【完結】あなたが幸せなら、僕も幸せ……?

カシナシ

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(ファルシュカside)


 思い切って、選択授業は『領主専門科』から『魔術専門科』へ転科した。

 投げられていたお父様の執務やカイロス様のための参考書作りなどに当てていた、全てのエネルギーを、魔術を学ぶために使う。パズルのような感覚が面白くてハマった。

 それに元々の魔力の高さと器用さ、記憶力の良さが作用したみたいで、するすると魔術陣が描ける。

 魔力の多寡たかなんて、今日日貴族社会では意識しない。だって魔石を買えばいくらでも補えるから。
 平民ならそうもいかないかもしれないけど、貴族にとって魔石はそう高くもない。

 魔術だって、魔道具か魔術符を購入すればいい。僕もそう考えていた。正直、魔術専門科に進む生徒はマニアックだ。職人を目指すの?という目で見られる。

 でも、ものすごーく、僕には合っていた。夢中で魔術書に没頭する僕は、呪具に魅入られているかのよう、だったみたい。


こんを詰めすぎるなよ……?君は無理をしがちなようだから」


 魔術に関してお話をするのが楽しくて、ルドルクス様とお茶をしていると、釘をさされてしまった。


 うぐ。何も言えない。気まずくて紅茶を一口。まだ知り合ってから少ししか経っていないのに、とてもよく理解されているみたい。


「そういえば、ファルシュカ。あれはやはり、呪具だったようだ」


 ルドルクス様は、呪具に詳しいご友人の方にガイちゃんの分析を依頼してくれていた。金色の塗装の剥がされたガイちゃんの表面には、びっしりと何か黒い文字が描かれていたんだって。こわい。


「昔の部族長の婚姻のいわいの品、らしい」

「祝いの?」

「ああ。その時点で“最も可能性の高い”を見せることで、後悔のない人生を送れるように促すという……祝福のものだそう」

 最も可能性の高い。そう聞いて、ゾッとした。

 、じゃなかったんだ。

 未来、ということは、僕はあのままなら悪夢のような人生を実際に送ることになっていたのか。


「……君の見た未来は、回避出来たと思うぞ。ファルシュカは、勇気を出して断ち切った。俺は誇りに思う」


 ルドルクス様にそう言われると、て、照れてしまう。

 この人がお父様だったら良かったのに。……なんて、贅沢なことは言えない。


「ルドルクス様と、セオドアのおかげです。今の僕には、何の力も無くて……でも、必ず何らかの形で恩返ししたいと思います。本当に、ありがとうございました」

「いや、こちらこそ助かっている。ファルシュカが来てくれてから、セオドアは毎日楽しそうだし、屋敷も華やかになった。ファルシュカのおかげだ」

「そ、そんなことはないです」


 それは、サイモンさんを筆頭に、侍女さんたちが本当にいい人たちばかりだから。

 僕の髪を手入れする係がなぜか人気らしく、日替わりでキャアキャア言いながら複雑に結ってくれる。セオドアの髪は耳あたりまでしか伸ばしてないからかな。作品の一部になったようだ。

 気恥ずかしいけど、嬉しくもある。今まで僕は、使用人にも見向きをされなかったから。


 あれ、でも、と疑問に思った。ルドルクス様の髪も長い。肩下までまっすぐにのびた黒髪は、つややかで美しい。


「ルドルクス様の髪は……いじられないのですか?」

「俺はいい。人に触られるのは得意でない。後ろに立たれるのすら神経質になるほどだからな」


 そっか、肌感覚が敏感だと、セオドアが言っていた。そのせいか、他人に触れられるのがとてもとても苦手だそう。いつも一つに括っているだけだった。


「髪も肌艶も、あっという間に良くなったな。侍女たちがはしゃいでいた。なんでも、きみ用にパックを輸入してくれと何人からも申請がある。申し訳ないが香料の無いもので許して欲しい」

「そんなっ!ぼ、僕などがパックなんて、そんな贅沢な……不相応すぎます」


 パックと言えば、ご令嬢とオメガが争奪戦を繰り広げる大人気商品だ。

 入荷次第売り切れてしまうので、予約を取るのも難しいとか。そのかわり、一度使えば病みつきになる程ぷるんぷるんになる、とか。

 正直、僕の肌にはあまり効果がないと思う。水、弾いてしまうから。美容液も弾いてしまいそうだ。勿体無い。


 ルドルクス様は何か言いかけたが、その前に僕は話題を変えるよう慌てて被せる。


「そ、そうだ!僕、緻密ちみつ魔道具作成の才能があるみたいなんです。あの、ルドルクス様がよろしければ、何か贈らせて頂いても?セオドアはメッセージ機能のついたものが欲しいと言っていたので、それを贈ろうと思っています」

「そうなのか?それはすごい。とんでもなく器用なんだな……すぐには思い浮かばないから、考えておく」

「はい、ありがとうございます」


 ルドルクス様にぽん、と頭に手を乗せられると、嬉しい。ふにゃっと笑みが溢れてしまうのは、心からふやけてしまうせい。

 ルドルクス様も、穏やかに笑っていた。





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