泥ねずみと呼ばれた少年は、いっそ要塞に住みたい

カシナシ

文字の大きさ
150 / 158

149

しおりを挟む
ガシャンッ!


「何の……?」

「残念です、ロキ様。せめて私の、ささやかな願いに応えてくれたら良かったのに……」


リーナ嬢の様子が、おかしかった。ゆらりと立ち上がってこちらへ向かってくる。


「この教室は今、密閉されたんです。細工をしたので、私の持つ鍵以外では開けられません。だれも空気も何もかも通らないし、誰も入れない、出れない。ここで、何があったとしても」


グワンッ!脳が揺れる。なに……?
魔法の使えないはずのリーナ嬢から、何かが放たれた。その瞬間、目の前のリーナ嬢が猛烈に欲しくなる。
え?欲しい……?


「ロキ様……さぁ、私の身体のどこかに鍵はありますよ?探してみて……、ああ、素敵!本当に格好良い……大好きです……」


もぞもぞと僕の服に手をかけ、慣れない手付きで脱がそうとするリーナ嬢。どうにも抗えない、動けない。どこかでダメだと警鐘が鳴っているのに、身体はゾクゾクして脱がされるのを待っている。

ボタンを外そうとするリーナ嬢のその手を、誰かの手が止めた。


「主に触れるな、痴れ者めが」

「ぎゃっ!?」


摘み上げて、そのまま教室の壁に叩きつける!
それは、完全無表情のヴァンクリフトだった。

お、女の子にも容赦ない……!

リーナ嬢は崩れ落ち、そのまま意識を失った。壁には叩きつけられた衝撃で、壁が凹んでいる。


「くっ、主!これは……薬か!?匂いは無いが、何かが充満している!」

「ハッ……、ふ、ふぅ、そ、そうだ!鍵!」


鈍く痛む頭で思い出したのは、『真実の鍵』。まだ動けるヴァンクリフトに託すと、窓を次々開けて換気をしてくれる。『何か』の濃度が明らかに薄くなって、息がしやすくなっていく。


「一体何……?」


無味無臭の媚薬?
闇属性魔法なら、換気で薄くはならない。リーナ嬢から何かが出たような感じがしたのに……?


「う、う、……っ、はぁ、なに、これ……っ」

「主。身体が熱いか?一人で抜けるか?我が協力してやろうか」

「待っ……ぐぅ……っ、まだ、扉は開けないで……っ!」


ぽた、ぽた、と額から汗が流れ落ちる。熱い。全身の血流が勢いよく流れて、どくどくと鼓動が痛い。

ヴァンクリフトがハグをしてくれる。宥めるように背中を摩り、僕を抱え込むようにして頭じゅうにキスの雨を降らしてくる。


「落ち着け。そう。よーし、いい子だ……我がついている」


ヴァンクリフトの、低くて渋い声に耳が痺れた。大きく冷たい手が下の方へ這っていって、……ああ!


「……うっ……!」


















リーナ嬢は、医務室に寝かせてきた。
彼女の背中から後頭部にかけてズタズタになってしまったので、治癒魔法で完璧に治し、制服もギンとサンによって補修して証拠隠滅。

女性である医務室の先生とサンで全身をくまなく探した結果、リーナ嬢は『高濃度の麻薬』を所持していた。ちなみに鍵も発見したが、どこにあったのかは僕は知らされていない。

媚薬以上に重大な禁製品。無味無臭かつ、気化しやすい液体で、吸えば目の前の対象が何であれ性的興奮を覚える上、洗脳作用もある。
『惚れ薬』なんて可愛い言葉では表現してはいけない、恐ろしい薬だった。

この薬はごくごく薄めて使えば覚醒効果があり、リーナ嬢はこれを使って勉学に励んでいたそう。そして原液で使うことを思いついてしまった。
彼女は前々からあの教室の補修――――というか強化?――――を、誰にも気付かれないよう少しずつ行っていたらしい。清掃業者にみせかければ、不自然ではない。

被害者は僕という平民しかいなかったけれども、貴族の多くいる学園で起こった事件として問題視され、リーナ嬢もまた、修道院へ行くこととなった。薬への依存症を治すため、という目的も兼ねていて、刑は軽く、恐らく数年真面目に働けば出てこられるとは思う。その時彼女にどういう道が残っているのかは分からない。

僕の商会として、ピリアム男爵家との取引は一切しないことにした。薬を盛られた個人的腹いせだ。今現在夫人が化粧品を細々と買っているようだが、こればっかりはね。




……これで、三人目か……。学園からいなくなった、令嬢は。

彼女の行く修道院は、前にやらかした令嬢二人とは違うところ。リーナ嬢にはぜひ反省してくれるといい。

大人しく婚姻していればそれなりに幸せになれたと思うのに……リーナ嬢の考えは、彼女にしか分からない。


あれから数日経ったけど、ヴァンクリフトの顔が見れない。ヴァンクリフトはニヤニヤしながら見てくるのが鬱陶しい。ま、全く!




しおりを挟む
感想 62

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】 ※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。 ※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。 愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...