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24 カイロスside
(カイロスside)
何故、ファルシュカは籍を抜けたのか。
何故、エリュカと婚約する羽目になったのか。
考えても、考えても、分からない。
ファルシュカはファルシュカだけではつまらないし、エリュカはエリュカだけでは無能だ。
彼らは双子。二人で一人。だから、二人一緒に娶るのが正解だ。
現国法では国王を除いては一人しか娶れないので、悩ましいところだが……その場合、きちんと執務を行えるファルシュカと結婚するべきだ。
ほんの少し前までは、ファルシュカは俺を見ればうっとりと見惚れていた。悪い気はしない。ファルシュカ自身、学園でも人気の高い容貌をしているから。
そのファルシュカは、献身的に俺を支えてくれていた。弟に種付けしたくらいで、離れていく程の薄情なやつでは無い。少しは動揺したとして、結局は俺のいう通りにしてくれるはずだった。
それなのに……何故?
『さようなら。お幸せに』
空虚な笑いを浮かべたファルシュカは、まるで知らない他人のようだった。
ファルシュカがいなくなった途端に、平穏で、しかし楽しかった日常が、ぼろぼろと崩れていった。
俺の生きがいである冒険が、出来ない。
一緒に潜る護衛はファルシュカから賃金を渡されており、それが無くなったため俺の元から去っていった。王城で俺に割り振られる予算はそれほど多くないことを、それまで忘れていたのだ。
回復するポーションや細々とした道具は、贔屓の店があった。俺が行くと『お得意様なので』と格安で売ってくれたのが、通常の……つまり、他の冒険者たちと同じ値段に跳ね上がった。およそ十倍だ。
逆に言えば、これまで十分の一で買っていたらしい。文句を言おうと思ったが、言えなかった。その店の品質と安定性は、よく知っていたからだ。
ファルシュカが、何かしたのか?……否。
ファルシュカが、手を引いたのだ。
学園でも、影響は確実に現れていた。
昼休みの食事。いつもファルシュカが用意してくれていたものは、俺好みかつ、筋肉を養うのに最適なものだった。カフェテリアの食事はどこか味が濃く、余計な脂肪が多い。
エリュカもまた文句ばかりなくせに、ランチボックスは用意してこない。……食欲が、失せていく。
毎月あるテストはある程度の成績群が張り出されるため、誰にでも分かってしまう。いつもの参考書がないと、授業をサボりまくっていた俺は、当然ながら殆ど及第点に届かず追試者に名前があった。
「もうっ、カイロス様!なにこのテスト!めちゃくちゃじゃんっ!」
「仕方ないだろ。ファルシュカがいないと……」
「それ、全部ボクに言われるのっ!お兄さまからボクに代わった途端に成績落ちたら、ボクのせいみたいになるからやめてよっ!」
エリュカは、ファルシュカとよく似た顔で喚いた。瞳の色だけ空色。無邪気な子供のように幼く、素直な所は可愛らしい。
……そう思っていたのに、冷静に見れば、ファルシュカより表情が汚い。仕草が稚拙。発想が下衆。
ファルシュカは、品が良かった。気を抜いているように見えても背筋はピンと伸びていて、あれはもう染みついたものなのだろう。
社交界において弱みを握られないよう、教えられるあまり変わらない表情を、俺は“つまらない“とし、エリュカのころころ変わるのを”面白い“としていたのだが……あまりに、見当違い。
常に穏やかな表情を浮かべることの、難しさ。そして、他の人間には変わらない表情が、俺にだけふわりととろけるのが、いかに愛おしいものだったのか。
エリュカは婚約を結んだ途端、我儘を隠さなくなった。手に入れたものには、興味がないタイプ。
……それは、俺と同じか。同族嫌悪で吐き気がする。
エリュカはファルシュカと同じ顔だから、抱いた。男性体オメガが出産する場合、女性体オメガの出産に比べてリスクは二倍。それなら、エリュカに産ませればいいと、単純にそう思った。
それだけ。
ファルシュカは絶対に死なせたくない。
エリュカは、子供さえ産めれば良い。
そう考えて、”エリュカの子供を一緒に育てよう“と言ったのに。
ファルシュカも、双子の弟の子供なら、自分の子と同じように思ってくれると、考えていたんだ。
失って初めて、気付く。
子供なんて、どうでもいい。俺は、ファルシュカさえいれば良かったのだと。
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