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残されたのは、僕と、ベアトリス王女殿下、それから、アウグスト王子殿下。
ベアトリス王女殿下は夜会のように真っ赤で、どこまでも大きく広がる派手なドレス。そこそこ大きめのわんこでも、そのふくらみの下に隠れられそうだ。
一方のアウグスト王子殿下は、市井にも紛れ込めそうなほどシンプルなブラウスだ。温度差が激しくて目がチカチカする。
二人の反応も、対照的だった。
「ファルシュカくん!やっと会えた。嬉しいよ」
「あなたが……そう。カイロスお兄さまを放り出して、わたくしのルド様に手を出した性悪オメガね」
「えっ?」
“わたくしのルド様”とは。
眉を顰めた僕に、アウグスト殿下が景気良く話しだす。
「昔、ベアトリスは攫われそうになった所をリンドバーグ辺境伯に助けられて以来、想いを寄せていたんだ。何度も婚約を申し込んだのだけど、彼の方はまだ準備が出来ていなかったみたいでね」
準備、とは?そんなこと、一言も聞いていない。
もしそれが事実なら申し訳ない所だが……それなら、ルドルクス様が説明してくれていたはずだ。つまり、限りなく疑わしい。
ベアトリス王女もますます興奮したように捲し立ててきた。
「そうなのよ。あんなにかっこいいのに、恥ずかしがり屋なんだわ。わたくしを娶るのに辺境伯じゃ功績が足りないから頑張って下さっていたの。それなのに……お前が!」
王女は手元を探して、何も無かったことに気付いたのか、侍女の持っていたティーポットに手を伸ばした。
「カイロスお兄さまと婚約しておきながら、ルド様を誑かして婚約を結ばせるなんて……なんてひどい淫乱オメガなの!?恥を知りなさい!」
ティーポットが飛んでくる。咄嗟に手のヒラを当てるとカチッと音がして、僕に当たる寸前でポットは――――バチン!
粉々に粉砕された。
少し紅茶はかかってしまったけれど、ぬるくなっていたし怪我はない。……むしろ、ちょっと威力高過ぎたかな……?
「なっ?何よそれ!」
自作の魔道具の調整を考える前に、これだけは確認しておかなくちゃ。僕はアウグスト殿下に向かって疑問を投げつける。
「ルドルクス様は、王女殿下と婚約する予定があったのですか?第二王子殿下」
「んー……まぁ、内々のことだからねぇ……公表はしていなかったけど……空気読んでくれたら良かったよねえ」
「……そうだとしても、僕がルドルクス様と婚約をしたのは、家を出てからです。順番は守っておりますし、後ろ暗いことは何もありません」
「あるから、わたくしがここにいるんじゃない。もう、お兄さま、連れていって下さる?吐き気がするの」
騎士たちには戸惑いが見られた。連れて行くって?
「ファルシュカくんは、これから私とデートだ。さあ、衣装も持ってきた。着替えてから行こうね。ファルシュカくんが美しすぎるから、少々地味な風合いにしたよ。目立ってしまわないように」
「は、はい?王女殿下は……」
「わたくしはこちらで待たせてもらうわ。ルド様にお話ししなくちゃいけないことが、たくさんあるもの」
僕が躊躇をしていると無理やり服を剥がされかねなかったため、渋々と着替え、外出の準備をした。
多分……推測になるのだが、ベアトリス王女殿下がルドルクス様とお話(?)をするために時間稼ぎがしたいのかも。
ルドルクス様も、実はベアトリス王女殿下とお話ししたいかもしれないし……僕はセオドアのいる屋敷から少なくとも一人は引き剥がすために、アウグスト殿下の“市井の視察”に付き合うこととなった。
アウグスト殿下の用意してくださった“お忍び用”衣装は、シンプルでありながら上質な絹を用いたテロッテロに柔らかなシャツ。
とても着心地が良い。暑い日差しで汗ばんでしまう、この季節にはちょうど良いかもしれない。
「私の見立てに狂いはなかったね!上品さの中にも君の可愛さを引き立てている。さあ、行こう」
「その前に、護衛を間に挟ませて頂きますね」
どん。
アウグスト殿下が詰めようとしてくる座面に置いたのは、子供ほどもある、大きめのぬいぐるみ。
本来ただのうさぎのぬいぐるみなのだが、中身を少し弄った結果、ものすごーく静電気を発するようになった。
僕以外には持てない代物である。
ちなみに夜は、一緒に寝てくれるという優れものでもある。
「いっ!?バチッときた。なんだいこれは……?」
「護衛です」
指輪と違い、全方向へ静電気を発する代わり、僕だけ無効化している。持ち運んだ場合、かなり痛い男だと思われるのが最大のデメリットではあるが、アウグスト殿下と外出するなら肉は切らせる覚悟である。
“うさパチ”を凝視しているアウグスト殿下の周りを、キョロキョロと見渡して確認する。
「殿下の近衛騎士さんも……どこかにはいらっしゃいますよね?」
「ああ、もちろん。不貞を疑われるのを心配してるのかな?」
「はい。お互いにパートナーが居るので」
「きっちりしているところも好ましいね。大丈夫だよ、今日は買い物をいくつかしたいだけだ」
そうなんだ?
先日の振る舞いが最悪の印象だったので、うさパチでガードしながらも、少しホッとする。応接室などといった密室よりも、人目のある街中の方が安全そうだ。
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