17 / 21
血の池地獄の美白革命
しおりを挟む
「臭っ……! 鉄の臭いがすごいです」
第四の目的地、「血の池地獄」に到着した私は、鼻をつまんだ。 目の前に広がるのは、煮えたぎる真っ赤な泥の湖。 ボコッ、ボコッという不気味な泡音と共に、鼻を刺すような鉄錆と硫黄の臭いが立ち込めている。
「ここは本来、罪人をこの池に沈めて煮込む場所だが……」
波旬様が周囲を見渡して首を傾げた。
「なんだ? 今日はやけに女が多いな」
そうなのだ。 池のほとりには、角の生えた般若や、蛇の髪を持つ濡女(ぬれおんな)など、地獄の女性妖怪たちが大勢集まっていた。 彼女たちは、池から掬った赤い泥を、必死に顔や腕に塗りたくっている。
「また肌が荒れたわ!」
「なんで!? この泥を塗れば、血色のいい『愛され赤肌』になれるって噂なのに!」
「痛い! ヒリヒリするぅ!」
阿鼻叫喚の女子会状態だ。
「……なるほど。状況が見えました」
私は彼女たちの肌を見て、溜息をついた。 職人の目から見れば一目瞭然だ。 彼女たちの肌はボロボロ。原因は、その泥の「粒子の粗さ」と「強すぎる酸性」だ。
「ちょっと貴女たち! ストップです!」
私が声を上げると、泥パック中の般若さんがギロリとこちらを睨んだ。
「あぁ? 何よ人間。私たちの『美活』の邪魔をする気?」
「美活? 自傷行為の間違いでしょう。そんな粗い泥を擦り込んだら、角質が削れて肌が死にますよ」
私は道具袋から試験管を取り出し、池の泥を採取して振ってみせた。
「見てください。砂利と鉄分が分離していない。これじゃあヤスリで顔を洗っているようなものです」
「な、なんですってぇ!?」
「じゃあどうすればいいのよ! 来週、閻魔庁の合コンがあるのよ!」
女妖たちが詰め寄ってくる。その迫力に、さすがの波旬様も「お、俺は女の争いには関わらねえぞ」と後ずさった。
「ふふん。任せてください」 私は腕まくりをした。
「私が、この劇薬のような血の池を、極上の『高級エステ泥(クレイ)』に変えてみせましょう!」
◆
「斬鉄さん! 出番です!」
『フン。次は誰を斬ればいい?』
宙に浮いた俺様刀、斬鉄がやる気満々で近寄ってきた。
「何も斬りません。……回ってください」
『は?』
「この泥の樽の中で、超高速回転して『遠心分離機』になってください。不純物を飛ばして、クリーミーな微粒子だけを残すんです!」
『き、貴様……! この最強の魔剣に向かって、ミキサーになれと言うのか!?』
「嫌ですか? 波旬様の役に立ちたくないんですか?」
『……ぐぬぬ。小賢しい女め!』
斬鉄は文句を言いながらも、波旬様に「やってやれ」と命じられると、樽の中で猛烈な回転を始めた。 ギュイイイイイーン!! 凄まじい遠心力。砂利やゴミが弾き飛ばされ、樽の中には、滑らかでキメの細かい、極上の赤いペーストだけが残った。
「仕上げです! ここに『中和剤(重曹)』と『保湿オイル(椿油)』を投入!」
私が調合した液体を混ぜ合わせると、ドス黒かった赤泥が、艶やかなピンク色のクリームへと変化した。
「完成! 特製『血の池・美肌クレイパック』です!」
◆
「すごーい! トロトロ!」
「塗った瞬間からしっとりするわ!」
「キャーッ! 洗い流したら肌がワントーン明るくなってる!」
効果は劇的だった。 私の特製パックを体験した般若さんは、カサカサだった肌がゆで卵のようにツルツルになり、「これなら合コンでモテモテよ!」と狂喜乱舞している。 噂を聞きつけた女妖たちで、血の池には長蛇の列ができていた。
「……おい巴。なんかここ、俺の知ってる地獄と違うんだが」
波旬様が、エステサロンと化した池を眺めて呆れている。
「いいじゃないですか。女性が綺麗になれば、地獄も華やぎます」
私は余ったパックを指に救い、波旬様の頬にペタリと塗った。
「あ? 何しやがる」
「旦那様もどうですか? 最近、戦い続きでお肌がお疲れのようですし」
「い、いらねえよ! 男がパックなんて……」
彼が顔を背けようとした時、パックを拭き取った部分の肌が、驚くほどスベスベになっているのに気づいた。
「……む。悪くねえ感触だな」
「でしょう? 今夜は全身やってあげましょうか?」
「ばっ……! 調子に乗るな!」
顔を真っ赤にする魔王様。 その横で、泥まみれになった斬鉄が『俺様も磨け! ピカピカにしろ!』と騒いでいる。
こうして、ただ恐ろしいだけだった血の池地獄は、冥界一の「美の聖地」へと生まれ変わった。 ……まあ、美しくなった女妖たちが、逆に男たちを追い回すようになったのは、また別の話だけれど。
第四の目的地、「血の池地獄」に到着した私は、鼻をつまんだ。 目の前に広がるのは、煮えたぎる真っ赤な泥の湖。 ボコッ、ボコッという不気味な泡音と共に、鼻を刺すような鉄錆と硫黄の臭いが立ち込めている。
「ここは本来、罪人をこの池に沈めて煮込む場所だが……」
波旬様が周囲を見渡して首を傾げた。
「なんだ? 今日はやけに女が多いな」
そうなのだ。 池のほとりには、角の生えた般若や、蛇の髪を持つ濡女(ぬれおんな)など、地獄の女性妖怪たちが大勢集まっていた。 彼女たちは、池から掬った赤い泥を、必死に顔や腕に塗りたくっている。
「また肌が荒れたわ!」
「なんで!? この泥を塗れば、血色のいい『愛され赤肌』になれるって噂なのに!」
「痛い! ヒリヒリするぅ!」
阿鼻叫喚の女子会状態だ。
「……なるほど。状況が見えました」
私は彼女たちの肌を見て、溜息をついた。 職人の目から見れば一目瞭然だ。 彼女たちの肌はボロボロ。原因は、その泥の「粒子の粗さ」と「強すぎる酸性」だ。
「ちょっと貴女たち! ストップです!」
私が声を上げると、泥パック中の般若さんがギロリとこちらを睨んだ。
「あぁ? 何よ人間。私たちの『美活』の邪魔をする気?」
「美活? 自傷行為の間違いでしょう。そんな粗い泥を擦り込んだら、角質が削れて肌が死にますよ」
私は道具袋から試験管を取り出し、池の泥を採取して振ってみせた。
「見てください。砂利と鉄分が分離していない。これじゃあヤスリで顔を洗っているようなものです」
「な、なんですってぇ!?」
「じゃあどうすればいいのよ! 来週、閻魔庁の合コンがあるのよ!」
女妖たちが詰め寄ってくる。その迫力に、さすがの波旬様も「お、俺は女の争いには関わらねえぞ」と後ずさった。
「ふふん。任せてください」 私は腕まくりをした。
「私が、この劇薬のような血の池を、極上の『高級エステ泥(クレイ)』に変えてみせましょう!」
◆
「斬鉄さん! 出番です!」
『フン。次は誰を斬ればいい?』
宙に浮いた俺様刀、斬鉄がやる気満々で近寄ってきた。
「何も斬りません。……回ってください」
『は?』
「この泥の樽の中で、超高速回転して『遠心分離機』になってください。不純物を飛ばして、クリーミーな微粒子だけを残すんです!」
『き、貴様……! この最強の魔剣に向かって、ミキサーになれと言うのか!?』
「嫌ですか? 波旬様の役に立ちたくないんですか?」
『……ぐぬぬ。小賢しい女め!』
斬鉄は文句を言いながらも、波旬様に「やってやれ」と命じられると、樽の中で猛烈な回転を始めた。 ギュイイイイイーン!! 凄まじい遠心力。砂利やゴミが弾き飛ばされ、樽の中には、滑らかでキメの細かい、極上の赤いペーストだけが残った。
「仕上げです! ここに『中和剤(重曹)』と『保湿オイル(椿油)』を投入!」
私が調合した液体を混ぜ合わせると、ドス黒かった赤泥が、艶やかなピンク色のクリームへと変化した。
「完成! 特製『血の池・美肌クレイパック』です!」
◆
「すごーい! トロトロ!」
「塗った瞬間からしっとりするわ!」
「キャーッ! 洗い流したら肌がワントーン明るくなってる!」
効果は劇的だった。 私の特製パックを体験した般若さんは、カサカサだった肌がゆで卵のようにツルツルになり、「これなら合コンでモテモテよ!」と狂喜乱舞している。 噂を聞きつけた女妖たちで、血の池には長蛇の列ができていた。
「……おい巴。なんかここ、俺の知ってる地獄と違うんだが」
波旬様が、エステサロンと化した池を眺めて呆れている。
「いいじゃないですか。女性が綺麗になれば、地獄も華やぎます」
私は余ったパックを指に救い、波旬様の頬にペタリと塗った。
「あ? 何しやがる」
「旦那様もどうですか? 最近、戦い続きでお肌がお疲れのようですし」
「い、いらねえよ! 男がパックなんて……」
彼が顔を背けようとした時、パックを拭き取った部分の肌が、驚くほどスベスベになっているのに気づいた。
「……む。悪くねえ感触だな」
「でしょう? 今夜は全身やってあげましょうか?」
「ばっ……! 調子に乗るな!」
顔を真っ赤にする魔王様。 その横で、泥まみれになった斬鉄が『俺様も磨け! ピカピカにしろ!』と騒いでいる。
こうして、ただ恐ろしいだけだった血の池地獄は、冥界一の「美の聖地」へと生まれ変わった。 ……まあ、美しくなった女妖たちが、逆に男たちを追い回すようになったのは、また別の話だけれど。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
彼は亡国の令嬢を愛せない
黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。
ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。
※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。
※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。
※新作です。アルファポリス様が先行します。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る
小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」
政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。
9年前の約束を叶えるために……。
豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。
「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる