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番外編

恋人になるまで(2)

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 旅をして一ヶ月が経った。僕は自然と、レオン様のことばかり考えるようになってしまっていた。


 レオン様の闘う姿は美しい。血飛沫を浴びたとしても、それすら効果的な背景としか思えない。
 何故こんなにばっちり見えるほど至近距離かと言うと、僕は回復役ということで仲間に身を守る結界や、防御力や速度を上げる魔法をかけたりする。魔物から見れば厄介かつ弱そうな奴がいるな、という訳で、取り分け神官は狙われやすい。

 そこで、レオン様が、僕を守るために近くで戦っていらっしゃるのだが……もう!格好良くて集中力を切らさないようにするのが大変!







 レオン様の格好良さは、距離に関係なく発動する。


 僕は神官という事で、回復や癒しを求める人たちから絡まれることも多々ある。みんなお金を払わず、無償で治したいのだ。

 しかし神官に登録する際、無償ではいけないということも学んだ。神官もお金を貰わなくちゃ、なり手も減ってしまう。神官が減れば減るほど治癒代は高く、受けにくくなるのだから、今はちゃんと治癒に見合った対価を頂くようにしているのだけど、やっぱりどこにでも、しつこく言えばなんとかなると思っている人はいる。


「だからよ、癒してくれよ、フェリスちゃん。2階のオレの部屋でよ、ここじゃなんだから」

「申し訳ありませんが、最寄りの教会へお願いします。僕は今、小迷宮帰りで少々余裕がないので」


 こちらのお兄さんもそうだ。

 レオン様達は、今はここの宿の3階にいる。戦闘で疲れて寝ておられる三人のために、僕は下の食堂から飲み物と軽食を持っていきたいのに。


「本当にかわいいなぁ!ぴかぴかでたまんねぇし、とても迷宮帰りとは思えねえ」

「完全に同意だぜ。フェリスちゃん、こないだはスラムの奴らに慈悲をくれてやっていただろう?オレたちにもくれよ」


 そこに、お兄さんのお仲間と思われる、これまた筋肉の大きなお兄さんがニヤニヤしながらやってきて挟まれてしまう。お二人に挟まれた僕は、小柄なせいで、足が浮くようにして引き摺られていく。

 貧民街の人たちは、別だ!だって彼らは、ご飯を買うお金すら無いもの。それに彼らへ施す治癒は、僕たちがその街に滞在している間だけで、そのあとは自力でどうにかするしかない。
 間違っても、このお兄さんたちみたいに、しっかり食べて運動して、ガチャガチャとしたネックレスや防具を付けている人に、無償で施す必要はないのだ。

 両手には、飲み物の瓶とサンドイッチの入った紙袋を抱えている。あとどうでもいいけど、お兄さんたちがちょっと臭くて顔を顰めた。


「やめて下さい。無理やり連れていかれても、治癒出来ませんよ!」

「いや~?それはどうかな~?」

「そうそう。フェリスちゃんなら出来るって!」


 言葉が通じない……!本当にもう僕もへとへとだから、神力は使えないのに!
 どうしようとわたわたしているうちに、お兄さんたちの部屋に引き摺り込まれようとしていた。


「離してもらおうか」


 ふわっ、と軽くなった。

 両脇からの圧迫感は消えて、僕はレオン様の腕の中にいた。爽やかな香りに包まれてほっとする。一方、お兄さんたちは急に消えた僕に驚き、目を見開いていた。


「レオン様!」

「ゆ、勇者……!」

「チッ、チャンスだったのに!」

「チャンスだって?そんなもの、ある訳ないでしょう?フェリスくん、だめだよ一人で出ちゃ。私はこのお兄さんたちと内緒のお話しがあるからね。今のうちに部屋へ戻っていてくれるかい?」

「はい!わかりました!」


 レオン様だ。ああ、何か分からないけどものすごくピリピリして、僕の肌まで伝染してくる。オーラの強さというのかな、圧倒的存在感にうっとりと見惚れてしまいそう。

 しかし部屋に早く戻らないと。レオン様に助けてもらえて良かった。いつも助けて頂いているような気もして申し訳ないのだが、その頼もしさと格好良さに触れる度、レオン様を好きになってしまう。

 もちろん僕は、レオン様がどんな内緒の話をしたのかは、知らない。
 けれど、あの二人組をその後見ることは無かった。












 宿屋では、基本的にヴァネッサ様が一室、そしてガルフ様が一室に、僕とレオン様とで一室に分かれる。

 それはヴァネッサ様は唯一の女性だし、ガルフ様の体格は大きいということと、不本意だが、僕は小さくてレオン様と一緒でも圧迫感を与えないサイズであるからだ。もちろん寝台は別。


 街に出て気付いたのだけど、神の祝福が見えるのは僕だけらしい。教会の尖塔のてっぺんや、女神像、ベテランかつ高名の神官様や、そして、レオン様の持つ聖剣もそう。きらきら星のお粉をはたいたように、とても綺麗で、いつまでもうっとりと見ていたくなる。

 ところが困ったことに、最近レオン様も光り輝くように見えてしまっていた。
 たしかに敬虔な神官様が光って見えるのだから、勇者様であるレオン様も光って見えて仕方ないのかもしれない。
 けれど、出会った時はそうではなかったもの。これは絶対、最近変わったんだ。


「レオン様、最近、その……習慣を変えたり、しましたか?」

「えっ?」

「たとえば、神様に祈りを捧げるようになったとか……」

「あっ……ああ、そうだね!フェリスくんという素晴らしい神官を得られて、感謝するようになった……かな?」


 やっぱり!

 レオン様は僕ほどではないけれど、神力を持つ。だからか!勇者様の祈りに応じて、神の祝福を得たんだ……!
 ベテラン神官様ほどの光ではなくて、ほんの少しの、見逃してしまうくらいの光なのは、神力の量に応じているのかな?


 寝起きのレオン様は、困ったようにくすりと笑った。

 その整ったお顔は、笑う時、少し幼くなる。ああそれから、寝ている時も。あちこちでレオン様の肖像画は書かれているのだけど、そのキリリとしたお顔とは違う柔らかな表情を見る度、僕の胸はきゅうっと変な音を立てた。





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