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3章 夏:再会篇
11 恋の手ほどき②
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「やった! 今から来るって!」
まりながスマホから顔を上げる。
「誰が来るの?」
「まりなちゃんに私と美咲ちゃん以外の選択肢あった?」
確かにないけど。
そんな言い方しなくても、と思いつつ先を促す。
「美咲ちゃんがうちに来るの?」
「作戦会議だからね!」
なんの作戦を立てるのだろう。
勝手に話が進められていくけれど、美咲が家に来てくれるのは賛成だった。
「じゃあ、お布団出さなきゃ」
「えー。暑いし、みんなでくっついて寝ればいいでしょ?」
「そういうもの?」
「そういうものよ。本当に人慣れない猫みたいね、ゆきちゃんって。それに、いま部屋を出ていっていいわけ? 絶対、優が下で熊みたいにウロウロしてると思うけど」
(確かに、ありうるかも。まりなちゃんて、優くんの行動パターンすごい把握してるなあ)
感心していると、まりなが嫌そうな顔をした。
「ねえ、無表情なのに、なんか嫌なこと考えてるのわかるんですけど~」
「悪いことなんて考えてないよ。ただ、優君のことすごい理解してるなあって。優君のことはみんな美化して言うから、まりなちゃんの観察眼に感心してるんだよ」
「優は外面がいいからね~。でも、ゆきちゃんが絡むとわりとボロも出るし。それに、認めたくはないけど、思考パターンが私と似てるとこあるんだよね~。だから、早々にこいつないわ~と思ってたんだけど、ここまで酷いとは想定外だったわ」
ゆきは首をかしげた。
まりなが優と似ているという点にひっかかった。
「優君とまりなちゃん、似てるかな?」
「認めたくないけどね~。同族嫌悪? 好きな子はいじめて、反応を見ちゃう的な?」
「……だから、優君は私のことなんて好きじゃないよ?」
「この話は美咲ちゃんが来てからにしようよ。ゆきちゃん、けっこう頑固でめんどいし」
頑固だろうか。
優の件は認めたくはなかったが、心外だった。
(まりなちゃんこそしつこいのに)
ただ口では勝てそうにないので黙るしかない。
話は一区切りだったので、黙っていた。
まりなももう会話を続ける気はないようだったので、黙っている。
20分ほどぼうっとしていただろうか。
外から大きな声がしたのだ。
「こんばんはー」
「あ、私が美咲ちゃん迎えにいってくるよ~。ゆきちゃんは大人しく身を潜めて待ってなさいよね」
まりなが軽やかな足取りで美咲を迎えに行く。
ゆきは大人しく待っていると、下で言い争う声がして、すぐに2人が上がってきた。
「ゆきちゃーん。あの彼、下にいたんだけど、泊っていくの?」
美咲がびっくりした顔で聞いてくる。
ゆきがいいと言ったわけじゃないけれど、事実なので頷く。
それを見たまりなが、口を出した。
「ストーカー野郎だから、人の話聞かないんだよね」
「え? ストーカー? あんなイケメンなのに?」
「ストーカーに顔面偏差値は関係ないでしょ~。たしかに、それっぽくないように繕ってるけど、あれはマジなやつよ、美咲ちゃん」
2人は優の話で盛り上がる。
「もしかして、だから私呼ばれたの?」
「そうそう。ゆきちゃんを出せだの、話させろだの、ヤバいやつなのよ。あの調子じゃ、ゆきちゃんがずっと付きまとわれそうでしょ? 私が引き合わせちゃったっていうのもあるし、責任とって撃退する作戦をたてようかなって」
美咲がうーんとうなる。
「確かに、しつこかったかもしれないけど、ゆきちゃんはそれでいいの? あの彫像みたいなイケメンが幼馴染なんでしょ? なんか誤解があるんじゃないの?」
美咲に問われて、ゆきは優のことを考える。
「優くんとは確かに幼馴染だけど……。もう会わないつもりでいたの」
「でも幼馴染くんはゆきちゃんに会いたくて追ってきたわけでしょ? それをストーカーって言ったら可哀想じゃないかな」
人情家の美咲らしい発言だと思う。
でも、ゆきには受け入れられない言葉だった。
(まりなちゃんが味方になってくれたから、美咲ちゃんもって期待してたのかな。優くんのこと、誰にも相談できなくて、もう諦めてたはずなのに。少し優しくしてくれたからって、私なんて……」
感情のゆらぎで、手のひらが冷たくなりつつあった。
指さきを折りこみ、強く握る。
(それとも、やっぱり私の方が変なのかな? 優くんは嫌いな幼馴染のことも探してくれたって喜んだ方がいいの? でも、そんなの……)
心の暗いほうへ落ちていくのは、唐突に遮られた。
美咲にぎゅっと抱きしめられ、われにかえる。
「そんな泣くほど嫌いなんだね。ごめん、知りもしないのに」
言われて、自分が泣いていることに初めて気づいた。
目がじんわりと熱くなっているのがわかる。
(うそ、私、泣いてるの?)
涙など、ここ何年も流してこなかった。
表情は変わらず、ただ、言葉で叩かれるにをじっと耐えてきたのに。
それまで黙ってゆきと美咲の会話を聞いていたまりなが、ゆっくりと聞いてくれる。
「ゆきちゃんはさぁ、どうしたい?」
まりなが聞いてくれる。
ゆきは涙を拭おうとせず、掠れる声を出した。
「……逃げられると思ってたのに、でも優くんは現れちゃったから、もうどうしていいかなんてわからないの」
ただ、とゆきは続ける。
「一緒にいるのは、もうしんどいや」
「じゃあ、やっぱりお邪魔虫には退場してもらおうよ」
まりなの辛辣な言葉に、ゆきはためらいながらも頷く。
そうできるなら、どんなにいいか。
まりなはニヤリと悪い顔をしながら言った。
「まあ、害虫は優だけじゃないけどね~」
まりながスマホから顔を上げる。
「誰が来るの?」
「まりなちゃんに私と美咲ちゃん以外の選択肢あった?」
確かにないけど。
そんな言い方しなくても、と思いつつ先を促す。
「美咲ちゃんがうちに来るの?」
「作戦会議だからね!」
なんの作戦を立てるのだろう。
勝手に話が進められていくけれど、美咲が家に来てくれるのは賛成だった。
「じゃあ、お布団出さなきゃ」
「えー。暑いし、みんなでくっついて寝ればいいでしょ?」
「そういうもの?」
「そういうものよ。本当に人慣れない猫みたいね、ゆきちゃんって。それに、いま部屋を出ていっていいわけ? 絶対、優が下で熊みたいにウロウロしてると思うけど」
(確かに、ありうるかも。まりなちゃんて、優くんの行動パターンすごい把握してるなあ)
感心していると、まりなが嫌そうな顔をした。
「ねえ、無表情なのに、なんか嫌なこと考えてるのわかるんですけど~」
「悪いことなんて考えてないよ。ただ、優君のことすごい理解してるなあって。優君のことはみんな美化して言うから、まりなちゃんの観察眼に感心してるんだよ」
「優は外面がいいからね~。でも、ゆきちゃんが絡むとわりとボロも出るし。それに、認めたくはないけど、思考パターンが私と似てるとこあるんだよね~。だから、早々にこいつないわ~と思ってたんだけど、ここまで酷いとは想定外だったわ」
ゆきは首をかしげた。
まりなが優と似ているという点にひっかかった。
「優君とまりなちゃん、似てるかな?」
「認めたくないけどね~。同族嫌悪? 好きな子はいじめて、反応を見ちゃう的な?」
「……だから、優君は私のことなんて好きじゃないよ?」
「この話は美咲ちゃんが来てからにしようよ。ゆきちゃん、けっこう頑固でめんどいし」
頑固だろうか。
優の件は認めたくはなかったが、心外だった。
(まりなちゃんこそしつこいのに)
ただ口では勝てそうにないので黙るしかない。
話は一区切りだったので、黙っていた。
まりなももう会話を続ける気はないようだったので、黙っている。
20分ほどぼうっとしていただろうか。
外から大きな声がしたのだ。
「こんばんはー」
「あ、私が美咲ちゃん迎えにいってくるよ~。ゆきちゃんは大人しく身を潜めて待ってなさいよね」
まりなが軽やかな足取りで美咲を迎えに行く。
ゆきは大人しく待っていると、下で言い争う声がして、すぐに2人が上がってきた。
「ゆきちゃーん。あの彼、下にいたんだけど、泊っていくの?」
美咲がびっくりした顔で聞いてくる。
ゆきがいいと言ったわけじゃないけれど、事実なので頷く。
それを見たまりなが、口を出した。
「ストーカー野郎だから、人の話聞かないんだよね」
「え? ストーカー? あんなイケメンなのに?」
「ストーカーに顔面偏差値は関係ないでしょ~。たしかに、それっぽくないように繕ってるけど、あれはマジなやつよ、美咲ちゃん」
2人は優の話で盛り上がる。
「もしかして、だから私呼ばれたの?」
「そうそう。ゆきちゃんを出せだの、話させろだの、ヤバいやつなのよ。あの調子じゃ、ゆきちゃんがずっと付きまとわれそうでしょ? 私が引き合わせちゃったっていうのもあるし、責任とって撃退する作戦をたてようかなって」
美咲がうーんとうなる。
「確かに、しつこかったかもしれないけど、ゆきちゃんはそれでいいの? あの彫像みたいなイケメンが幼馴染なんでしょ? なんか誤解があるんじゃないの?」
美咲に問われて、ゆきは優のことを考える。
「優くんとは確かに幼馴染だけど……。もう会わないつもりでいたの」
「でも幼馴染くんはゆきちゃんに会いたくて追ってきたわけでしょ? それをストーカーって言ったら可哀想じゃないかな」
人情家の美咲らしい発言だと思う。
でも、ゆきには受け入れられない言葉だった。
(まりなちゃんが味方になってくれたから、美咲ちゃんもって期待してたのかな。優くんのこと、誰にも相談できなくて、もう諦めてたはずなのに。少し優しくしてくれたからって、私なんて……」
感情のゆらぎで、手のひらが冷たくなりつつあった。
指さきを折りこみ、強く握る。
(それとも、やっぱり私の方が変なのかな? 優くんは嫌いな幼馴染のことも探してくれたって喜んだ方がいいの? でも、そんなの……)
心の暗いほうへ落ちていくのは、唐突に遮られた。
美咲にぎゅっと抱きしめられ、われにかえる。
「そんな泣くほど嫌いなんだね。ごめん、知りもしないのに」
言われて、自分が泣いていることに初めて気づいた。
目がじんわりと熱くなっているのがわかる。
(うそ、私、泣いてるの?)
涙など、ここ何年も流してこなかった。
表情は変わらず、ただ、言葉で叩かれるにをじっと耐えてきたのに。
それまで黙ってゆきと美咲の会話を聞いていたまりなが、ゆっくりと聞いてくれる。
「ゆきちゃんはさぁ、どうしたい?」
まりなが聞いてくれる。
ゆきは涙を拭おうとせず、掠れる声を出した。
「……逃げられると思ってたのに、でも優くんは現れちゃったから、もうどうしていいかなんてわからないの」
ただ、とゆきは続ける。
「一緒にいるのは、もうしんどいや」
「じゃあ、やっぱりお邪魔虫には退場してもらおうよ」
まりなの辛辣な言葉に、ゆきはためらいながらも頷く。
そうできるなら、どんなにいいか。
まりなはニヤリと悪い顔をしながら言った。
「まあ、害虫は優だけじゃないけどね~」
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