【完結】あなたが幸せなら、僕も幸せ……?

カシナシ

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117 ルドルクスside

(ルドルクスside)



 ピノ男爵令息を監視していた二人は、気づいた時には同情し、牢を開けてしまった後。

 すぐに戻ってくるというティターニャを信用し、誰もいない牢でほのぼのと待っていたらしい。正気か?

 寝室前の警備兵は、そのティターニャから『ファルシュカ様からの差し入れです』とクッキーを配られ、久しぶりだったそれに喜んで食べた結果、気絶したように眠ってしまった。

 全てはこの時のため、普段から何も入っていない普通のクッキーを配っていたのだ。


 確かに、ファルシュカが稀に差し入れをしたことはあった。このところ忙しいファルシュカが作れていないこともあって、喜んでしまったのは責められない。

 しかしピノ男爵令息に対して、油断しすぎではなかろうか。叩き直すため、全ての警備兵を順番に遠征へ行かせることにした。本拠地であるリンドバーグ辺境伯で、キツく扱かれればいい。



 そしてやはり……ファルシュカは怒っている。



 初めての喧嘩だ。そのことに不謹慎にもほっこりしてしまう自分が恨めしい。


 喧嘩とは、信頼関係がなければ起こらないことだ。

 それに、甘えも。

 ファルシュカは俺を信用し、甘えているからこそ、裏切られたと悲しみ、怒っているのである。


 全面的に俺が悪い。


 元々、ファルシュカは侍従、侍女や、同性のセオドアでさえ、体を見られることを嫌がっていた。最近ようやく肌で触れ合うことに慣れ始めて、俺は調子に乗っていたのだろう。


『俺の』ファルシュカなのだから、という甘え。

 ファルシュカはファルシュカのものなのに、とんだ勘違いだ。

 会ってくれなかった日はなにも手につかなかったために、一日滝に打たれに行った。凍えるような水飛沫に強く叩きつけられ続けて、頭は冷えた……と、思う。










「ファルシュカ様が、お会いになるそうです」


 マーサがじとっとした目を向けながら、工房へ入れてくれた。

 恐る恐る中へと足を踏み入れる。緊張する。ことファルシュカが関係すると、俺はよく緊張している気がするな。絶対に失いたくない人だからか……。

 ファルシュカは温室の中、静かに凛と座っていた。


「……」


 俺を見ても、目を伏せてしまう。いつもは輝かせていた瞳に浮かぶ、悲しい色。胸が引き絞られるほどに傷んだ。

 足元に跪く。膝に置かれた嫋やかな手を取ると、弱々しい力で、きゅうっ……と、握られる。


「すまなかった」

「……はい」

「俺は、ファルシュカを一番に大事にしなくてはならなかったのに……嫌がることをした。申し訳ない……」


 両手で、華奢な指を包み込む。本当に俺は、ファルシュカでなくてはダメなんだ。嫌いにならないで欲しい。

 じっ、と懇願するように見つめていると、ファルシュカの瞳から、ぽろり、涙が一粒転がり落ちた。


「ファルシュカ……っ」

「僕のこと、大事……ですか?いちばん?」


 泣かせてしまった。胸が痛い。慌てて両頬を包み込み、濡れた瞼にキスをした。


「勿論に決まっている!もう二度と、しない。もう二度と、君の嫌がることはしない」

「……はい。抱きしめて、ください」


 一日ぶりのファルシュカを、隙間のないくらいに強く抱きしめた。可愛い。かわいい……!

 感極まった結果、つんと鼻の奥が痛い。いや、ここで泣くなどみっともない。見られないように抱きしめ続けていると、腕の中のファルシュカが、低い、抑揚のない声で言う。


「では、教えて下さい。何故、あのようなことをしたのか。どんな気持ちであれをしたのか」


 ぶるりと震えた。いいようのない圧迫感と罪悪感。



 …………本当に、申し訳なかった。

 懺悔しながら、ぽつぽつと話していった。正直に、ここは、包み隠さず、洗いざらい、吐いた。

 良いところを邪魔されて頭に血が上ったところから、ファルシュカの慎ましさと艶やかさを同時に見せつけようとしたことまで。

 全てを話し終わると、引かれたかと思いきや、ファルシュカはくすくす笑っていた。


「……なんとなく、分かりました。ええと、張り合い?たかったのですね。僕を使ったのは頂けませんが……僕も、ルド様が一番、大事です。その、ルド様のお心が守られたなら、良しとします」

「うっ……」

「でも、二度はないですからね?」


 あまりに清らかなファルシュカの健気さに、浄化されるかと思った。ファルシュカの深い深い愛情を感じ、頭を垂れる。

 愛している。一昨日より昨日より、日々深くなっていくファルシュカへの想いに、自分自身でさえ溺れてしまいそうだ。









 
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