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2章 春:出会い篇
11 いい湯だな③
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「でもさぁ、引っ越したっばっかなのに、ゆきちゃん好きになるの早くない? 尻軽っぽい感じ?」
「また、まりなは……。さっき好きになればいいって言ってたのはあんたでしょ」
「勝手にすればって言っただけだし。だって、正さんてなんかムッツリっぽいし、まりなはゆきちゃんに合わないと思うなぁ」
まりなは、拗ねるように口を尖らせる。
諭すように、美咲が優しい声を出した。
「もう、そんな言い方だと、嫌われるよ? ゆきちゃんが正さん好きでも、そうじゃなくても、まりなと仲良くしてって言えばいいだけでしょ」
「別に仲良くしたいなんて思ってないし!」
「また意地張る~」
だって、とまりなが美咲をねめつけた。
「美咲ちゃんだって! 結局、大樹くんのこと優先するじゃん! 美咲ちゃんは私の親友なのに彼氏できたら相手してくれないし~、東京から来たゆきちゃんの相手でも仕方ないからしてあげるかって思ったら、もうこんな田舎に馴染んでるし~」
つまんない!と言って、まりなはまた湯にざぶんとつかる。
「わかったわかった、最近、遊んでなかったもんね、悪かったわよ。今日はたくさん遊ぼう。ゆきちゃんだってまりなと遊びたいって言ってたんだよ?」
美咲が、まりなに隠れるようにゆきに視線で合図を送ってくる。
(えええ? 言ってないんだけど、そんなこと)
しかし、期待するような目でにらんでくるまりなに、ゆきは言うしかなかった。
「……まりなちゃんともっと、話したい、かな」
「ほらね? まりな!」
美咲に抱きつかれたまりなが、むうっとした顔でむくれている。
ただ、心なしか、顔が少しほころんで見える。
男の人ばかりに夢中な子だと思っていたのに、案外、友情に重きを置くタイプらしい。
第一印象と違う彼女を、ゆきは少しおもしろいと思った。
美咲はまりなの扱いなど慣れたもののようで、おかしそうに言葉を重ねる。
「機嫌直して遊ぼうよ! まりなだって、最近は東京のイケメンと知り合ってデートしてるって自慢してたじゃない? ね? 今日はその話も聞きたいなって思ってたんだよ」
「えー? それ聞いちゃう?」
「うんうん。聞きたい! 本当に付き合うなら、今度、大樹君のお休みの日にダブルデートしようよ!」
よいしょするように美咲が言うと、まりなは機嫌をもち直したようだった。
えへへと笑う。
「まだ付き合ってないけど~。でも毎日連絡くるんだ~。ほら私大学は東京行くつもりだから、住みやすい場所と狙ってる大学のこととか聞いたり、ふふ。けっこういい感じ?」
「いいじゃんいいじゃん!」
ゆきは東京の男の子か、とぼんやり話を聞いていた。
正直、東京は広いので、同郷からきたといわれても、その男性に親近感などわかなかった。
「でも、なんで、こんな田舎に東京の子が来るんだろ? 春休みでもないし。GWもまだ再来週で遠いし」
「うーん。なんか、友だちのとこに遊びにきたって言ってたけど」
2人の話を聞き流しながら、ゆきは先ほどの会話を反芻していた。
(お父さんみたいな人を好きって変じゃないのかぁ……。まあ、だからって私が正さんのことを好きってことにならないと思うけど)
ほかの男の人より、正は特別だ。
それは確かだけど、2人がそれぞれの相手の話をしているように話したいとは思わない。
(だから、好きとは、やっぱり違うのかな?)
ゆきは、湯船の中で三角座りになりながら、恋愛って難しいなと思った。
それにしても暑い。
ゆだりそうな頭では、考えても無駄なのかもしれなかった。
肩までつかるのをやめ、浴槽のふちに腰掛ける。
2人も暑くなったのか、ゆきに並んだ。
「へー。来週もこっちに来るんだ? まりなとデートするの?」
「そうそう! なんかぁ、次は東京の友だちもつれてくるから一緒に遊ぼうって言われてるの~」
「東京の?」
美咲が『東京の友だち』の言葉に食いつく。
前も美咲は東京に興味津々だったので、気になるらしい。
「美咲ちゃんもだから、来週遊ぼうよ~。大樹さんだって、別にグループで遊ぶくらい、なんも言わないって!」
「う~ん。確かに惹かれるけど……」
「ゆきちゃんも、正さんなんてやめてもっと明るい子たちと付き合った方がまりなはいいと思うんだよね。だって、ゆきちゃんが暗いから~」
相変わらず好き勝手を言ってくれる。
「いや、私はいいよ……」
「えー? なんで? 誘ってくれたのめっちゃくちゃカッコいい人だよ? 背も高いし、優しいし、鷹っぽい感じのすごいイケメンだったんだよ! ハーフっぽい顔っていうの? 絶対、こんな田舎じゃ出会えないのに~!」
ハーフ顔のイケメンなら幼馴染で見慣れている。
それに、どちらかというと父や正のような和顔の方が落ち着くのに、と思う。
正さんのことを考えていたら、ゆきに誘いをかけていたまりなが、ぽかんと口を開けた。
「……ゆきちゃんて笑えたんだ」
お湯でほぐれて、自然と笑顔になっていたらしい。
美咲は興奮しながら「かわいい! もっと笑えばいいのに!」と言ってくれる。
女子トークは延々と続く。
終わりの見えない2人の会話に、ゆきはそろそろ出てもいいかな、と彼女たちをぼんやり眺めるしかなかった。
「また、まりなは……。さっき好きになればいいって言ってたのはあんたでしょ」
「勝手にすればって言っただけだし。だって、正さんてなんかムッツリっぽいし、まりなはゆきちゃんに合わないと思うなぁ」
まりなは、拗ねるように口を尖らせる。
諭すように、美咲が優しい声を出した。
「もう、そんな言い方だと、嫌われるよ? ゆきちゃんが正さん好きでも、そうじゃなくても、まりなと仲良くしてって言えばいいだけでしょ」
「別に仲良くしたいなんて思ってないし!」
「また意地張る~」
だって、とまりなが美咲をねめつけた。
「美咲ちゃんだって! 結局、大樹くんのこと優先するじゃん! 美咲ちゃんは私の親友なのに彼氏できたら相手してくれないし~、東京から来たゆきちゃんの相手でも仕方ないからしてあげるかって思ったら、もうこんな田舎に馴染んでるし~」
つまんない!と言って、まりなはまた湯にざぶんとつかる。
「わかったわかった、最近、遊んでなかったもんね、悪かったわよ。今日はたくさん遊ぼう。ゆきちゃんだってまりなと遊びたいって言ってたんだよ?」
美咲が、まりなに隠れるようにゆきに視線で合図を送ってくる。
(えええ? 言ってないんだけど、そんなこと)
しかし、期待するような目でにらんでくるまりなに、ゆきは言うしかなかった。
「……まりなちゃんともっと、話したい、かな」
「ほらね? まりな!」
美咲に抱きつかれたまりなが、むうっとした顔でむくれている。
ただ、心なしか、顔が少しほころんで見える。
男の人ばかりに夢中な子だと思っていたのに、案外、友情に重きを置くタイプらしい。
第一印象と違う彼女を、ゆきは少しおもしろいと思った。
美咲はまりなの扱いなど慣れたもののようで、おかしそうに言葉を重ねる。
「機嫌直して遊ぼうよ! まりなだって、最近は東京のイケメンと知り合ってデートしてるって自慢してたじゃない? ね? 今日はその話も聞きたいなって思ってたんだよ」
「えー? それ聞いちゃう?」
「うんうん。聞きたい! 本当に付き合うなら、今度、大樹君のお休みの日にダブルデートしようよ!」
よいしょするように美咲が言うと、まりなは機嫌をもち直したようだった。
えへへと笑う。
「まだ付き合ってないけど~。でも毎日連絡くるんだ~。ほら私大学は東京行くつもりだから、住みやすい場所と狙ってる大学のこととか聞いたり、ふふ。けっこういい感じ?」
「いいじゃんいいじゃん!」
ゆきは東京の男の子か、とぼんやり話を聞いていた。
正直、東京は広いので、同郷からきたといわれても、その男性に親近感などわかなかった。
「でも、なんで、こんな田舎に東京の子が来るんだろ? 春休みでもないし。GWもまだ再来週で遠いし」
「うーん。なんか、友だちのとこに遊びにきたって言ってたけど」
2人の話を聞き流しながら、ゆきは先ほどの会話を反芻していた。
(お父さんみたいな人を好きって変じゃないのかぁ……。まあ、だからって私が正さんのことを好きってことにならないと思うけど)
ほかの男の人より、正は特別だ。
それは確かだけど、2人がそれぞれの相手の話をしているように話したいとは思わない。
(だから、好きとは、やっぱり違うのかな?)
ゆきは、湯船の中で三角座りになりながら、恋愛って難しいなと思った。
それにしても暑い。
ゆだりそうな頭では、考えても無駄なのかもしれなかった。
肩までつかるのをやめ、浴槽のふちに腰掛ける。
2人も暑くなったのか、ゆきに並んだ。
「へー。来週もこっちに来るんだ? まりなとデートするの?」
「そうそう! なんかぁ、次は東京の友だちもつれてくるから一緒に遊ぼうって言われてるの~」
「東京の?」
美咲が『東京の友だち』の言葉に食いつく。
前も美咲は東京に興味津々だったので、気になるらしい。
「美咲ちゃんもだから、来週遊ぼうよ~。大樹さんだって、別にグループで遊ぶくらい、なんも言わないって!」
「う~ん。確かに惹かれるけど……」
「ゆきちゃんも、正さんなんてやめてもっと明るい子たちと付き合った方がまりなはいいと思うんだよね。だって、ゆきちゃんが暗いから~」
相変わらず好き勝手を言ってくれる。
「いや、私はいいよ……」
「えー? なんで? 誘ってくれたのめっちゃくちゃカッコいい人だよ? 背も高いし、優しいし、鷹っぽい感じのすごいイケメンだったんだよ! ハーフっぽい顔っていうの? 絶対、こんな田舎じゃ出会えないのに~!」
ハーフ顔のイケメンなら幼馴染で見慣れている。
それに、どちらかというと父や正のような和顔の方が落ち着くのに、と思う。
正さんのことを考えていたら、ゆきに誘いをかけていたまりなが、ぽかんと口を開けた。
「……ゆきちゃんて笑えたんだ」
お湯でほぐれて、自然と笑顔になっていたらしい。
美咲は興奮しながら「かわいい! もっと笑えばいいのに!」と言ってくれる。
女子トークは延々と続く。
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