔王がベビーシッターとはな。世も末だ』
空中に浮いた斬鉄が、呆れたように呟いた。
「斬鉄さんも手伝ってください。その切れ味で、石の底を平らにカットして」
『断る。俺様は最強の剣だぞ? 石工のような真似ができるか』
「あーあ。斬鉄さんなら、切断面をミクロン単位で調整して、接着剤なしでも噛み合う『究極の石積み』ができると思ったのになぁ」
『……なんだと?』
斬鉄がピクリと反応した。
『ミクロン単位……究極の噛み合わせ……。フン、貴様、俺様を煽るのが上手いな』
シュパッ! 斬鉄が閃くと、ゴツゴツした岩が見事な立方体に変わった。
『見ろ! この美しい断面! 俺様にかかれば、ピラミッド建設など朝飯前だ!』
「うわー! かっこいいー!」
『フハハハ! もっと崇めろ! もっと石を持ってこい小僧ども!』
……チョロい。 この剣、意外と子供たちの人気者になる素質がある。
◆
数時間後。 賽の河原には、黄金の継ぎ目が輝く、芸術的な「石の城」や「オブジェ」が乱立していた。 子供たちは達成感に満ちた顔で、自分の作品を自慢し合っている。
「コラァァァァッ!!」
そこへ、怒鳴り声が響いた。 金棒を持った獄卒の鬼たちが、血相を変えて走ってきたのだ。
「な、何をしてるんだお前たち! ここは苦役の場だぞ! こんな楽しそうな場所にして、許されると思ってるのか!」
子供たちがビクリと怯えて、波旬様の後ろに隠れる。 波旬様は、積み上げた石の塔に片足を乗せ、ドスの利いた声で睨み返した。
「あぁ? 俺が許可したんだ。文句あるか?」
「は、波旬様!? しかし、これは規則で……石は崩れなければ供養にならず……」
「崩す必要がどこにありますか」
私が前に出た。 「供養とは、親を想う心です。見てください、この子たちが作ったものを」 私は、金継ぎで強固に固められた塔を指差した。
「風が吹いても、嵐が来ても、二度と崩れない。それは『親への想いが、何があっても壊れない』という証明です。……ただ崩して絶望させるより、よほど立派な供養だと思いませんか?」
獄卒たちは言葉に詰まった。 目の前にあるのは、子供たちの笑顔と、黄金に輝く強固な祈りの形。 それを「壊せ」とは、さすがの鬼でも言えなかった。
「……ぐぬぬ。は、波旬様の顔に免じて、今回は見逃します……」
「二度と子供たちの邪魔すんじゃねえぞ。……ここは今日から、『賽の河原・記念公園』だ」
波旬様が宣言すると、わぁっと歓声が上がった。
◆
帰り際。 一人の小さな女の子が、トテトテと波旬様の元へ駆け寄り、その足にしがみついた。
「魔王様、おねえちゃん、ありがとう! ……パパとママみたいで、かっこよかった!」
「ブッ……!」 波旬様が吹き出した。
「パ、パパだと……!? 俺が……!?」
「ふふ、波旬パパ。お似合いですよ」
私がからかうと、彼は耳まで真っ赤にして、女の子の頭をワシャワシャと撫でた。
「……うるせえ。行くぞ、巴ママ」
「えっ」
不意打ちで呼ばれた「ママ」という響きに、今度は私が赤くなる番だった。
『フン。熱くて見てられんな。……だが、悪くない光景だ』 斬鉄が、空中で小さく独り言ちた。
こうして、第三の試練「賽の河原」は、地獄で一番平和な託児所へと生まれ変わった。 私たちの旅は、確実に地獄を変え始めている。 ……しかし、次の目的地には、そんな生易しい解決法が通用しない「闇」が待っていた。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
彼は亡国の令嬢を愛せない
黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。
ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。
※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。
※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。
※新作です。アルファポリス様が先行します。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る
小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」
政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。
9年前の約束を叶えるために……。
豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。
「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる