モラハラ幼馴染から逃げた先は雪国でした〜先祖返りした雪女は引きこもります

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2章 春:出会い篇

10 いい湯だな②

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「正さんのことが好きだったんじゃないの? わたしには近づくなって言ったよね?」

美咲が目を丸くして、まりなを見る。

「まりな、そんなこと言ったの?」
「え~別に~」
「別にってあんた……」
「正さん、顔だけはちょっとカッコいいなと思っただけだもん。わたし大学は東京行くし! それまでの期間限定なら付き合ってあげてもいいかなってだけ~」

まりなは、言い逃げするように服を脱いで浴場に入っていく。
ゆきは追いすがった。

「それって、好きじゃないってこと?」
「もう、ゆきちゃん、しつこーい」

まりなは体を洗い始めながら、うるさそうに顔をしかめた。
美咲がまりなの横に座りながら、不思議そうな顔をする。

「でもまりな、どっちかっていうと大樹くんのが好みって言ってなかったっけ?」
「……美咲ちゃん、それ嫌味? まりなは大樹くんが好みだけど、大樹くんの好みは美咲ちゃんだよってこと?」
「そんなこと言ってないでしょ。ひねくれないでよ。……まりなは大樹くんのこと好きじゃないのわかってるし」
「はいはい。2人がラブラブなのは見せつけられてるし、お邪魔虫しようなんて思ってませんよぉ」

まりなはプイッとそっぽを向いてしまう。
すねて顔を真っ赤にしている様子は、とても嘘をついてるようには見えなかった。

(つまり、正さんより大樹さんのが好みだけど、美咲ちゃんの彼氏だから狙ってないし、とりあえずで正さんはキープしときたいということ?)

うーん、と首をひねる。

好みでない正より、友達の彼氏とはいえ好みの大樹を優先する?

どうも、いままでのまりなの印象とは違う気がした。

悩む間も、まりなはさっさと体を洗い終わりそうだった。

置いていかれないよう、ゆきは一生懸命体に泡をたてていく。
そのまま備え付けのシャンプーで髪を洗おうとすると、まりなに『信じられない』という顔をされた。

「なんなの? いつもここのシャンプー使ってるの? うそでしょ? まじでありえないんだけど!」

髪に泡をつけた状態で、ゆきは首を傾げた。
何が問題なのだろうか。

まりなはイライラした様子で、自分のシャンプーを前に出してきた。

「ああ、もう! これ使いなさいよ! いくら貧乏だからって、女子として限度あるから。東京から来たのうそでしょ? 本当だとしら残念過ぎるんですけど! 東京在住以外の全女子に謝りなさいよ!」

あまりの勢いに、ゆきはわけもわからずシャンプーを受け取る。

ぷりぷり怒るまりなの横から、美咲が苦笑しながらたしなめる。

「なんで、そこでそんな言い方しちゃうのよ、まりなは」
「何がよ!」
「ゆきちゃんのキレイな髪って憧れだから私のシャンプー使ってほしいな、でしょ? ほら真似して言ってごらんよ?」

まりなは真っ赤になって憤慨した。

「もう! なんなの! 美咲ちゃん、信じられない!」

否定もせずに湯船に突進するまりなに、ゆきは困惑した。

美咲と目が合うと、肩をすくめる。

「まりなはわかりにくい子だから、面倒だと思うけど、嫌わないでやってね」

(ますます、わけがわからないんだけど……)

これでは、まりながゆきと友達になりたいと言っているようなものだ。

まりなのシャンプーを本当に使っていいのかわからない。
だけど、使っていいか聞こうものなら、まりなが烈火のごとく怒るのだけは想像できた。

手早く使わせてもらうと、とてもいい匂いがした。

「ゆきちゃん、洗い終わったんなら、湯船いこ」

美咲とつれだって、まりながいる湯船につかり、近づいた。
避けるかと思ったが、予想に反して、まりなは大人しくその場にとどまっている。

「まりなちゃん、シャンプーありがとう」

お礼を言っても、まりなはふんと顔を背けている。
でも、心なしか、耳が赤い。

(え? ツンデレなの? まさか本当に私とただ友だちに?)

キツネにつままれたような心持ちになる。

正のことを好きでもない。
ゆきとは友だちになりたい。

どちらも、まりなの行動とそぐわないと思うのに。
ゆきは困惑しながら、改めて聞いてみる。

「……まりなちゃんはなんで正さんのことで私を牽制してきたの?」

すごい強い目ににらみつけられた。

「ゆきちゃん、本気でしつこいし! だから、好きじゃないわよ! あんな田舎で満足してるやつ。おばあおばあうるさいし、なんなの? オバアコンなの? いい年して気持ち悪いんですけど!」
「ちょ、まりな、それ悪口だから」
「はあ? 事実しか言ってないんですけど?」

いくら今は人が少ないとはいえ、声が大きすぎる。

「本当に好きじゃないんだ……」
「なに? ゆきちゃん、まさか正さんのこともう好きになったの? 引っ越してきたばっかなのに? 早くない? 東京の子って、やっぱり手が早いんだねぇ。やだこわーい」

馬鹿にするような口調だけど、なんとなく照れ隠しなのかもしれないとも思った。
だから、ゆきが正に感じている気持ちを素直に口にする気になった。

「好きとかはよくわからないけど、……正さんは、なんかお父さんみたいで安心するんだ」

せっかく、気持ちそのままを言葉にしたのに。

何言ってんだこいつという顔で、まりなが舌打ちしてくる。

「はあ? お父さんなわけないでしょ」
「そうなんだけど、でも、好きってよくわらかないし、それに、私に好かれても迷惑じゃないかな」
「別に勝手に好きになればいいんじゃない? だれも止めてないし」
「まりな……」

牽制しといてどの口がそれを言うのか。
思ったものの、彼女の勢いを止められる者はここにはいなかった。
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