【完結】あなたが幸せなら、僕も幸せ……?

カシナシ

文字の大きさ
104 / 137

104


 リンドバーグ辺境伯邸に勤めている使用人さんたちは、基本的に年齢層が高い。

 最年少でも三十代であり、本当は若い方を採用して、知識の継承を行わなければならないのだが、なかなか難しい事情がある。


 それは、ルドルクス様に惑わされる問題。
 そして、セオドアに堕ちる問題。
 僕?僕は大丈夫だと……思う。

 この美形兄弟がいるのに、ご両親は領地の方にいらっしゃるため、『今だ』と地雷に突っ込んでいく命知らずが後を絶たないらしい。

 その辺りの一連の流れは、使用人さんたち皆が心得ていた。


「あと一刻は持つんじゃないかしらぁ。だって辺境伯まで使ったんだもの」

「いーや、あと数分で来るよ。『ああんっ!こんなことをするために来たんじゃないのにぃ~っ、ひどいんですぅジョディさんが虐めるんですぅ~』ってね!」

 
 ローザさんとマーサさんがそう言って、互いの銀貨をそれぞれ賭け始めた時、バンッ!と音を立てて食堂の扉が開いた。


「ルド様ぁっ!ひどいんですぅ、ぼく、侍従志望で来たのにいっ!ジョディさんが馬糞係だって虐めるんですぅぅ!!」


 賭けはマーサさんの勝ちのようだ。銀貨二枚がマーサさんのポッケに吸い込まれていった。

 僕はその光景を微笑ましく見守り、淡々と食事を続ける。


「旦那様はいらっしゃいません。それで、何か問題が?」

「……っ、あんたに話は無いからっ。ルド様はどこっ?」

「コラァッ!奥様に向かってなんだいその口の聞き方はァッ!」


 ボフッ!

 マーサさんがティターニャを平手打ちした。分厚いパンのようなおててが衝撃波を放ち、ティターニャは軽く回転して倒れた。

 すごい……あのおてて、あんな威力も出せるんだ……。


「マーサさん、手を痛めないようにね。その通りですよ、ティターニャ。君は僕と同窓だけど、特別扱いはしない。旦那様を愛称で呼ぶ権利は、僕にだけ許されていますので、規定通り、『旦那様』と呼ぶように」

「フンッ!知らな……わ、分かった!分かりましたから!『旦那様』ッ!これでいいんでしょっ!」


 マーサさんがまた手のひらを用意すると、ティターニャは呆気なく白旗を上げた。

 うん、僕も……仮にマーサさんの手のひらが“構え”に入ったら、絶対すぐに投了するな。


「ええ。それから、ジョディさんは厩番としてプロフェッショナルで、気難しい軍馬も彼女には従う素晴らしい腕をお持ちです。虐めるということは絶対にありませんので、安心して学んでくださいね」

「だって!きったない、くっさい馬糞なんて触りたくないしっ!!触って馬の体調をどうとかって、絶対イジメだもんっ!」

「『もん』というのはお辞めください。この屋敷に五歳児のような使用人が居ると知られたら、恥ずかしくて堪りません。……ああ、ジョディさん、来ましたか」


 凛々しい顔つきの女性が、うちのトップ厩番のジョディさんである。

 服装を気にしてか、食堂に入らないようにティターニャを捕まえるため、シュッと縄を投げていた。み、見事な捕まえ方だ……。


「失礼致しました。ほらっ、少年、来るんだ!」

「いやだあっ!ぼく、ぼくは旦那様のお世話をしに来たんだからぁっ!………」

「旦那様のお世話など百万年早いっ!その前に馬がお前を待っている!」


 騒ぐ声が遠くなる。そこにいた使用人たちが、一斉にハァァ……とため息をついた。


「次の就職先を探さないと。どこがいいかな……商会とか……騎士団の雑用とか……?」


 そういえばティターニャは何が出来るのだっけ?その、閨ごと以外では。


「商会は忙しいですし、騎士団の雑用は見習いの仕事で体力仕事です。どちらも務まる気がしませんね。それこそ娼館がぴったりなのでは……」


 サイモンさんが履歴書を見ながら言う。見せてもらったが、特筆すべきところは無く、学園卒業時の成績も、ギリギリだ。


「せっかく学園を卒業したのにね……」


 娼館は少し可哀想な気がする。どこか、他に彼の輝ける所が見つかると良いけど……。








感想 128

あなたにおすすめの小説

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。 ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

妹に婚約者を取られるなんてよくある話

龍の御寮さん
BL
ノエルは義母と妹をひいきする父の代わりに子爵家を支えていた。 そんなノエルの心のよりどころは婚約者のトマスだけだったが、仕事ばかりのノエルより明るくて甘え上手な妹キーラといるほうが楽しそうなトマス。 結婚したら搾取されるだけの家から出ていけると思っていたのに、父からトマスの婚約者は妹と交換すると告げられる。そしてノエルには父たちを養うためにずっと子爵家で働き続けることを求められた。 さすがのノエルもついに我慢できず、事業を片付け、資産を持って家出する。 家族と婚約者に見切りをつけたノエルを慌てて追いかける婚約者や家族。 いろんな事件に巻き込まれながらも幸せになっていくノエルの物語。 *ご都合主義です *更新は不定期です。複数話更新する日とできない日との差がありますm(__)m

愛され方を教えて

あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。 次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。 そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…

婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!

めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。 目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。 二度と同じ運命はたどりたくない。 家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。 だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。