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リンドバーグ辺境伯邸に勤めている使用人さんたちは、基本的に年齢層が高い。
最年少でも三十代であり、本当は若い方を採用して、知識の継承を行わなければならないのだが、なかなか難しい事情がある。
それは、ルドルクス様に惑わされる問題。
そして、セオドアに堕ちる問題。
僕?僕は大丈夫だと……思う。
この美形兄弟がいるのに、ご両親は領地の方にいらっしゃるため、『今だ』と地雷に突っ込んでいく命知らずが後を絶たないらしい。
その辺りの一連の流れは、使用人さんたち皆が心得ていた。
「あと一刻は持つんじゃないかしらぁ。だって辺境伯まで使ったんだもの」
「いーや、あと数分で来るよ。『ああんっ!こんなことをするために来たんじゃないのにぃ~っ、ひどいんですぅジョディさんが虐めるんですぅ~』ってね!」
ローザさんとマーサさんがそう言って、互いの銀貨をそれぞれ賭け始めた時、バンッ!と音を立てて食堂の扉が開いた。
「ルド様ぁっ!ひどいんですぅ、ぼく、侍従志望で来たのにいっ!ジョディさんが馬糞係だって虐めるんですぅぅ!!」
賭けはマーサさんの勝ちのようだ。銀貨二枚がマーサさんのポッケに吸い込まれていった。
僕はその光景を微笑ましく見守り、淡々と食事を続ける。
「旦那様はいらっしゃいません。それで、何か問題が?」
「……っ、あんたに話は無いからっ。ルド様はどこっ?」
「コラァッ!奥様に向かってなんだいその口の聞き方はァッ!」
ボフッ!
マーサさんがティターニャを平手打ちした。分厚いパンのようなおててが衝撃波を放ち、ティターニャは軽く回転して倒れた。
すごい……あのおてて、あんな威力も出せるんだ……。
「マーサさん、手を痛めないようにね。その通りですよ、ティターニャ。君は僕と同窓だけど、特別扱いはしない。旦那様を愛称で呼ぶ権利は、僕にだけ許されていますので、規定通り、『旦那様』と呼ぶように」
「フンッ!知らな……わ、分かった!分かりましたから!『旦那様』ッ!これでいいんでしょっ!」
マーサさんがまた手のひらを用意すると、ティターニャは呆気なく白旗を上げた。
うん、僕も……仮にマーサさんの手のひらが“構え”に入ったら、絶対すぐに投了するな。
「ええ。それから、ジョディさんは厩番としてプロフェッショナルで、気難しい軍馬も彼女には従う素晴らしい腕をお持ちです。虐めるということは絶対にありませんので、安心して学んでくださいね」
「だって!きったない、くっさい馬糞なんて触りたくないしっ!!触って馬の体調をどうとかって、絶対イジメだもんっ!」
「『もん』というのはお辞めください。この屋敷に五歳児のような使用人が居ると知られたら、恥ずかしくて堪りません。……ああ、ジョディさん、来ましたか」
凛々しい顔つきの女性が、うちのトップ厩番のジョディさんである。
服装を気にしてか、食堂に入らないようにティターニャを捕まえるため、シュッと縄を投げていた。み、見事な捕まえ方だ……。
「失礼致しました。ほらっ、少年、来るんだ!」
「いやだあっ!ぼく、ぼくは旦那様のお世話をしに来たんだからぁっ!………」
「旦那様のお世話など百万年早いっ!その前に馬がお前を待っている!」
騒ぐ声が遠くなる。そこにいた使用人たちが、一斉にハァァ……とため息をついた。
「次の就職先を探さないと。どこがいいかな……商会とか……騎士団の雑用とか……?」
そういえばティターニャは何が出来るのだっけ?その、閨ごと以外では。
「商会は忙しいですし、騎士団の雑用は見習いの仕事で体力仕事です。どちらも務まる気がしませんね。それこそ娼館がぴったりなのでは……」
サイモンさんが履歴書を見ながら言う。見せてもらったが、特筆すべきところは無く、学園卒業時の成績も、ギリギリだ。
「せっかく学園を卒業したのにね……」
娼館は少し可哀想な気がする。どこか、他に彼の輝ける所が見つかると良いけど……。
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