【完結】あなたが幸せなら、僕も幸せ……?

カシナシ

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 カイロス様との初対面は、婚約者候補の茶会――――ではなく、僕が王城で迷子になっていた時だった。

 お父様に連れられて、後継として陛下に顔を見せに行った後、“用事があるから待っていろ”と言われ、六歳にして既に真面目な僕は待っていた。


(おとうさま、まだかな……)


 ここから動いたらきっと、怒られることは分かっていた。けれどそこに、見知らぬオジサンがやってきたら、事情は別。

 なんだか小太りで、笑顔がにちゃついていて。


 僕に話しかけようと近付いてくるのに気付いて、怖くなった僕は逃げてしまった。



 もしかしたら良い人だったのかもしれないが、その頃人見知りが激しかった。そうして闇雲に逃げた結果、王城に似つかわしくない、鬱蒼とした森のような庭に出てしまって、心細くて泣きそうになっていた。


(どうしよう。へいかにも、おとうさまにも、叱られるよ……、でも、あのおじさんも怖い……)


 戻るにも戻れず震えていた。

 そんな折、ふっ、と影がさした。お父様が迎えに来てくれたと思い顔を上げると、それは、醜悪な顔をした魔物だったのだ。

 しかも、一匹や二匹では無く、十数匹も。

 あの時の恐怖は、数年悪夢にうなされるほどだった。僕は悲鳴をあげることも、動くことも出来ず、ただ固まって、格好の肉になろうとしていた。


『邪魔だ!』


 そんな声がして、魔物の気が一瞬逸れた――――と思えば、風が駆け抜けた。

 魔物は血飛沫をあげて倒れていく。一体何が起こったのかわからない僕に、小さな手が差し出された。


『なんでこんな所に子供が?危ないだろ』


 君だって子供だ。そんなことを口にする余裕は、僕にはなく。


『は、はひ……』


 口からは情けない、言葉になり損ねた音が漏れるばかり。男の子は怪訝な顔をしていたが。


『……っと』


 その男の子は背後に剣を振り抜く。まだ息のあった魔物が、横へ切り飛ばされていた。男の子の動きは俊敏で美しく、舞を踊っているかのように楽しそうで。


 生き生きした目の輝きが眩しくて。


 気付けば惹きつけられていた。かっこよくて、強い、ヒーロー。


『こっちだ。手柄を横取りされちゃたまんねーから絶対着いてこいよ』


 小さくとも頼れる手に引き摺られるようにして、僕は馬車乗り場まで送ってもらえたのだった。


 その時には、もうすでに恋の沼に足を突っ込んでいた。





 その後、あの日はカイロス様のために魔物を集めて討伐するという訓練が行われていて、そのあたり一帯が立ち入り禁止にされていたのだと知る。

 アルファは成長が早いとはいえ、六歳でもう魔物の討伐も出来るほど武技を磨いている。護衛達との訓練でも徐々に手がつけられなくなっているほど強いと、有名な王子となっていた。


(すごい……)


 僕もオメガでも男。格好良かった彼を想像すると自分があまりに貧弱で情けなくなり、体力作りの走り込みを始めたのもこの頃。

 お父様には頑なに剣は握らせて貰えなかったが、走り込みだけは許された。エリュカの部屋の窓から見えない場所なら、という条件付きで。




 そして次にカイロス様に会ったのは、凡そ一年後。

 彼の婚約者候補を集めた茶会が開催された。第三王子殿下を婿入りさせるのに値する、高位貴族の後継に当たるオメガの令息・令嬢たち。


 誰もが我先にと王子様にアピールしている中、僕はカイロス様――――あの時一目惚れした男の子を目の前に、動揺するだけ動揺し、何も喋れないでいた。


『お前、あの時の……キレーな面していると思っていた』

『ツラ……?ですか?え、えっと……』

『ふっ……、お前はいいな、主張が激しく無くて。お前、婚約者になるか?おれの』


 それに、僕はなんと返しただろうか。

 飛び上がるほど嬉しくて、きっとコクコク頷いていた。













「この間は楽しかったねぇっ、カイロスさま」

「あ"?ダンジョンのか。エリュカは地上で待ってただけだろ」

「でもお、戦利品の鑑定とかぁ、楽しかったよ?見たことないものがたくさんで!」

「ガラクタばかりだった」


 そんな会話をする二人に、思わず眉間に皺が寄る。なに、それ。僕、そんなの聞いてない。


「カイロス様……いつ、エリュカと?」

「忘れた。良く知らんが見たかったらしい」

「ぼ、僕もお誘いいただきたかった……」

「別に誘ってない。勝手に着いてきたんだ」


 僕も、勝手に着いていけば良かった……?

 でも、そんなことをしたら。

 ダンジョン攻略を楽しんでいるカイロス様の邪魔なんかしたら、嫌われてしまうかもと思っていたのに。

 エリュカは、軽々と僕の悩みを超えていく。その勇気は、羨ましかった。


「ふふふ~それでね、これ、頂いたんだっ!綺麗でしょ?」


 エリュカはにんまり笑い、胸元のネックレスを見せつけてきた。白い砂のようなキラキラしたものが詰まった小瓶だ。エリュカの細く華奢な首元によく、似合っている。


「う、うん……綺麗……」

「あれも特に効果はないものだ」


 そうカイロス様が教えてくれるが、それは全く意味のない説明だ。効果があるか無いかなんて。

 綺麗なものを、エリュカにあげたんだ。

 ずしんと胃が重くなったような気がした。



 綺麗なものを贈る。それは、大切な人に身につけてもらったり、喜んでもらいたいという気持ちからくる行為だと、僕は思う。


 これまでのカイロス様の性格を考えたら、多分……何も考えてない。

 僕に贈るのも綺麗なものというよりは、珍しいもの、殆ど手に入ることのないものが多い。

 血のように真っ赤に発光する花や、皮で作られた珍妙な仮面、それから髪の伸びる人形とか。

 花は三日で枯れたし、仮面は目の形が釣り上がっていって不気味なので、そういうものを集めているお店に引き取ってもらい、人形は理髪店へ。ウィッグが作れるからね。

 だからその中で言えば、ガイちゃんは初めてキラキラと言えるものだった。嬉しかった気持ちに間違いはない。

 けど、エリュカが貰ったものは本当に素敵に見えた。カイロス様は、何を考えて贈ったのか。

 十年一緒にいて彼のことは分かってきたと思っていたのに、いつの間にか、ぽつんと振り出しに戻っているような気がした。


 
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