冥界の金継ぎ花嫁 ~うつけな閻魔王子の「ヒビ」は、私が愛で直します~

秦江湖

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反則級の石積みと、地獄の託児所

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「ええっ!? 石をくっつけちゃうの?」 


「そんなことしていいの? 鬼さんに怒られない?」


 私の提案に、子供たちは目を丸くしてざわついた。  無理もない。「賽の河原」の石積みは、積んでは崩れる徒労こそがルールだと思われているからだ。



「大丈夫だよ。ここの一番偉い人が『許可』を出したからね」  

 私は親指で、後ろにいる波旬(はじゅん)様を指差した。 

「なっ、俺かよ!?」 

「ですよね、波旬様? まさか子供たちが泣いているのを『規則だから』で見過ごすような、ケツの穴の小さい男じゃありませんよね?」 

「……チッ。ああそうだよ! 俺がルールだ! 好きなだけくっつけろ!」



 波旬様がヤケクソ気味に叫ぶと、子供たちは「わぁーい!」「魔王様やさしー!」と歓声を上げた。


   ◆


 かくして、前代未聞の「金継ぎ工作教室」が始まった。

「いい? このチューブに入っているのは、私が調合した特製の『速乾性強力漆』です。これを石の接地面に塗って、十秒数えて……はい、ペッタン!」


 私が実演してみせると、不安定な丸い石同士が、ガッチリと固定された。  指で突いても、蹴っても倒れない。


「すごい! くっついた!」 「これなら、斜めに積んでも落ちないよ!」


 子供たちの目が輝き出した。  一度「崩れない」と分かれば、子供の発想力は無限大だ。  今までのように怯えながら高く積む必要はない。横に繋げたり、アーチを作ったり、動物の形にしたり。  殺伐としていた河原は、瞬く間にクリエイティブな「ブロック遊びの広場」へと変貌していった。



「お兄ちゃん、高いところ届かない! 抱っこして!」 

「おう、任せろ。……よいしょっと」  

 波旬様は、両腕に二人の子供をぶら下げ、肩車までして、巨大な「五重塔」の建設を手伝っている。  その顔は、満更でもない……というか、完全にデレデレだ。


『フン。魔王がベビーシッターとはな。世も末だ』


 空中に浮いた斬鉄が、呆れたように呟いた。 

「斬鉄さんも手伝ってください。その切れ味で、石の底を平らにカットして」 

『断る。俺様は最強の剣だぞ? 石工のような真似ができるか』 

「あーあ。斬鉄さんなら、切断面をミクロン単位で調整して、接着剤なしでも噛み合う『究極の石積み』ができると思ったのになぁ」 

『……なんだと?』


 斬鉄がピクリと反応した。

 『ミクロン単位……究極の噛み合わせ……。フン、貴様、俺様を煽るのが上手いな』  

 シュパッ!  斬鉄が閃くと、ゴツゴツした岩が見事な立方体に変わった。 

『見ろ! この美しい断面! 俺様にかかれば、ピラミッド建設など朝飯前だ!』 

「うわー! かっこいいー!」 

『フハハハ! もっと崇めろ! もっと石を持ってこい小僧ども!』

 ……チョロい。  この剣、意外と子供たちの人気者になる素質がある。



   ◆



 数時間後。  賽の河原には、黄金の継ぎ目が輝く、芸術的な「石の城」や「オブジェ」が乱立していた。  子供たちは達成感に満ちた顔で、自分の作品を自慢し合っている。


「コラァァァァッ!!」


 そこへ、怒鳴り声が響いた。  金棒を持った獄卒の鬼たちが、血相を変えて走ってきたのだ。

 「な、何をしてるんだお前たち! ここは苦役の場だぞ! こんな楽しそうな場所にして、許されると思ってるのか!」

 子供たちがビクリと怯えて、波旬様の後ろに隠れる。  波旬様は、積み上げた石の塔に片足を乗せ、ドスの利いた声で睨み返した。


「あぁ? 俺が許可したんだ。文句あるか?」 

「は、波旬様!? しかし、これは規則で……石は崩れなければ供養にならず……」

 「崩す必要がどこにありますか」


 私が前に出た。 「供養とは、親を想う心です。見てください、この子たちが作ったものを」  私は、金継ぎで強固に固められた塔を指差した。


 「風が吹いても、嵐が来ても、二度と崩れない。それは『親への想いが、何があっても壊れない』という証明です。……ただ崩して絶望させるより、よほど立派な供養だと思いませんか?」


 獄卒たちは言葉に詰まった。  目の前にあるのは、子供たちの笑顔と、黄金に輝く強固な祈りの形。  それを「壊せ」とは、さすがの鬼でも言えなかった。



「……ぐぬぬ。は、波旬様の顔に免じて、今回は見逃します……」 

「二度と子供たちの邪魔すんじゃねえぞ。……ここは今日から、『賽の河原・記念公園』だ」


 波旬様が宣言すると、わぁっと歓声が上がった。



   ◆



 帰り際。  一人の小さな女の子が、トテトテと波旬様の元へ駆け寄り、その足にしがみついた。 

「魔王様、おねえちゃん、ありがとう! ……パパとママみたいで、かっこよかった!」

「ブッ……!」  波旬様が吹き出した。 


「パ、パパだと……!? 俺が……!?」

 「ふふ、波旬パパ。お似合いですよ」  


 私がからかうと、彼は耳まで真っ赤にして、女の子の頭をワシャワシャと撫でた。 

「……うるせえ。行くぞ、巴ママ」 

「えっ」


 不意打ちで呼ばれた「ママ」という響きに、今度は私が赤くなる番だった。


『フン。熱くて見てられんな。……だが、悪くない光景だ』  斬鉄が、空中で小さく独り言ちた。



 こうして、第三の試練「賽の河原」は、地獄で一番平和な託児所へと生まれ変わった。  私たちの旅は、確実に地獄を変え始めている。  ……しかし、次の目的地には、そんな生易しい解決法が通用しない「闇」が待っていた。


    

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