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本編

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 何故かボロボロの姿の、アペルだった。

 小さな結婚式にしたせいか、警備の目をくぐるのも簡単だったのか。
 でも……何でこんなところにまで来たのだろう。そりゃ、彼は隣領に住んではいるけど、僕なんか見たくもないだろうと思っていたのに。

 僕のベールを支えていたブロディが、さっと動こうとするのを止める。何を言いたいのか、興味があった。

「そんなっ……、隣のお方、目を覚まして!その男は、ボクの夫を奪った、淫乱で……っ」

「アペル様、お気は確かですか。この方は、元国王陛下ですよ」

「……っ、こんなに若いなんて聞いてないんだけど!?分かった、そこを代わって!」

「は……何故?」

「あんたのものの中で、一番いいやつをボクに渡せ!じゃなきゃ、夫を寝取られた恨みは晴らせないんだ!だから、衣装を脱いで。その髪飾りも全部、ボクに寄越して」



「はぁ……ねぇ、伯爵。どうする?」



 エリオットの父親である伯爵は、悪い人ではなかったために招待していたのだ。ボールが跳ねるように飛び出てきた伯爵は、アペルに飛びかかり、全身を使って床へ引き倒した!

「すみません!すみません!この悪嫁が!!エリオットと共に、領地の端に押し込んでおいたのに、それでは足りなかったようで……」

「それでも、まだ、伯爵令息ではあるんだね?エリオットは」

「もう、籍を抜きます。いずれその予定で進めておりました。しかし、遅くなったためにこのようなことになり、本当に申し訳ありません……!」

 伯爵が新たに養子を取ったことは知っていた。エリオットは次期伯爵の器ではない。せっかく領が豊かになったというのにエリオットに渡せば、たちまち傾くだろうと、伯爵も同じ考えをしていたようだ。

「は!?は!?今でも生活するのにやっとのお小遣いしかくれないのに、籍を抜くってどういうこと!?あんた……あんたが悪いんだぁぁああ!」

 伯爵の下でじたばたと暴れるアペルは、いつかのように、僕に向かって水魔法を打つ!

 でも、ね。
 びしゃっ、と濡れ鼠になったのは、アペルの方だった。可哀想に、伯爵も巻き込まれてずぶ濡れだ。

「!なんで……」

「アペル様。僕には、あなたの考えが全く分からない。エリオットを愛しているかと思えば、そうではないよね。僕との関係を知っていて、エリオットと結婚したのに、幸せになれなかったからと乗り換えようとしてる?」

「だって!エリオットは、ボクを幸せにする義務がある!けど、全然、これっぽっちもしてくれないもの!」

「あなたにも、結婚したからには彼を幸せにする義務があるのでは?」

「ボクはいいんだ。だってエリオットが悪いんだから、一生をかけて償うべきなんだ!あんたもね!」

「……それなら、乗り換えようとするのはおかしくありません?」

「ボクが誰を好きだろうと、誰の妻になろうと、エリオットはボクに尽くす必要があるんだから、おかしくないもん!」

「シオン。無駄だよ。同じ言語でも、通じない相手はいる」



 グロリアスがため息を吐き、眷属を呼び出す。わらわらとやってきた大量の、それも色とりどりの蛇に、アペルが腰を抜かした所で、彼の身体を取り囲むようにして持ちあげた。



「ひぇえぇえええっ!……ふ……」

 失神したアペルが、蛇のベッドに乗って退場していく。




 あれ、退場していった先に誰かいる……?

 その人物は、ふらりとカーペットの中央へと出てきた。エリオットだ。妻であるアペルの事も一切見ず、僕だけを一身に見つめている。


「シオン……美しい。素敵だ。それなのに、何故、他の男と……?」

「お褒めいただきありがとうございます。ですが、貴方は招待しておりませんよ?」


 ぐい、とグロリアスに腰を引かれる。温かくて力強い胸板に、僕のドキドキが暴れ出し、顔が熱くて堪らなくて、一気に目の前の珍客などどうでも良くなってしまった。


「……っ!シオン、俺は……、一体、何だったんだ?もしかして、弄ばれたのは俺の方だったのか?なぁ、シオン。用が済めば要らないって?」

「……ええと?僕を捨てたのは貴方の方でしたよね。別に、今更どうこう言う気はありませんが、僕は、この方と幸せになるので。お引き取りください」

「全く、呼んでもいないのに次々と……、伯爵!」

「シオッ、ぐぇっ……」


 びしょ濡れの伯爵に、グロリアスが厳格な声で言った。
 と同時に、エリオットにも蛇がぐるぐると巻き付き、姿が見えなくなる。アペルよりかなり大きくて太い蛇さんで、容赦が無い。


「あれらは野放しにすると厄介そうだから、夫妻の住む場所の周りを鉄柵か何かで隔離してくれるか。監視は蛇たちに頼むから、伯爵は二度と彼らが出れないような施設を作ってくれ」

「は、はいっ!全力で取り掛からせて頂きますぅ!」

 伯爵は顔を白くして、エリオットと共に退場していく。きっとすぐに着手するのだろう。

「ようやく静かになったな、シオン。もう待てないよ」

「う、んーーーー?」

 誓いのキスというには、少し強すぎる口付けが降ってきた。

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