【完結】あなたが幸せなら、僕も幸せ……?

カシナシ

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57 エリュカside



(エリュカside)



 体験入学中のベアトリス姫は、ちらりと聞いただけでルドルクス・リンドバーグ辺境伯を慕っていることが丸わかりだ。

 あの人はボクのものなのに。お茶会ではもっと話したかったのに、あの姫がトラブルを起こしたせいで早く帰ってしまったと、カイロス様から教わった。


 おにーさまを一生懸命攻撃していらしている。それは別に良いんだけど、周囲を同情させるそのやり方は、王族としてはどうなの?

 だって王女という立場があるのに、みすみす出し抜かれたって言っているも同然。


 あったま悪い。


 せめて、『想い人を横取りされて傷つきながらも二人の幸せを願って身を引く王女』の方が、同情されやすいと思う。ボクは、同情の引き方についてはとっても詳しいんだから。

 ベアトリス姫がルドルクス様を狙っている最中に、ボクが『ファルシュカ』と入れ替わるとマズイかも。

 もう最終学期に入った。その最後には、卒業試験が行われる。

 入れ替わるのはその後だけど、それまでに、ルドルクス様が婚約を解消して姫と婚約しちゃったら?そんなの、だめ。入れ替われなくなっちゃう。


 つまり……ベアトリス姫とお話しして、操縦しなくちゃ。権力だけはあるのだから、共通の敵おにーさまを退けるために、利用してやる。それも、上手に。




 ボクがそう考えた時に、向こうから接触してきたのだ。


「おまえが、ファルシュカの弟ね。エリュカ・ブルーム。本当にそっくりね。腹立たしい……」

「……なにか、ご用ですか?王女殿下」

「ファルシュカ……アレの弱味は握っていて?あるならわたくしが有効活用してあげるから、寄越しなさい」


 ボクは鼻で笑いそうになる。おにーさまの弱味?

 そんなの、あったらとっくに使っている。いや、使う予定だったのだ。“カイロス殿下が好きすぎる”ということ。

 おにーさまがカイロス殿下を愛している限り、ボクたち親子の計画は完璧だった。おにーさまが業務や領地の管理など、難しくて面倒で疲れることは全部、やってくれるはずだった。

 ボクは格好良くて素敵なカイロス様の、夜を担当していればいい。気持ち良くて満たされるし、みんなに自慢できる素敵な旦那様を隣に連れて、堂々と歩ける予定だった。

 いつまでも、年老いて死ぬまで、ずっと。

 それなのに、おにーさまは逃げた。カイロス様との婚約を放り投げてまで。そんなことをするなんて夢にも思っていなかった。

 でも、それでボクも、分かったことがある。

 カイロス様じゃ、ボクを満足させてくれない。いつもいつも冒険ばかりで、まるで頼りにならない。

 現に今、ブルーム侯爵家は傾いていっているのに、何にも手を打ってくれない。お小遣いが減らされ、ドレスコートも新調させてくれない。
 使用人は料理人から辞めていったから、食べ物のランクと味が低下して、毎日まずいものを食べさせられている。


 そんな状況なのに、カイロス様は卒業試験にどうやって合格するのか、そればっかり。ボクにも『真面目に勉強しろ』なんて無茶なこと言うし。




 そこで次に目をつけたのは、ルドルクス様だ。

 さすがおにーさま、寄生先の見る目がある。ルドルクス様ならすでに当主で何年も実績がある。カイロス様とは違い、お支えする必要もない、頼れるお人。

 うん、合格。

 ボクが、ルドルクス様の妻になってあげるね。

 その際には、ボクはエリュカの名前を捨てている。だから、逆に言えば……ボクは何をしたっていい。ボクって、あまりにも天才。
 だって、次にエリュカの名前を受け継ぐのは、おにーさまだもん。


「では、これはご存知です?おにーさまは、都合が悪い時だけ、ボクの名前……『エリュカ』の名前を使うんです……」

「なんですって?」


 ほんの少しの涙を滲ませると、王女の取り巻きの男たちが、ゴクリと喉を鳴らした。程度の低い男ばかりだ。いい気分。


「ボク、身体が弱いんです。おにーさまは頑丈で、風邪ひとつも引いたことがなくて……遊ぶのに忙しくて、課題も執務も、全部ボクに押し付けて、『ファルシュカ』の名前で処理するように言って……自分は、毎晩遊んでいました」


 王女は偉そうに腕を組みながら、『続けなさい』と顎を上げた。


「そんな時、でした。ボクがカイロス様に襲われるように、仕向けたのはおにーさまです。ボクには好きな人がいたのに……きっと、おにーさまは遊び足りなかったから。ボクをごみのように捨てて、おにーさまは、リンドバーグに逃げ込んで……何も知らないリンドバーグ卿を、唆して……」

「そう、なの?好きな人、というのは……」

「もう、言えません……カイロス様のお子がお腹にいるんです……聞かせたくないので……」


 腹をそうっと撫でると、一気に同情の視線が集まってきた。これこれ。気持ちいい。はぁ、こうでなくっちゃね。


 王女もボクを見ながら、考えているようだ。うん、ここで一気に勝負に出る。


「ですから、ボクは本来の立場に戻りたいのです。お兄さまはエリュカに、ボクはファルシュカの名前を取り戻したい……。遊んでいたおにーさまの、汚名おめいかぶるのは嫌なんです……でも、どうしたらいいか……」

「わかったわ。アナタはファルシュカに戻りたいのね。従順そうなアナタなら、一瞬だけルド様の婚約者になっても、すぐに身を引いてくれるわよね?約束してくれるなら、手を貸してあげなくもないわ」

「もちろんです……!感謝致します、王女殿下……!なんと心お優しい……!」


 従順なフリをしたけど、そんな約束、する気もない。一度ルドルクス様の婚約者になったなら、一生解消する気はない。

 でも、そんなことは一切おくびにも出さず、ボクは王女に感謝を示し、両手を組み合わせた。

 ふふ、エリュカが遊んでいたのは事実だ。だってそれ、ボクだもん。あはは、もう、ボクってばもっと派手に遊んでいてもよかったかも。こうしておにーさまの“弱味”を作れたんだから。





 
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