モラハラ幼馴染から逃げた先は雪国でした〜先祖返りした雪女は引きこもります

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3章 夏:再会篇

10 恋の手ほどき①

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「本当にまだいたんだ! まさか優は泊まっていくつもりなの? 女の子の家に非常識じゃない?」

まりなは大量の紙袋放り投げ、優とゆきの間にむりやり体を割りこませた。
いろいろなブランド名のロゴマークが印字された袋だった。
ちゃっかり買い物を済ませてきたらしい。

まりなの父が帰らないので、まりなも家に来るかなとは思っていた。
優と2人でいる空間に辟易していたので、正直助かった。

優はいやそうに顔をしかめる。

「まりなには関係ないだろ」
「ゆきちゃんが迷惑じゃないならね~」

まりながベーっと舌を出す。
それに苛立った優がまりなを睨んだ。

優の素に近い様子に、ゆきは少し驚いてしまう。

(優くんが女子にこんな態度を取るの、初めて見たかも)

外面を気にする優を知っているだけに、新鮮だった。

「まりなのお父さんの方がよっぽど迷惑だと思うけど。深雪さんが再婚なんてするわけないのにつきまとってるの有り得ないよな」
「話すりかえてくる~。優が泊まったら、ゆきちゃんが困るって言ってるのわからないわけ?」
「ゆきがいやがるわけないでしょ。俺たち幼馴染だよ? ゆきのことは、まりななんかより俺のがよくわかってるからね」
「うわ、きもっ!」

まりなが体をひいて、悪態をつく。
煽られ慣れていない優は、それだけで頭に血が上ったようだった。

「俺とゆきのことに、口出ししないでよ! そもそも君ら仲良くなんかないでしょう。ゆきがまりなみたいなタイプと仲良くなれるわけがないんだし」
「いえいえ、親友ですけど~。優こそゆきちゃんのタイプでもないのに、彼氏ヅラしてゆきちゃんの人間関係に口出ししないでよね~」
「はあ?」

優の額に青筋がたった。

前のめりになって、机を強く叩いた。

その音に、ゆきは肩をびくりとさせた。
しかし、まりなはどこ吹く風な様子で、さらに優を煽っていく。

「女子に威嚇とかさいて~い! ゆきちゃん、相手にすることないよ? 今日は私も泊まってあげるし、早くお部屋に行こう!」
「おい!」

怒鳴っても、まりなはまったく意に介さない。

思い通りにならないのを悟り、優がゆきに目を移してくる。

どうにかしろと目が言っている。

ゆきは見なかったことにした。

「おい、ゆき、なに目をそらしてるんだよ」
「まりなと話してるのに感じわるーい。男の嫉妬もきもちわるーい」

2人の言い合いを聞いていると心臓に悪い。

耳を塞いで、自室に向かってしまおうか。

どうせ、明日は日曜だし、そんなに優も長居できないはずだ。
明日まで逃げ切れば、とりあえずの危機は去ってくれるのだ。

「まりなちゃん泊まるって言ってたし、お布団用意してくるね」

言うだけ言って、寝室に向かうことにした。
耳を塞いでいたので、優が何かを言ってたとしてもわからなかった。

しばらくすると、言い負かしたらしい満足顔でまりなが部屋に入ってきた。

「優、キテるね。ねえ、いつもああなの?」
「……怒らせたらけっこうしつこいよ」
「どんだけイケメンでもアレはないわ~」

(そっか、ないのか。優くんに味方しない女子って私以外にもいたんだ……)

そう思うと、まりなに親近感がわくいてくる。
優の愚痴を言える人が現れるなんて、嬉しかった。

「ゆきちゃん、聞くまでもないかもだけど、正さんとどっちがいいわけ?」

正と優の何を比べればいいのだろうか。
ゆきは首を傾げてしまう。

「どっちがいいってなに?」
「だから、どっちもゆきちゃんが好きそうじゃない? どっちを選ぶのってことよ」

まりなまで、優がゆきを好きだと言うなんて。
そんなわけないのに、とゆきは間違いを指摘した。

「優くんは私のことなんて好きじゃないよ。ただ、何も言わず引っ越しちゃったから、飼い犬に噛まれたみたいに思ってのかもだけど」
「それ、本気で言ってるの?」

まりなが呆れた顔になった。

「ゆきちゃんも大概ヤバいやつだよね。飼い犬っていうか、所有物だと思ってるからね、アレは。正さんがゆきちゃんに触れそうになった時、鬼の形相だったんだよ。顔を真っ赤にして、つかみかかるかと思ったし。まじひいたわー」
「正さんに? 全然気づかなかった……」
「ゆきちゃん、いっぱいいっぱいだったからね、あの時。そもそも、引っ越し先を特定して追ってくるとか気持ち悪すぎるんですけど! ストーカー以外のなにものでもないでしょ」
「そうなのかな。でも、うーん、好きとは違うと思うんだけど。本人もそう言ってたし」

(絶対にまりなちゃんの考えすぎだと思う……)

どうしても認められなかった。
だって、言ってたのだ。
好きじゃないって。

納得できなくてまりなを見ていると、匙を投げたような顔になった。

「まあ優のことはいいや。正さんのことは?」
「……好きかってこと?」

正のことを思い浮かべてみる。

好きというのはわからないけど、いつも優しくしてくれる顔ばかりが思い出された。

まりなが、ゆきの記憶を打ち切るように、手を叩いた。

「はいはい、正さんが好きかなんて愚問だったわ」
「わたし、何も言ってないよ?」
「顔が言ってるから!」

(え、顔に? 私の表情筋にそんな芸当が?)

無表情の市松人形と言われるゆきには無縁だと思っていたから、驚いてしまう。

ゆきは自分の頬を不思議そうにペシペシと叩く。
そんなゆきに苦笑しながら、まりなが話を続ける。

「ゆきちゃん、ぜんぜん表情変わんないのに、正さんのこと話すときだけ目もとが赤くなるんだよね~」

そうだ!とまりなが手を打った。

「私、いいこと思いついちゃったかも」

ニヤリと笑ったまりなは、とてもいい顔をしていた。
ゆきは悪い予感がして、まりなを見る。

まりなはゆきを気にすることなく、唐突にスマホを操作し始めた。
不安になって聞いてみる。

「……誰に連絡してるの?」
「な、い、しょ、だ、よ~」

嬉しそうなまりなの暴走を、ゆきに止められるはずがなかった。
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