【R-18】魔力が無いと生きていけないので、婚約者になりました。

佐山ぴよ吉

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本編

雪華-3

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(side:春成)

「……という訳で、康成と結んだ契約呪いによって僕は幸の事を独占することが出来ない。泰雅があの契約を拒んでくれれば、泰雅が幸を護る意志が無いとみなして呪いも部分的に消滅したかもしれなかったんだが」
「だからわざと俺に不利な交渉持ちかけたのかよ……」
 
 幸を見間山から連れてきた経緯を話し終えると、テーブル越しの泰雅が苦虫を噛み潰したような顔で天を仰ぐ。

 魔術契約は、契約を拒んだ時、その込められた魔力が強ければ強い程、契約文が拒絶反応を起こす。
 例えば「未成年者との婚前交渉を禁止する」という契約文を強い魔力で作成したとする。
 それを拒んだ場合、契約文が拒絶反応を起こし、契約しようとしていた者が「未成年者と婚前交渉をする意思がある」とみなされる。それに強制力のある禁止条項──未成年者保護条例など──がその者に何らかの制裁を下す場合がある。

 魔術契約というものは慎重に扱わなくてはならない。契約文は契約書を作る為の資格を持った第三者によって作成されるが、強い魔力を込めるにはより高位の魔術師でなければならない。
 それにはそれなりのつてや対価が必要となる。
 今回は宮間の専属ではなく個人的な頼りのみで魔術司法書士を探し、結構なものを作ってもらったつもりだ。

 泰雅との契約には、幸を護る事も含まれている。
 泰雅が契約を拒めば契約文に込められた魔力が拒絶反応を起こし、僕の中の康成の呪いと拮抗するはずだった。
 そうすれば泰雅の幸に関する記憶はおそらく消えていただろう。

 しかし、当ては若干外れたが強力な助手ができたということで手を打とう。
 
「幸の事は、双子には何も言うなよ」
「ああ。言わない、絶対に……。バレたら……あいつらのことだから……。ああーっ!バレたくない!でもバレるんだろうな!あいつらのことだから!」
 
 末の弟達に事の次第が知られるのも時間の問題だと思っている。

 彼らは情報層が揺りかごであり、仕事場であり、遊び場のような奴らだ。
 目の前にいる弟もそうだ。泰雅が帰国すれば幸との関係がすぐにつまびらかになる事は予想の範疇だった。
 まさか帰国数分で幸の唇を奪ってくるとは思わなかったが。

「とにかく、今後幸と接触する事は構わない……というか、僕には干渉出来ない。だが、粘膜接触は幸の精神を護る為にも僕の姿で行って貰う」
「……確かにいきなり知らない男とじゃあ、なあ……でも俺が幸ちゃんとちゃんと知り合って、幸ちゃんに好かれれば、俺として体のお付き合いもしていいってこと……?」
「それは幸次第だ」

 僕の目の前で憚らずにガッツポーズをする泰雅を見ながら、手土産の酒を煽る。


「そういえば、その大叔父さんの契約の事は幸ちゃんは知ってるのか?」
「いいや、何も知らない」
「……教えてやった方が良いんじゃないか?」
「教えたら、幸は結婚の為に──宮間の家の為に、自分は治療されていると思うだろう。僕は、幸の全てを取り戻す為に治療をしているんだ。教える理由は無い」
「そうか……。なぁ、俺にも、治療魔術教えろよ」
「……ああ。勿論だ。お前、明日は早いのか?」
「うーん、まあな……今日はもう帰る。酒も入っちまったし。でもその前にさ、幸ちゃんにおやすみのチューさせて」
「勝手にしろ。幸は起こすなよ」


 ──宮間泰雅。5つ下の、僕と半分血を分けた弟。
 下半身の緩さは否めないが、それ以外は優秀な宮間グループの情報エレクトロニクス事業部営業一課所属のエース。表の顔は。
 言葉遣いから軽薄な印象を抱く人間は多いが、弟妹達の中でも1番冷静に事を見据えるタイプだ。
 僕以外の上層部が最近この弟に諜報員の真似事をさせているのを内部ネットワークを監査中に発見したが、背筋が薄ら寒くなるほどいい仕事をしているのを見て微笑ましく行く末を眺めている所である。
 契約で泰雅を縛るつもりはさらさら無かったが、協力者としてはこの上ない。

 ──はるにい。

 幼い泰雅の声が脳裏にこだまする。

 ──はるにい。どうして俺は、はるにいと一緒に住めないの。もう、あそこは嫌だ───

 泣きながらすがりついてきた幼い頃の弟。
 あの頃とは体格も声も大分変わってしまったが、僕はいつもその面影を胸に抱いている。

 ──大丈夫だよ、泰雅。僕は蝶の姿になって、いつでも会いに行くよ。

 今も昔も変わらず愛おしい5人の弟妹達。

 幸を、弟達と共に愛する。
 僕も弟達も、間違いなく幸を愛するだろう。

 しかし、幸は?
 幸はこの兄弟を、平等に愛するのだろうか。
 誰か1人を選ぶのだろうか。
 そうだとしたら───誰を?

 泰雅が幸の隣に寝そべって頬にキスを落とす。
 僕はその隣で、反対側の幸の頬に口付ける。
 幸の安らかな寝顔を毎日見ることができるように、願いを込めて。

 ーーーーー

 次の日。21時を回った頃。

 幸は夢中で泰雅のちんぽにしゃぶり付いている。
 迸った体液と精液が幸の足の間を伝わっている。
 僕のちんぽは歓喜と共に幸の蜜壷を往復し続けている。

 幸には泰雅が僕の姿に見えるように暗示をかけてあるため、泰雅のちんぽを僕のちんぽだと思って舐めまわしているのだが、あの口の中の感触を泰雅も味わっているのかと思うと少し羨ましい。
 だが、幸はちんぽをしゃぶり始める前よりも確かに、僕のちんぽを下の口でもしゃぶるようにきゅうきゅうと膣圧が増している。
 しゃぶりながら、感じているのか。……可愛い。
 もしかして先刻僕のものをしゃぶっていた時も、膣の中は同じような挙動をしていた──?
 それを知ることができるなんて、予想外の功績だ。

「幸。頑張ったな。偉いぞ」

 泰雅の精液を飲み干し、泰雅と深いキスを重ねている幸にちんぽを嵌めながら後ろから囁くと、膣をびくびくとうねらせながら達した。……そんなに泰雅とのキスがいいのか。
 少し悔しいと感じるが、その律動に耐えきれず射精する。
 幸はキスをしながらの正常位も好きなようだが、バックからの方がより早く達する。泰雅と僕のどちらかがキスをしながら、バックで突けば……などと考えているうちに、スマホが震えた。

 琉香だ。

「はる兄。今すぐ来て。七方の情報がもう少し掴めた」
 
 切羽詰まった琉香の声がする。
 急ぎの要件のようだ。

 幸を泰雅に任せ、すぐに指定座標へと転移する。
 

 ビル全体が沈黙していた。
 深夜2時。都市のノイズがわずかに遠のき、データの流れだけが聞こえる時間。
 僕と琉香は、SIグループ中枢タワーの情報層に並列ログインしていた。

 視界一面に、光の糸が網のように走っている。
 演算構造体データ・カタコンベ。──人間の記憶と企業の記録、全てが重なり合う深層情報墓地だ。

「ここ、ほんとに潜る? セキュリティ階層、6重以上あるよ」

 琉香の声が電子の残響になって響く。
 彼女の今日のアバターは短髪仕様だ。
 灰色のコートに、背面には演算補助機プロセッサ・レギオンを展開している。
 相変わらず昆虫の姿しか取れない僕よりもかなり自由度は高い。羨ましい。

「だが、ここなんだろう」
「そう。七方涼介の名前を見たんだ。幸ねえのデータと同じレイヤーに埋まっていた」
「つまり、“意図的に隠された”データだな」
「そうだ。あの男が関わっているなら、放置できない。行くしかない」

 僕は魔術式の演算陣を重ねた。
 数式が光となり、層の鍵を削っていく。
 静寂の中で、金属の鎖を切るような音がした。

 ──第4階層、突破_
 ──第5階層、認証バイパス完了_

「よし、あとひとつ」
「待って。侵入検知が走ってる。パターンが……防衛核と同じ形式、だよっ!」

 琉香が入力デバイスのホログラムを展開し、指先を滑らせる。
 赤い警告文が無数に流れる中、琉香はにやりと笑った。彼女は、武者震いのように肩を戦慄かせた。

「逆トレース、仕掛けるね」
「やれるか?」
「やれるよ。はる兄のコードなら」

 僕はうなずき、琉香のコードに自分の魔術式を重ねた。
 演算が同期し、データ層全体が青白く光る。
 干渉を検知した防衛システムが一瞬だけフリーズし、扉が開いた。

 ──最深部、到達。

 空間の中央に、無数のデータ球が浮かんでいる。
 そのひとつに、明らかな異物があった。
 他のデータよりも暗く、脈動している。

「……見つけたようだな」
「待って、これ……アクセスコードの1部が、吉ねえの署名体系で暗号化されてる……しかも、七方のコードと、1体化してる……?」

 琉香が眉をひそめ、タブレットを叩く。
 ホログラム上に複雑な署名パターンが浮かび上がった。

「……そうか」

 声に出した瞬間、データ層全体が微かに震えた。
 目の前にデータ球が現れる。

「吉野のコピー体に埋め込まれた暗号化魔術はもうこちらの手にある」

 情報層内の吉野から受け取ったコード列を翅脈上に展開させる。
 禍々しい色合いのコード列は、螺旋状に絡まって混ざり合い、触覚の上を蠢いた。
 瑠香がそれを掴んでデータ球に殴り付けた。

 ──第6段階、アクセスコード認証。ロック解除_

 データ球が輝きを放つ。
 瑠香がそっと手をかざし、データを展開させる。

「なにこれ。“Project SHIKI”……七方涼介の旧研究プロジェクト……?うわ、“母様”の名前使ってる……キモッ」

 データ球に触れると、空間が反転する。
 無数の数式の粒光が乱舞し、それが1箇所に集まると映像が浮かんだ。

 黒い服装の男が、微笑んでいる。
 七方涼介。
 年齢は、データによると56歳。年相応の皺のある青白い顔、そして瞳の奥には、狂気のようなものが宿っていた。

『キモッとはなんだ。やはり低脳な従属生物だな。やあやあ、クソガキも。やはりお前達が来たか』

 映像を睨みつけるが、七方はひょうひょうと笑って躱した。

「C-13シリーズのコードを寄越せ」
『ああああ!やはり探しているんだな!』

 七方は急に興奮するように息を荒らげた。まるで探し求めていた玩具を見つけた子供のように。

『そう、そうだ。宮間の血が“魔力なし”を求めるのは、遺伝子の構造上の、宿命だ!魔力なしを求めるほどクソガキ、お前は壊れていく。ふふふ、だがそれでいい。お前が情報層で求めれば求めるほど、次の“式”が生まれる……あの方の偏在性は高まる!』

 映像は途切れた。
 ただひとつ、残されたログがある。

 ──座標:緯度38.2517N 経度137.9124E
 ──施設名:M.Lab North Base

 琉香が息を呑んだ。

「これ、うちの北域研究所だよ。……法律上は“閉鎖済み”になってるハズだけど……」
「だが、実際はまだ生きてる。七方はそこにいるという事だろう」

 僕はデータを閉じ、背後のノイズを振り返った。
 防衛核が再起動を始めている。
 時間はもうない。

「琉香、抜けるぞ」
「うん。でも……はる兄」

 琉香が、わずかに躊躇した声で言う。

「七方が言ってた偏在性って、どういう意味?」
「さあな──いずれにせよ、何かを企んでいる。警戒は怠るな」

 情報層の光が弾け、現実層への帰還ゲートが開く。

 ──壊れても構わない。たとえ、呪われても。
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