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諸手続きを終え、新しい生活を整えるのに数日が経過していた。
少し落ち着いた所でようやく学園を再開すると、皆が僕を見てひそひそしているのに気付く。
それは、仕方ない。
だって僕がブルーム侯爵家から離れたことも、子爵子息になったことも、それから、カイロス様とエリュカが婚約を結んだことも、社交界に激震が走っただろう。
エリュカの存在は、まだ学園でしか知られていなかった。しかし学園にいる生徒なら、なぜそうなったのか推測できてしまうだろうな。
セオドアは途中まで一緒に居てくれて心強かったのだけど、いかんせん、顔が広い。
また『あっ!あの人にぴったりの子が居るんだよ!ちょっと感じ聞いてくる!』などと言ってピュッと去っていった後だった。
「ファルシュカ」
ぐい、と腕を引っ張られた。カイロス様らしくない、焦った行動。
ずるずると引き摺られるまま空き教室へと連れ込まれていた。
「い、いたいです、カイロス様」
「何故、離れた。俺から」
滅多にみられない、カイロス様の激情に駆られた表情。……そんな顔、一度だって見たことがなかった。
ほんの少し、仄暗い喜びがあった。
ガランとした教室で向き合うと、カイロス様は僕の両肩を掴んだ。痛いほど、強く。
「陛下に、エリュカと婚姻するように言われた。アレが何一つできやしないことなど、分かっているだろう?何故だ。お前は俺が好きなはずだ」
「好き、です。とっても……好き、でした」
掴まれた腕が、ミシミシ言いそうだ。でもカイロス様になら、痣になったっていいくらい、好きだった。
きっとすぐに治ってしまうから、残らないけれど。
「とっても、とっても好きでした。好きすぎて、胸が苦しくて、吐きたくなるほど、お慕いしていました」
僕の“好き”が、本人に伝わっていたことに驚きはない。だって僕は一生懸命に婚約者をやっていたから。
告白というよりは、あまりに痛みを伴っていた。
決して返ってくることはない。そう諦めてからこの想いは今、確実に冷めつつあった。それをもう一度抉り出して、晒しているような気分だ。
もうこれは、捨てるから。
お終いに、しよう。
その手に手をそっと重ねると、カイロス様はわずかにたじろいでいた。
乱れた銀髪が顔にかかるのも構わずに、こちらをキツく睨むカイロス様を見つめ返す。
「でも、カイロス様は、僕のことを好きではないでしょう。エリュカの前では僕を持ち上げてくれていただけで、実際は、エリュカを気に入っている。そうでしょう?」
「そんなことはない。俺はちゃんとお前を……」
「下手な嘘はやめてください。ちゃんと、分かっていますから。とにかく……人として、エリュカと子を成した責任は、取っていただきたい。僕があの家に居る限り、エリュカは親になれない。カイロス様も……」
「ファルシュカ……、俺は、お前を……」
悲痛な表情を浮かべたカイロス様は、すり寄るように僕の首元へ顔を寄せた。
胸が高鳴るのは、気のせい。カイロス様は、もう僕の婚約者じゃない。
そう思ったら、不思議なほどスッと頭が冷えていった。
「お辞めください。殿下。これからは、エリュカを大切にしてあげてください」
「ファルシュカ……」
「さようなら。お幸せに」
そっと腕を外させてもらう。
頼りなく離れていった手は、もう、僕を掴むことはなく、だらんとしたままだった。
「はぁぁあぁ……………………」
カイロス様は、やっぱり格好いい。一人になって熱い空気を吐き出しても、どうしても格好良いと思う気持ちはある。けれど……。
「幸せに、なっていただきたいな」
その相手は、僕じゃない。僕たちは、きっと相性が悪かった。
カイロス様は、ダンジョンに潜っている時がきっと一番生き生きとして、楽しいのだと思う。無邪気な少年のようなところがあるから。
エリュカも、執務もせず自由に生きていたいみたいだし。自由なカイロス様とはお似合いだ。子供が大きくなるまでお父様が頑張れば、それは叶えられるだろう。
僕はもう、何者でもない。考えたのは、ルドルクス様と同じ魔術師を目指すこと。
知識を得ること、覚えることは、割と得意だ。一流の魔術師は子爵位と同程度の権力を持つ。
僕には王室と、ブルーム侯爵家からの謝礼金が入ってきたが、その他にもお給金は必要だ。
「まずは、覚えないと」
膨大な魔術陣と、その式を。
僕は気合を入れて、魔術書を開いたのだった。
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