みんな大好き、中華料理

佐山ぴよ吉

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綾斗視点

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 部屋の中は滅茶苦茶になっていた。
 クローゼットの中のものが全部外に出ている。あの中に琴子が居ないか探していたのかもしれない。
 本を抱き締めたま眠っていた。琴子が以前好きだと言っていた本だ。これは琴子に貸していたはずだ。届いた荷物の中に入っていたのだろう。

 琴子。琴子。なんで居ないんだ、琴子。
 メッセージも送れなくなっている。ブロックされているからだ。

 電話番号をもっとしつこく聞いていれば良かった。
 もっと俺が琴子の事を気持ち良くしてあげれたら。
 いや、もっと色んなところにデートしに行ったり外食すれば良かったのだろうか。

 琴子の作る料理はどれも絶品で、俺は琴子の手料理じゃないと食べる気がしなくなっていた。
 琴子の家以外での俺の主食は実家でも学校でもプロテインとサプリメントだけだ。食べ物に煩い親にとってはその事について発狂寸前だったらしい。琴子の家に入り浸るようになってからは沢山食べさせて貰ってきなさいと送り出されるようになっていた。

 琴子が料理するのが好きなことは知っていたし、食材をたまに買ってきては勝手に琴子の家の冷蔵庫に押し込んでいた。
 でも本当はもっと色んな場所に行きたかったのかもしれない。
 もっと琴子がしたい事をしてあげれば良かった。

 あれこれ後悔しても仕方がない。
 とにかく琴子を探して、誤解を解くしかない。

 そう思い、大学を中心に宛もなくさまよい続けた。
 母さんは何か知っているようだったけれども何も教えてくれない。「そのうち必ず戻ってきてくれるわ」などと呑気な事を言っているが、1度たりとも琴子以外の奴が作った飯も食べたくないし一瞬たりとも琴子が居ない空気を吸いたくない俺はノイローゼのように琴子を探し続けた。
 琴子が友人と3人で飲み屋から出てきたと後輩に聞き、すぐさま駆けつけると、琴子は夜行バスに乗り込む所だった。
 叫びながら走り続けるが、いつもよりも足が重い。何食も抜いたせいで筋力が落ちている。

 もうほんの少しでも前に出る事ができれば、バスを止められたのに。

 足が動かなくなり、行ってしまったバスを見送りながら人目も憚らずに泣き叫んでいた。
 その場で巡警に職務質問され、学生証を確認されて途切れ途切れ事情を話すと諭されるように家に帰された。



「琴子ちゃんはね、すごく思い違いはしているけれども、あなたの幸せを考えていることは間違いないわ。きっと誤解が解ければ戻ってきてくれるはずよ」

 泣きながら帰ってきた俺の背中を擦りながら母さんが言った。

「ただ、あの様子だと琴子ちゃんの誤解は思ったよりも深い所にあるわね。綾斗が今無理やり迫っても、琴子ちゃんは逃げていってしまうだけよ。だからね──」

 母さんは学生時代、大学女子空手チャンピオンの座もミスコン女王の座もタカクラ食研の社長の長男である父さんの彼女の座も欲しいままにした、狙った獲物は逃さない女豹だとの呼び声も高かったと教授に聞いたことがある。

 そんな母さんの目が暗くぎらりと光った気がした。

「──周りからじわじわと追い詰めて、逃げられないようにしてから、じっくり1枚1枚薄皮を剥ぐようにして誤解を解いていけばいいのよ。うふふ」
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