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しおりを挟む「ほう、ロキ坊はなかなか良い所に住んでいる」
「じ、じい様……!?オルっ、言っておいてよ!もうっ!あ、じい様、今椅子出しますね!」
「すまないな、手間をかける」
じい様は190センチをゆうに超える巨躯だもの。亜空間収納から一番大きなサイズのウォーターチェアを出す。
見慣れないぷよぷよの椅子に戸惑っていたものの、恐る恐る座ったじい様は目を見開いて笑った。
「ははっ、なんだこれは!面白いな。ああ、身体が沈み込む」
「飛んでいらしたのでしょう?ゆっくり休んでくださいね」
「ああ。ロキ坊は優しいな。オーランド、見習え」
「分かった。爺にはあとで手頃な岩でも贈るぜ!」
「お前な……」
二人の様子を微笑ましく眺めていると、あれ?とオルが声を漏らす。
「ロキ、なんかあったか?んー、なんか……疲れてる?」
「あー、ちょっと、ほら。囲碁を商品化するからいっぱい作っててね」
「違うな」
オルが近付いてきて、僕の頬に触れ、真っ直ぐに目を見つめる。そこに何があるという訳でも無いのに。
「楽しいことをしてる時のロキの疲れ方じゃない。心も疲れてるな」
「え……」
僕はギクリとした。一体オルの目ってどうなっているのだろう。勘が鋭いって自分でも言うくらいだし、当てずっぽうが当たっただけなのかな。
「なんだ。ロキ坊の方こそ疲れていたのか?それはいけない。どれ、私の胸で温まるか?」
じい様が両手を広げて、にこりと微笑む。卵を温める親鳥のように、抱き締めてくれるのかな?
ふらふらと引き寄せられそうになる僕を、オルが捕まえて吠える。
「爺は黙って。ロキにはオレがいる!全く、油断ならねぇ爺はこれだから……!爺はほら、そっちの端で寝ろよ!」
「はは、楽しいな。では、ロキ坊を真ん中にして寝ればいいじゃないか」
「ロキはオレが抱っこするからな!」
……なんでこうなったんだろ?
僕の寝台は、一人で寝るには十分な大きさ。だけど、190センチを超えるじい様と、170センチ代のオルに挟まれると、ぎゅうぎゅうに狭かった。
「むぐ……」
「よーしよし。いくらでも胸を貸してやるからな」
オルの腕の中に収まっているわ、背中はじい様にトントンされているわ。
どんな赤子よりも甘やかされているような気がして恥ずかしかったけれど、とてつもなく安心する。
多幸感に酔いそうになりながら、眠りに落ちたのだった。
翌日。
オルで慣れていたかと思いきや、やはり竜人二人目にはブランドン侯爵家でも大騒ぎになった。なんだか、ごめんなさい。
社員寮の方にいたトア爺を呼び、じい様と対局してもらうと、思った通り静かに熱中していた。その様子を見て使用人さんたちもホッと胸を撫で下ろしていた。どうおもてなしするか分からなかったのだろう。
そのうちロイド様やレイ様とも対局をしており、じい様はロイド様を強敵だと危ない笑いをしていた。実力が拮抗しているみたい。
じい様は一通り満足すると、僕を抱っこしてすんすんと嗅ぎ、『覚えた。また来るぞ』と消えていった。
竜人の自由さは本当に規格外だよね……。
ロイド様は、じい様と親交を深められたのは僕のおかげだと言ってホクホクとしていた。ボーナスをくれようとしたけど、なんだか違うような気がして辞退した。じい様に囲碁友を作ってあげたかっただけだからね!
冬の長期休暇は明けて、雪が溶け始め、木々には蕾が付き始めた。それは学園の新しい学期が始まる季節ということ。
レイ様と共に、久しぶりの学園へ通う。
続々と入ってくる、新入生の緊張した感じはとても可愛らしい。ああそうか、年齢的には僕と同い年になるのかぁ。
「今年は誰も退学者が居なければ良いな……」
「レイ様、不穏ですね。同感ですが」
「はぁ。俺はあと二年間何事もなく卒業して領地に帰りたいんだ。ロキとな」
「そ、そうでしたか。僕も、そう思います」
窓から新入生を見ていたレイ様は、視線を外し、僕を見た。レイ様の勘定に僕も入っているのは、嬉しいな。
「代官をしながらロキと迷宮探索をするのもいいし、傭兵団を統率するならいい訓練にもなりそうだ。いずれにせよ、ロキ、君と共にありたいと思っている。君は?」
「そうですね……僕も、契約が終わったら、レイ様とはお友だちになれるんじゃないかと今から楽しみにしています」
僕の言葉に、レイ様はガクッと肩を落としていた。あれ?なんで?
「ええと、お嫌でした?お友だちが不敬でしたら、顔見知りの方が」
「いや、違うんだ!うん、友だち。そう、友だちだ!親友と言ってもいいだろう?そうだな、くそッ、雇用関係が足を引っ張るとは……!」
「えっと、親友は今の所オルだけですけど……」
「ロキ、いずれオーランド殿を超えてみせるからな。分かったか?覚悟をしておけ」
「竜人のオルを超えるのは大変だと思いますが、頑張って下さいね」
レイ様は何回もガックリしていた。目標が高いのは良いことだよね。
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