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翌日。
ルドルクス様は僕に頭を下げていらっしゃった。
「えっ!?ど、どうしたのですかルド様!?」
あのくらくらするような甘い告白の夜とは、打って変わって。彼の顔色は徹夜をしたように悪かった。
「マーサとローザから、聞いた。あの日、君の湯浴みを俺がしたこと、君は知っていたのだな」
「あ……」
「申し訳なかった。どうしても、他の者に任せたくなかった。そんな俺の身勝手な思いで、勝手なことを……」
再び深く頭を下げてくるルドルクス様に、慌ててします。
「お上げください、ルド様!僕は、感謝しかありません!その、恥ずかしさは、確かにあります。あと、ちょっと、感想が気になるところですが、いえ、大丈夫です、忘れて下さい、違うんです!」
僕は何を言っているのだろう。昨日から頭がこんがらがっているようだ。
ルドルクス様が、僕を好んでいて下さっている。その事実で頭は沸騰しているのに。
それ以上の刺激物を与えないでほしい。爆発する。
「感想……、いいのか?それはもう、とにかく絶景だった。俺の歴史上見たことのない美しさだった。走り込みを見て納得したが、均整のとれた体で、俺の鱗とは全く違う白い鱗が神秘的で……」
「ぎゃあああ!」
思わず、手でルドルクス様の口を塞いでいた。ふに、と手のひらにあたる唇の感触に、ぱっとまた離れる。
ああもう!どうすればいいの!
「フェアではないよな。俺だけが見て、君は見ていない。見てくれて構わないし、見た上で、俺の本当の婚約者になれそうかどうか、判断して欲しい」
「……えっ?」
ちょっと待って……!!
「そ、それなら、僕、ルド様の湯浴みをしなければ、フェアではありません!」
「なっ!?」
「幸い、マーサさんとローザさんに教わっております!どうか、湯浴みの補助を、させて下さい」
*
ルドルクス様のお肌は敏感で、湯浴みはご自分で済ませていらっしゃる。
その話を聞いた時、手伝って差し上げたいと思った。それで、手順や技術のコツをめいっぱい教わっていた。まさかこんな形で実現するとは、思っていなかったけれど。
「失礼します……」
もわもわと暖かい湯室に入ると、ルドルクス様は既に一切の布を身につけていなかった。
脱いだ方が一回り大きく見えるのは、気のせいか。
盛り上がった筋肉と、分厚さ。
それから、どうしても目を引くのが、ルドルクス様の中心に聳え立つ、男性器。
アルファとオメガでも差はある。僕のがアスパラとすれば、ルドルクス様は……棍棒。
明らかに通常状態ではなく、遥か高みを目指し、まっすぐに宙を貫いていた。
その状態であるのに、ルドルクス様自身は、涼しいお顔。堂々としたもので、なにもおかしいことはないかのよう。
きっと、緊張されているのだ。いつもお一人で湯浴みをされているのだから。
そのため、僕も顔に出さないよう、慎重に、言葉を紡ぐ。
「……それでは、まずはお髪から……横になって、下さい」
「ああ。ありがとう」
長い黒髪は艶々だが、良く解きほぐすと手入れの行き渡っていない部分もあった。それも、丁寧に丁寧に、洗っていく。
お胸の逞しさは、脱いでいる今の方が良くわかった。左胸のあたりは、黒々とした鱗で守られている。
ルドルクス様の鱗は、僕の鱗よりも更に厚く、そこらの鎧よりも強靭そうだった。同じ鱗でも、全然違う。
「鱗の部分は……ご自分でされますか?それとも僕でも?」
「任せてもいいだろうか」
「はいっ!お任せください」
小さなブラシと大きなブラシを使い分けて、隙間の部分も磨いていく。僕はマーサさんたちなら気にならないけど、獣人因子の現れた場所というものは、プライベートな場所なので嫌がる人も多いのだそう。
ルドルクス様は、そんな場所も僕に任せて下さる。そのことに、嬉しさを感じた。
浅い湯船で横に寝そべった状態のルドルクス様には、冷えないよう薄い沐浴布をかけている。全身湯に浸かっているけれど、水深が浅いので表側の肌は露出するのだ。
すると……やはり、一点。どうしても目が、追ってしまう。
「……俺の体は、どうだ?感想は」
「あっ!はい……とても逞しくていらっしゃって、素敵です。やはり僕とは全く筋肉のつき方が違いますね。腕もお足も、隆々として格好良くて……お腰の持ち物も王都一のエルフエル塔かのような堂々とした佇まいで……」
その天幕の元は、きっとたくさんの人々が平和な世で音楽を楽しみ歌い踊れるだろう。
と、勢いよく沐浴布を突き上げている腰元を見ていた。
……はっ!僕ってば、気づけばアレばかり見てしまって!口も!アレばかり言及している!なんて不躾な目口なんだ!?
ルドルクス様はお耳を赤くしながら、クスクスと笑っていた。その色気で吹き飛ばされてしまいそうだ。
「そうか。悪いな、今日はたまたま漲ってしまう日のようだ。気にせず洗ってくれ」
「はひ……」
気にしないわけない。と内心憤りさえしながら、ルドルクス様のお手入れをこなしていく。
肌が敏感だと仰っていたが、僕が触れても嫌がる素振りはなく、逆に、時折漏らす『ん……』や『ふぅ……』といった気持ちよさそうな声が、腰にジンジンきてしまう。
だめだめ。ルドルクス様がせっかく僕にお任せして下さっているのだから、邪な目でなんか見てしまえば、今後お任せしてくれなくなる……!
僕は懸命に、淡々と、優しく、心を無にして作業を続けた。そのうちにルドルクス様は寝てしまわれて、天幕のお祭りは終演を迎えたようだ。……通常時でもこの大きさって……いや、なんでもない。
とにかく中心部分には触れないよう慎重にルドルクス様を洗って、寝ぼけ眼のうちに夜間着を着せて、部屋を出る。
「……」
すたすた。すたすたすた。
「……」
足早に、自室へとたどり着く。中へ入った瞬間、へなへなと崩れ落ちた。
「うぅ……色気の暴力……」
ああ……下履きが、気持ち悪い。
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