117 / 137
117 ルドルクスside
(ルドルクスside)
ピノ男爵令息を監視していた二人は、気づいた時には同情し、牢を開けてしまった後。
すぐに戻ってくるというティターニャを信用し、誰もいない牢でほのぼのと待っていたらしい。正気か?
寝室前の警備兵は、そのティターニャから『ファルシュカ様からの差し入れです』とクッキーを配られ、久しぶりだったそれに喜んで食べた結果、気絶したように眠ってしまった。
全てはこの時のため、普段から何も入っていない普通のクッキーを配っていたのだ。
確かに、ファルシュカが稀に差し入れをしたことはあった。このところ忙しいファルシュカが作れていないこともあって、喜んでしまったのは責められない。
しかしピノ男爵令息に対して、油断しすぎではなかろうか。叩き直すため、全ての警備兵を順番に遠征へ行かせることにした。本拠地であるリンドバーグ辺境伯で、キツく扱かれればいい。
そしてやはり……ファルシュカは怒っている。
初めての喧嘩だ。そのことに不謹慎にもほっこりしてしまう自分が恨めしい。
喧嘩とは、信頼関係がなければ起こらないことだ。
それに、甘えも。
ファルシュカは俺を信用し、甘えているからこそ、裏切られたと悲しみ、怒っているのである。
全面的に俺が悪い。
元々、ファルシュカは侍従、侍女や、同性のセオドアでさえ、体を見られることを嫌がっていた。最近ようやく肌で触れ合うことに慣れ始めて、俺は調子に乗っていたのだろう。
『俺の』ファルシュカなのだから、という甘え。
ファルシュカはファルシュカのものなのに、とんだ勘違いだ。
会ってくれなかった日はなにも手につかなかったために、一日滝に打たれに行った。凍えるような水飛沫に強く叩きつけられ続けて、頭は冷えた……と、思う。
「ファルシュカ様が、お会いになるそうです」
マーサがじとっとした目を向けながら、工房へ入れてくれた。
恐る恐る中へと足を踏み入れる。緊張する。ことファルシュカが関係すると、俺はよく緊張している気がするな。絶対に失いたくない人だからか……。
ファルシュカは温室の中、静かに凛と座っていた。
「……」
俺を見ても、目を伏せてしまう。いつもは輝かせていた瞳に浮かぶ、悲しい色。胸が引き絞られるほどに傷んだ。
足元に跪く。膝に置かれた嫋やかな手を取ると、弱々しい力で、きゅうっ……と、握られる。
「すまなかった」
「……はい」
「俺は、ファルシュカを一番に大事にしなくてはならなかったのに……嫌がることをした。申し訳ない……」
両手で、華奢な指を包み込む。本当に俺は、ファルシュカでなくてはダメなんだ。嫌いにならないで欲しい。
じっ、と懇願するように見つめていると、ファルシュカの瞳から、ぽろり、涙が一粒転がり落ちた。
「ファルシュカ……っ」
「僕のこと、大事……ですか?いちばん?」
泣かせてしまった。胸が痛い。慌てて両頬を包み込み、濡れた瞼にキスをした。
「勿論に決まっている!もう二度と、しない。もう二度と、君の嫌がることはしない」
「……はい。抱きしめて、ください」
一日ぶりのファルシュカを、隙間のないくらいに強く抱きしめた。可愛い。かわいい……!
感極まった結果、つんと鼻の奥が痛い。いや、ここで泣くなどみっともない。見られないように抱きしめ続けていると、腕の中のファルシュカが、低い、抑揚のない声で言う。
「では、教えて下さい。何故、あのようなことをしたのか。どんな気持ちであれをしたのか」
ぶるりと震えた。いいようのない圧迫感と罪悪感。
…………本当に、申し訳なかった。
懺悔しながら、ぽつぽつと話していった。正直に、ここは、包み隠さず、洗いざらい、吐いた。
良いところを邪魔されて頭に血が上ったところから、ファルシュカの慎ましさと艶やかさを同時に見せつけようとしたことまで。
全てを話し終わると、引かれたかと思いきや、ファルシュカはくすくす笑っていた。
「……なんとなく、分かりました。ええと、張り合い?たかったのですね。僕を使ったのは頂けませんが……僕も、ルド様が一番、大事です。その、ルド様のお心が守られたなら、良しとします」
「うっ……」
「でも、二度はないですからね?」
あまりに清らかなファルシュカの健気さに、浄化されるかと思った。ファルシュカの深い深い愛情を感じ、頭を垂れる。
愛している。一昨日より昨日より、日々深くなっていくファルシュカへの想いに、自分自身でさえ溺れてしまいそうだ。
ピノ男爵令息を監視していた二人は、気づいた時には同情し、牢を開けてしまった後。
すぐに戻ってくるというティターニャを信用し、誰もいない牢でほのぼのと待っていたらしい。正気か?
寝室前の警備兵は、そのティターニャから『ファルシュカ様からの差し入れです』とクッキーを配られ、久しぶりだったそれに喜んで食べた結果、気絶したように眠ってしまった。
全てはこの時のため、普段から何も入っていない普通のクッキーを配っていたのだ。
確かに、ファルシュカが稀に差し入れをしたことはあった。このところ忙しいファルシュカが作れていないこともあって、喜んでしまったのは責められない。
しかしピノ男爵令息に対して、油断しすぎではなかろうか。叩き直すため、全ての警備兵を順番に遠征へ行かせることにした。本拠地であるリンドバーグ辺境伯で、キツく扱かれればいい。
そしてやはり……ファルシュカは怒っている。
初めての喧嘩だ。そのことに不謹慎にもほっこりしてしまう自分が恨めしい。
喧嘩とは、信頼関係がなければ起こらないことだ。
それに、甘えも。
ファルシュカは俺を信用し、甘えているからこそ、裏切られたと悲しみ、怒っているのである。
全面的に俺が悪い。
元々、ファルシュカは侍従、侍女や、同性のセオドアでさえ、体を見られることを嫌がっていた。最近ようやく肌で触れ合うことに慣れ始めて、俺は調子に乗っていたのだろう。
『俺の』ファルシュカなのだから、という甘え。
ファルシュカはファルシュカのものなのに、とんだ勘違いだ。
会ってくれなかった日はなにも手につかなかったために、一日滝に打たれに行った。凍えるような水飛沫に強く叩きつけられ続けて、頭は冷えた……と、思う。
「ファルシュカ様が、お会いになるそうです」
マーサがじとっとした目を向けながら、工房へ入れてくれた。
恐る恐る中へと足を踏み入れる。緊張する。ことファルシュカが関係すると、俺はよく緊張している気がするな。絶対に失いたくない人だからか……。
ファルシュカは温室の中、静かに凛と座っていた。
「……」
俺を見ても、目を伏せてしまう。いつもは輝かせていた瞳に浮かぶ、悲しい色。胸が引き絞られるほどに傷んだ。
足元に跪く。膝に置かれた嫋やかな手を取ると、弱々しい力で、きゅうっ……と、握られる。
「すまなかった」
「……はい」
「俺は、ファルシュカを一番に大事にしなくてはならなかったのに……嫌がることをした。申し訳ない……」
両手で、華奢な指を包み込む。本当に俺は、ファルシュカでなくてはダメなんだ。嫌いにならないで欲しい。
じっ、と懇願するように見つめていると、ファルシュカの瞳から、ぽろり、涙が一粒転がり落ちた。
「ファルシュカ……っ」
「僕のこと、大事……ですか?いちばん?」
泣かせてしまった。胸が痛い。慌てて両頬を包み込み、濡れた瞼にキスをした。
「勿論に決まっている!もう二度と、しない。もう二度と、君の嫌がることはしない」
「……はい。抱きしめて、ください」
一日ぶりのファルシュカを、隙間のないくらいに強く抱きしめた。可愛い。かわいい……!
感極まった結果、つんと鼻の奥が痛い。いや、ここで泣くなどみっともない。見られないように抱きしめ続けていると、腕の中のファルシュカが、低い、抑揚のない声で言う。
「では、教えて下さい。何故、あのようなことをしたのか。どんな気持ちであれをしたのか」
ぶるりと震えた。いいようのない圧迫感と罪悪感。
…………本当に、申し訳なかった。
懺悔しながら、ぽつぽつと話していった。正直に、ここは、包み隠さず、洗いざらい、吐いた。
良いところを邪魔されて頭に血が上ったところから、ファルシュカの慎ましさと艶やかさを同時に見せつけようとしたことまで。
全てを話し終わると、引かれたかと思いきや、ファルシュカはくすくす笑っていた。
「……なんとなく、分かりました。ええと、張り合い?たかったのですね。僕を使ったのは頂けませんが……僕も、ルド様が一番、大事です。その、ルド様のお心が守られたなら、良しとします」
「うっ……」
「でも、二度はないですからね?」
あまりに清らかなファルシュカの健気さに、浄化されるかと思った。ファルシュカの深い深い愛情を感じ、頭を垂れる。
愛している。一昨日より昨日より、日々深くなっていくファルシュカへの想いに、自分自身でさえ溺れてしまいそうだ。
あなたにおすすめの小説
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
完結しました!ありがとうございました。
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
愛され方を教えて
あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。
次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。
そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…
妹に婚約者を取られるなんてよくある話
龍の御寮さん
BL
ノエルは義母と妹をひいきする父の代わりに子爵家を支えていた。
そんなノエルの心のよりどころは婚約者のトマスだけだったが、仕事ばかりのノエルより明るくて甘え上手な妹キーラといるほうが楽しそうなトマス。
結婚したら搾取されるだけの家から出ていけると思っていたのに、父からトマスの婚約者は妹と交換すると告げられる。そしてノエルには父たちを養うためにずっと子爵家で働き続けることを求められた。
さすがのノエルもついに我慢できず、事業を片付け、資産を持って家出する。
家族と婚約者に見切りをつけたノエルを慌てて追いかける婚約者や家族。
いろんな事件に巻き込まれながらも幸せになっていくノエルの物語。
*ご都合主義です
*更新は不定期です。複数話更新する日とできない日との差がありますm(__)m
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!