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叫喚地獄と、ええじゃないか狂乱太鼓
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「……静かですね」
第六の目的地、「叫喚地獄」。 本来なら、釜茹でや火炙りにされた罪人たちの「ギャアァァァ!」という断末魔が、四六時中響き渡っているはずの場所だ。 しかし、今はシン……と静まり返っている。
「どうなってるんだ?」 波旬様が不審がって進むと、広場には数千人の罪人たちが、体育座りでどんよりとしていた。 獄卒の鬼が、困り果てた顔で駆け寄ってくる。
「あ、波旬様……。見ての通りでして」
鬼はため息をついた。
「罪人たちが『叫び疲れ』ちゃいまして。最近じゃ何をしても『あー、痛い痛い(棒読み)』って感じで、全然反省の声を出さないんです」
「マンネリ化か。地獄の刑罰としちゃ致命的だな」
波旬様が腕を組む。 叫喚地獄のエネルギー源は、その名の通り「叫び声(音圧)」だ。声がなければ、ここの設備は稼働しない。
「声が出ないなら、出させてやればいい」
波旬様が拳を鳴らす。
「俺が一人ずつ殴って回るか?」
「日が暮れますよ、それ」
私は首を横に振り、どんよりとした罪人たちを見渡した。 彼らの目は死んでいる。ただの作業として刑を受けているからだ。 必要なのは「痛み」じゃない。「衝動」だ。
ふと、私は生前の記憶――祖母から聞いた話を思い出した。 かつて人間界(幕末)でも、世の中が不安に包まれた時、人々が理性を捨てて踊り狂う『ええじゃないか』という騒ぎがあったという。 鬱屈した魂を解放するのは、いつだって「祭り」の熱狂だ。
「……波旬様。一肌脱いでいただけますか?」
「あ? 何をさせる気だ」
「祭りです。……地獄全土を揺るがす、大乱痴気騒ぎを起こしましょう!」
◆
数時間後。 叫喚地獄の谷底に、巨大な「櫓」が組み上がっていた。 そしてその上には、私が廃材を継ぎ合わせて作った、巨大な集音ホーンが設置されている。蓄音機の原理で、櫓の上で発した音を何十倍にも増幅して谷底へ響かせる装置だ。
「……おい巴。本当にやるのか、これ」
櫓の上で、波旬様が少し気恥ずかしそうにしている。 彼の目の前には、巨大な和太鼓。 そして手には、二本に分裂・変形した斬鉄――「魔剣・撥」が握られていた。
『ククク……! まさか俺様が太鼓を叩く棒になるとはな!』
斬鉄が低い羽音を立てて震える。
『だが悪くない。叩きつける衝撃! 破壊の振動! 俺様の硬度を試すには絶好の機会だ!』
「観客を見てください、波旬様」
私は下を指差した。 櫓の周りには、何事かと集められた数千の罪人たちが、虚ろな目でこちらを見上げている。
「彼らの腹の底に眠る『熱』を、貴方の音で引きずり出してください。……さあ、一番太い音をお願いします!」
「……チッ。どうなっても知らねえぞ!」
波旬様が法被の片肌を脱ぎ、隆々とした筋肉を見せつけた。 そして、斬鉄を振り上げ、思い切り太鼓の皮に叩きつけた。
ドォォォォン!!!!
腹に響く重低音。 巨大ホーンによって増幅されたその音は、まるで地響きのように谷全体を震わせた。 「うおっ!?」 最前列の罪人たちが、音圧でよろめく。
「――聞けェェェッ!! 地獄の底の愚民どもォォォッ!!」
波旬様が吠えた。 ドン! ドン! ドドン!! 原始的なリズム。けれど、生物の本能を直接叩くような、力強い鼓動。
『ヒャハハハ! 響けェ! もっと激しく叩きつけろォォ!!』
斬鉄がインパクトの瞬間に魔力を放出し、爆発のような轟音を生み出す。
「踊れ! 叫べ! テメェらの罪も後悔も、全部忘れちまえ!!」
「ソレ! ええじゃないか! ええじゃないか!」
私が横で鉦を鳴らし、合いの手を入れる。 すると、死んでいた罪人たちの目に、怪しい光が戻り始めた。 太鼓のリズムが、彼らの心臓の鼓動とシンクロしていく。
「……ええじゃないか」 「罪があっても、ええじゃないか!」 「地獄でも、ええじゃないか!」
一人が踊り出すと、それは爆発的に伝染した。 数千人の罪人たちが着物を着崩し、両手を挙げて狂ったように踊り始めたのだ。
「ヨイヨイ! ヤサエ・エンヤン!」 「ええじゃないか! ええじゃないか!」 「波旬様ァァァ! 地獄一ィィィ!」
阿波踊りのような、民衆暴動のような、凄まじい熱気。 叫喚地獄に、久方ぶりの「絶叫」が戻ってきた。それも、悲痛な叫びではなく、魂を解放する狂乱の叫びとして。
◆
「……大成功ですね」 私は櫓の隅で、満足げにその光景を見下ろしていた。 汗だくになりながら太鼓を乱れ打ちする波旬様。 飛び散る汗がマグマの光に照らされて輝いている。 その姿は、まるで雷神様のようだ。
(やっぱり、かっこいいですよ。私の旦那様)
宴は朝まで続き、罪人たちは全員声が枯れるまで叫び、踊り倒した。 翌日、憑き物が落ちたようにスッキリした顔で「ふぅ、いい汗かいた」と労働に戻る者が続出し、叫喚地獄の生産性はV字回復したという。
さあ、残るはあと一箇所。 最後の試練は、地獄の最果てにある「無間地獄」。 そこには、これまでのお祭り騒ぎとは比較にならない「深刻な崩壊」が待ち受けていた。
第六の目的地、「叫喚地獄」。 本来なら、釜茹でや火炙りにされた罪人たちの「ギャアァァァ!」という断末魔が、四六時中響き渡っているはずの場所だ。 しかし、今はシン……と静まり返っている。
「どうなってるんだ?」 波旬様が不審がって進むと、広場には数千人の罪人たちが、体育座りでどんよりとしていた。 獄卒の鬼が、困り果てた顔で駆け寄ってくる。
「あ、波旬様……。見ての通りでして」
鬼はため息をついた。
「罪人たちが『叫び疲れ』ちゃいまして。最近じゃ何をしても『あー、痛い痛い(棒読み)』って感じで、全然反省の声を出さないんです」
「マンネリ化か。地獄の刑罰としちゃ致命的だな」
波旬様が腕を組む。 叫喚地獄のエネルギー源は、その名の通り「叫び声(音圧)」だ。声がなければ、ここの設備は稼働しない。
「声が出ないなら、出させてやればいい」
波旬様が拳を鳴らす。
「俺が一人ずつ殴って回るか?」
「日が暮れますよ、それ」
私は首を横に振り、どんよりとした罪人たちを見渡した。 彼らの目は死んでいる。ただの作業として刑を受けているからだ。 必要なのは「痛み」じゃない。「衝動」だ。
ふと、私は生前の記憶――祖母から聞いた話を思い出した。 かつて人間界(幕末)でも、世の中が不安に包まれた時、人々が理性を捨てて踊り狂う『ええじゃないか』という騒ぎがあったという。 鬱屈した魂を解放するのは、いつだって「祭り」の熱狂だ。
「……波旬様。一肌脱いでいただけますか?」
「あ? 何をさせる気だ」
「祭りです。……地獄全土を揺るがす、大乱痴気騒ぎを起こしましょう!」
◆
数時間後。 叫喚地獄の谷底に、巨大な「櫓」が組み上がっていた。 そしてその上には、私が廃材を継ぎ合わせて作った、巨大な集音ホーンが設置されている。蓄音機の原理で、櫓の上で発した音を何十倍にも増幅して谷底へ響かせる装置だ。
「……おい巴。本当にやるのか、これ」
櫓の上で、波旬様が少し気恥ずかしそうにしている。 彼の目の前には、巨大な和太鼓。 そして手には、二本に分裂・変形した斬鉄――「魔剣・撥」が握られていた。
『ククク……! まさか俺様が太鼓を叩く棒になるとはな!』
斬鉄が低い羽音を立てて震える。
『だが悪くない。叩きつける衝撃! 破壊の振動! 俺様の硬度を試すには絶好の機会だ!』
「観客を見てください、波旬様」
私は下を指差した。 櫓の周りには、何事かと集められた数千の罪人たちが、虚ろな目でこちらを見上げている。
「彼らの腹の底に眠る『熱』を、貴方の音で引きずり出してください。……さあ、一番太い音をお願いします!」
「……チッ。どうなっても知らねえぞ!」
波旬様が法被の片肌を脱ぎ、隆々とした筋肉を見せつけた。 そして、斬鉄を振り上げ、思い切り太鼓の皮に叩きつけた。
ドォォォォン!!!!
腹に響く重低音。 巨大ホーンによって増幅されたその音は、まるで地響きのように谷全体を震わせた。 「うおっ!?」 最前列の罪人たちが、音圧でよろめく。
「――聞けェェェッ!! 地獄の底の愚民どもォォォッ!!」
波旬様が吠えた。 ドン! ドン! ドドン!! 原始的なリズム。けれど、生物の本能を直接叩くような、力強い鼓動。
『ヒャハハハ! 響けェ! もっと激しく叩きつけろォォ!!』
斬鉄がインパクトの瞬間に魔力を放出し、爆発のような轟音を生み出す。
「踊れ! 叫べ! テメェらの罪も後悔も、全部忘れちまえ!!」
「ソレ! ええじゃないか! ええじゃないか!」
私が横で鉦を鳴らし、合いの手を入れる。 すると、死んでいた罪人たちの目に、怪しい光が戻り始めた。 太鼓のリズムが、彼らの心臓の鼓動とシンクロしていく。
「……ええじゃないか」 「罪があっても、ええじゃないか!」 「地獄でも、ええじゃないか!」
一人が踊り出すと、それは爆発的に伝染した。 数千人の罪人たちが着物を着崩し、両手を挙げて狂ったように踊り始めたのだ。
「ヨイヨイ! ヤサエ・エンヤン!」 「ええじゃないか! ええじゃないか!」 「波旬様ァァァ! 地獄一ィィィ!」
阿波踊りのような、民衆暴動のような、凄まじい熱気。 叫喚地獄に、久方ぶりの「絶叫」が戻ってきた。それも、悲痛な叫びではなく、魂を解放する狂乱の叫びとして。
◆
「……大成功ですね」 私は櫓の隅で、満足げにその光景を見下ろしていた。 汗だくになりながら太鼓を乱れ打ちする波旬様。 飛び散る汗がマグマの光に照らされて輝いている。 その姿は、まるで雷神様のようだ。
(やっぱり、かっこいいですよ。私の旦那様)
宴は朝まで続き、罪人たちは全員声が枯れるまで叫び、踊り倒した。 翌日、憑き物が落ちたようにスッキリした顔で「ふぅ、いい汗かいた」と労働に戻る者が続出し、叫喚地獄の生産性はV字回復したという。
さあ、残るはあと一箇所。 最後の試練は、地獄の最果てにある「無間地獄」。 そこには、これまでのお祭り騒ぎとは比較にならない「深刻な崩壊」が待ち受けていた。
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