17 / 35
2章 春:出会い篇
10 いい湯だな②
しおりを挟む
「正さんのことが好きだったんじゃないの? わたしには近づくなって言ったよね?」
美咲が目を丸くして、まりなを見る。
「まりな、そんなこと言ったの?」
「え~別に~」
「別にってあんた……」
「正さん、顔だけはちょっとカッコいいなと思っただけだもん。わたし大学は東京行くし! それまでの期間限定なら付き合ってあげてもいいかなってだけ~」
まりなは、言い逃げするように服を脱いで浴場に入っていく。
ゆきは追いすがった。
「それって、好きじゃないってこと?」
「もう、ゆきちゃん、しつこーい」
まりなは体を洗い始めながら、うるさそうに顔をしかめた。
美咲がまりなの横に座りながら、不思議そうな顔をする。
「でもまりな、どっちかっていうと大樹くんのが好みって言ってなかったっけ?」
「……美咲ちゃん、それ嫌味? まりなは大樹くんが好みだけど、大樹くんの好みは美咲ちゃんだよってこと?」
「そんなこと言ってないでしょ。ひねくれないでよ。……まりなは大樹くんのこと好きじゃないのわかってるし」
「はいはい。2人がラブラブなのは見せつけられてるし、お邪魔虫しようなんて思ってませんよぉ」
まりなはプイッとそっぽを向いてしまう。
すねて顔を真っ赤にしている様子は、とても嘘をついてるようには見えなかった。
(つまり、正さんより大樹さんのが好みだけど、美咲ちゃんの彼氏だから狙ってないし、とりあえずで正さんはキープしときたいということ?)
うーん、と首をひねる。
好みでない正より、友達の彼氏とはいえ好みの大樹を優先する?
どうも、いままでのまりなの印象とは違う気がした。
悩む間も、まりなはさっさと体を洗い終わりそうだった。
置いていかれないよう、ゆきは一生懸命体に泡をたてていく。
そのまま備え付けのシャンプーで髪を洗おうとすると、まりなに『信じられない』という顔をされた。
「なんなの? いつもここのシャンプー使ってるの? うそでしょ? まじでありえないんだけど!」
髪に泡をつけた状態で、ゆきは首を傾げた。
何が問題なのだろうか。
まりなはイライラした様子で、自分のシャンプーを前に出してきた。
「ああ、もう! これ使いなさいよ! いくら貧乏だからって、女子として限度あるから。東京から来たのうそでしょ? 本当だとしら残念過ぎるんですけど! 東京在住以外の全女子に謝りなさいよ!」
あまりの勢いに、ゆきはわけもわからずシャンプーを受け取る。
ぷりぷり怒るまりなの横から、美咲が苦笑しながらたしなめる。
「なんで、そこでそんな言い方しちゃうのよ、まりなは」
「何がよ!」
「ゆきちゃんのキレイな髪って憧れだから私のシャンプー使ってほしいな、でしょ? ほら真似して言ってごらんよ?」
まりなは真っ赤になって憤慨した。
「もう! なんなの! 美咲ちゃん、信じられない!」
否定もせずに湯船に突進するまりなに、ゆきは困惑した。
美咲と目が合うと、肩をすくめる。
「まりなはわかりにくい子だから、面倒だと思うけど、嫌わないでやってね」
(ますます、わけがわからないんだけど……)
これでは、まりながゆきと友達になりたいと言っているようなものだ。
まりなのシャンプーを本当に使っていいのかわからない。
だけど、使っていいか聞こうものなら、まりなが烈火のごとく怒るのだけは想像できた。
手早く使わせてもらうと、とてもいい匂いがした。
「ゆきちゃん、洗い終わったんなら、湯船いこ」
美咲とつれだって、まりながいる湯船につかり、近づいた。
避けるかと思ったが、予想に反して、まりなは大人しくその場にとどまっている。
「まりなちゃん、シャンプーありがとう」
お礼を言っても、まりなはふんと顔を背けている。
でも、心なしか、耳が赤い。
(え? ツンデレなの? まさか本当に私とただ友だちに?)
キツネにつままれたような心持ちになる。
正のことを好きでもない。
ゆきとは友だちになりたい。
どちらも、まりなの行動とそぐわないと思うのに。
ゆきは困惑しながら、改めて聞いてみる。
「……まりなちゃんはなんで正さんのことで私を牽制してきたの?」
すごい強い目ににらみつけられた。
「ゆきちゃん、本気でしつこいし! だから、好きじゃないわよ! あんな田舎で満足してるやつ。おばあおばあうるさいし、なんなの? オバアコンなの? いい年して気持ち悪いんですけど!」
「ちょ、まりな、それ悪口だから」
「はあ? 事実しか言ってないんですけど?」
いくら今は人が少ないとはいえ、声が大きすぎる。
「本当に好きじゃないんだ……」
「なに? ゆきちゃん、まさか正さんのこともう好きになったの? 引っ越してきたばっかなのに? 早くない? 東京の子って、やっぱり手が早いんだねぇ。やだこわーい」
馬鹿にするような口調だけど、なんとなく照れ隠しなのかもしれないとも思った。
だから、ゆきが正に感じている気持ちを素直に口にする気になった。
「好きとかはよくわからないけど、……正さんは、なんかお父さんみたいで安心するんだ」
せっかく、気持ちそのままを言葉にしたのに。
何言ってんだこいつという顔で、まりなが舌打ちしてくる。
「はあ? お父さんなわけないでしょ」
「そうなんだけど、でも、好きってよくわらかないし、それに、私に好かれても迷惑じゃないかな」
「別に勝手に好きになればいいんじゃない? だれも止めてないし」
「まりな……」
牽制しといてどの口がそれを言うのか。
思ったものの、彼女の勢いを止められる者はここにはいなかった。
美咲が目を丸くして、まりなを見る。
「まりな、そんなこと言ったの?」
「え~別に~」
「別にってあんた……」
「正さん、顔だけはちょっとカッコいいなと思っただけだもん。わたし大学は東京行くし! それまでの期間限定なら付き合ってあげてもいいかなってだけ~」
まりなは、言い逃げするように服を脱いで浴場に入っていく。
ゆきは追いすがった。
「それって、好きじゃないってこと?」
「もう、ゆきちゃん、しつこーい」
まりなは体を洗い始めながら、うるさそうに顔をしかめた。
美咲がまりなの横に座りながら、不思議そうな顔をする。
「でもまりな、どっちかっていうと大樹くんのが好みって言ってなかったっけ?」
「……美咲ちゃん、それ嫌味? まりなは大樹くんが好みだけど、大樹くんの好みは美咲ちゃんだよってこと?」
「そんなこと言ってないでしょ。ひねくれないでよ。……まりなは大樹くんのこと好きじゃないのわかってるし」
「はいはい。2人がラブラブなのは見せつけられてるし、お邪魔虫しようなんて思ってませんよぉ」
まりなはプイッとそっぽを向いてしまう。
すねて顔を真っ赤にしている様子は、とても嘘をついてるようには見えなかった。
(つまり、正さんより大樹さんのが好みだけど、美咲ちゃんの彼氏だから狙ってないし、とりあえずで正さんはキープしときたいということ?)
うーん、と首をひねる。
好みでない正より、友達の彼氏とはいえ好みの大樹を優先する?
どうも、いままでのまりなの印象とは違う気がした。
悩む間も、まりなはさっさと体を洗い終わりそうだった。
置いていかれないよう、ゆきは一生懸命体に泡をたてていく。
そのまま備え付けのシャンプーで髪を洗おうとすると、まりなに『信じられない』という顔をされた。
「なんなの? いつもここのシャンプー使ってるの? うそでしょ? まじでありえないんだけど!」
髪に泡をつけた状態で、ゆきは首を傾げた。
何が問題なのだろうか。
まりなはイライラした様子で、自分のシャンプーを前に出してきた。
「ああ、もう! これ使いなさいよ! いくら貧乏だからって、女子として限度あるから。東京から来たのうそでしょ? 本当だとしら残念過ぎるんですけど! 東京在住以外の全女子に謝りなさいよ!」
あまりの勢いに、ゆきはわけもわからずシャンプーを受け取る。
ぷりぷり怒るまりなの横から、美咲が苦笑しながらたしなめる。
「なんで、そこでそんな言い方しちゃうのよ、まりなは」
「何がよ!」
「ゆきちゃんのキレイな髪って憧れだから私のシャンプー使ってほしいな、でしょ? ほら真似して言ってごらんよ?」
まりなは真っ赤になって憤慨した。
「もう! なんなの! 美咲ちゃん、信じられない!」
否定もせずに湯船に突進するまりなに、ゆきは困惑した。
美咲と目が合うと、肩をすくめる。
「まりなはわかりにくい子だから、面倒だと思うけど、嫌わないでやってね」
(ますます、わけがわからないんだけど……)
これでは、まりながゆきと友達になりたいと言っているようなものだ。
まりなのシャンプーを本当に使っていいのかわからない。
だけど、使っていいか聞こうものなら、まりなが烈火のごとく怒るのだけは想像できた。
手早く使わせてもらうと、とてもいい匂いがした。
「ゆきちゃん、洗い終わったんなら、湯船いこ」
美咲とつれだって、まりながいる湯船につかり、近づいた。
避けるかと思ったが、予想に反して、まりなは大人しくその場にとどまっている。
「まりなちゃん、シャンプーありがとう」
お礼を言っても、まりなはふんと顔を背けている。
でも、心なしか、耳が赤い。
(え? ツンデレなの? まさか本当に私とただ友だちに?)
キツネにつままれたような心持ちになる。
正のことを好きでもない。
ゆきとは友だちになりたい。
どちらも、まりなの行動とそぐわないと思うのに。
ゆきは困惑しながら、改めて聞いてみる。
「……まりなちゃんはなんで正さんのことで私を牽制してきたの?」
すごい強い目ににらみつけられた。
「ゆきちゃん、本気でしつこいし! だから、好きじゃないわよ! あんな田舎で満足してるやつ。おばあおばあうるさいし、なんなの? オバアコンなの? いい年して気持ち悪いんですけど!」
「ちょ、まりな、それ悪口だから」
「はあ? 事実しか言ってないんですけど?」
いくら今は人が少ないとはいえ、声が大きすぎる。
「本当に好きじゃないんだ……」
「なに? ゆきちゃん、まさか正さんのこともう好きになったの? 引っ越してきたばっかなのに? 早くない? 東京の子って、やっぱり手が早いんだねぇ。やだこわーい」
馬鹿にするような口調だけど、なんとなく照れ隠しなのかもしれないとも思った。
だから、ゆきが正に感じている気持ちを素直に口にする気になった。
「好きとかはよくわからないけど、……正さんは、なんかお父さんみたいで安心するんだ」
せっかく、気持ちそのままを言葉にしたのに。
何言ってんだこいつという顔で、まりなが舌打ちしてくる。
「はあ? お父さんなわけないでしょ」
「そうなんだけど、でも、好きってよくわらかないし、それに、私に好かれても迷惑じゃないかな」
「別に勝手に好きになればいいんじゃない? だれも止めてないし」
「まりな……」
牽制しといてどの口がそれを言うのか。
思ったものの、彼女の勢いを止められる者はここにはいなかった。
0
あなたにおすすめの小説
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
見捨ててくれてありがとうございます。あとはご勝手に。
有賀冬馬
恋愛
「君のような女は俺の格を下げる」――そう言って、侯爵家嫡男の婚約者は、わたしを社交界で公然と捨てた。
選んだのは、華やかで高慢な伯爵令嬢。
涙に暮れるわたしを慰めてくれたのは、王国最強の騎士団副団長だった。
彼に守られ、真実の愛を知ったとき、地味で陰気だったわたしは、もういなかった。
やがて、彼は新妻の悪行によって失脚。復縁を求めて縋りつく元婚約者に、わたしは冷たく告げる。
『紅茶の香りが消えた午後に』
柴田はつみ
恋愛
穏やかで控えめな公爵令嬢リディアの唯一の楽しみは、幼なじみの公爵アーヴィンと過ごす午後の茶会だった。
けれど、近隣に越してきた伯爵令嬢ミレーユが明るく距離を詰めてくるたび、二人の時間は少しずつ失われていく。
誤解と沈黙、そして抑えた想いの裏で、すれ違う恋の行方は——。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
王子様への置き手紙
あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯
小説家になろうにも掲載しています。
後宮薬師は名を持たない
由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。
帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。
救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。
後宮が燃え、名を失ってもなお――
彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる