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数ヶ月も経つと、カイロス様とエリュカは堂々と、二人でどこかへ遊びにいくようになっていた。
エリュカは(一応)療養中のため、社交界デビューはしていない。遠目から見るとほとんど僕に間違われる。そのため、仲睦まじい婚約者たちとしてしか認識されない。
僕は相変わらず、忙殺されている。
そんな中でも、カイロス様とのデートなら、時間をなんとか捻出して行くしかない。
今日は久しぶりに会えるとあって、一年に三枚だけ新調してもらえる、他所行きのスーツをおろした。決して華美ではない、でも、僕の薄めの顔だちには似合う。
今日だけは、二人でいたい。レストランの予約も、観劇のチケットも、用意したのは二人分だけ。
いつもいつの間にか現れるエリュカには帰ってもらうよう、説得しようとしたのだが……。
「……あれ、エリュカは……」
「いない。あいつがいると落ち着いて話せないからな」
「そ、そうですか……いつもすみません」
謝りながら、高揚した気分が更に浮上する。
エリュカがいない!
いつもエリュカを腕にくっつけているカイロス様は、今日は僕の手を取り、馬車へ迎えて下さった。
嬉しくて、幸せで。
観劇もどこかふわふわした気分で、ロマンチックなレストランでも夢心地だった。
そんな僕に、カイロス様はこともなげに仰った。
「あ、そうだ。エリュカが孕んだ」
「………………………………えっ?」
「俺とエリュカの子は、お前の子供として育てようと思う。出来るな?」
「………………………………はっ?」
ハラんだ?ど、どういうこと…………?
視界に黒が迫ってくる。何もわからない。痛いほどの耳鳴りが、僕を刺す。
「エリュカは嫁ぐ予定も無いらしいから、愛人ということでいいか。その方が侯爵もいいと。ファルシュカ、お前は正式な伴侶だから……抱くのは結婚後な」
カイロス様は、相変わらず読めない表情で、淡々とそう言ってのけた。
「何故……、何故、エリュカと……」
「あ?そりゃ、お前と同じ顔に迫られたら仕方ねーだろ」
カイロス様ははにかむように微笑みを漏らした。
その言葉は、その仕草だって、僕のことを気に入ってくれているような、そんな嬉しい気持ちにさせる。
けれど、子供が出来たということ。
それに順ずる行為をしたということ。
そしてこれからも、そうする予定だということ。
そんなの……カイロス様は、全く気にもしていない。
世界の中心が、カイロス様だから。僕は、巻き込まれていくだけなんだ。
ふらふらと家へ帰って、寝台へ飛び込んだ。
乱暴に身を沈めた振動のせいか、金色の頭蓋骨がカタカタ笑っているような気がしたが、僕は現実から逃避するように眠りへ落ちた。
改めてお父様にどういうことなのか聞いても、全く意味はなかった。
「ああ、エリュカが心配でどこにも嫁には出せないと思っていたが……喜べ、ファルシュカ。カイロス様が二人まとめて愛してくださるようだ。本当に素晴らしい青年で良かったな」
「…………僕は、そういうことを聞いているのでは、ないのです。どうして、エリュカが孕むようなことを、容認したのですか?出産時に亡くなるリスクもあるのに?」
正直に言って、お父様はエリュカは領地で飼い殺しにするのだと思っていた。
か弱い身体での妊娠を、エリュカを猫可愛がりしているお父様が許すなんて思えない。嫁にも出さないまま、手元に置いておくのかと。
「それは儂も心配だった。だから下手な貴族家には出せないと……だが、カイロス様の伝手で、王室付き医師団で働いていた医師を紹介下さる。これで憂いも無くなるというものだ」
「優秀な医師が……」
そうじゃない。そうじゃない!
パクパクと間抜けな魚みたいに、口を開け閉めしていると、ひょっこりとエリュカが現れた。
「あ、お兄さま、聞いた~?ボクたちに、赤ちゃんがくるんだよ!嬉しいでしょ~っ!」
「……エリュカ!カイロス様は、僕の婚約者なのに!どうして手を出したの!?」
「えっ…………ひどぉい。喜んでくれると思ったのに……赤ちゃん……」
「そうだよな、エリュカ。本当におめでとう。そら、ファルシュカ。祝いの言葉は?」
祝いの言葉?“ご懐妊、おめでとうございます”か?僕の愛する婚約者の子を、身籠もっている人に?
「それから、懐妊祝いを用意してよね。いつもお小遣いシケてるんだから、どーんと出してくれないと」
「それは……服、とか、……?」
思考がぼやっとしてきた。
懐妊祝いって……妊婦に必要なものを買い揃えるためだったっけ。なんだったか。それより聞きたいことがたくさんあるはずなのに、捲し立ててくるエリュカの言葉を遮れない。
「もう、服は服代。別で出してくれるでしょう?サイズ変わっちゃうだろうし、新しいのたくさん仕立てないとね。子供服も。でも懐妊祝いは別だから。よろしくねぇ」
「それは……家計を見ないと。そうじゃなくて……エリュカは、カイロス様になんで迫ったりしたの?僕の婚約者で、義理の兄になることは分かっていたよね?」
キョトンとしたエリュカには、罪悪感のカケラもない。次の瞬間には、あははっと高らかに笑った。
「だって、お兄さまのものはボクのものでしょ?それに、当主なんかになってあくせく働くのは嫌だしい、“愛される担当”の愛人って、ボクにうってつけじゃん!」
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