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本編

62 ジョスリン 末路

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(最高の夜だったわ……グロリアス様ったら、すごく情熱的なんだから……もう♡)

 とんでもなく気持ちの良い処女喪失だった。と思いながら起きて、昨晩を思い出そうとするも、あまり鮮明でない。そう、グロリアスを誘って、でも冷たく返されて、それで……?

(きっと話しているうちに媚薬が効いたのね。あの冷たい目もゾクゾクするくらい好きだわ……!)

 とにかく身体は事後の痛みと重怠さを訴えていて、彼の姿は無くとも、通じ合ったと分かった。外野がいくらグロリアスではないと言っても、信じるわけが無い。だって、帝国の第一皇女の貞操は、金山よりも価値がある。それを、まさか、ドブに捨てたなんてことは、あり得ない。

 まさか、自分の雇った男がシオンを犯せなくて、腹いせに皇女を犯し尽くし、自分の用意した逃げ道でまんまと逃げおおせているなんて。理解出来るはずも無かった。







「なんてことをしてくれたんだ、ジョスリン……王国との上下関係が、出来てしまったじゃないか……」
「何よ、わたくしのお願いを聞いてくれないお兄様なんか、嫌いだわ!」

「こればかりは甘やかし過ぎた。父上も危ういぞ。何故分からない?」
「何でですの?お父様なら、こんなに可哀想なわたくしを見たら、グロリアス様を差し出させるはずよ!」

「はぁ……お終いだ……お終いだ……」

 ジョイの危惧した通り、ジョスリンの愚行によって、帝国にも波乱が訪れていた。




 ジョスリンは美しく、唯一の皇女ということで蝶よ花よと育てられた。国民や貴族らが期待していたのは、どこか王族へ嫁入りし、帝国に恵みをもたらし、かつ、他国でもジョスリンの美しさを知らしめること。

 ジョスリンに甘い帝王は、娘の生活費に注ぐ金に糸目をつけることはしなかった。男ばかりの子供の末っ子で、可愛らしい女の子。ということもあり、ジョイもまた、甘やかしてしまった。

 ところが、留学先で好き放題をした結果、王国の、それも王族から軒並み嫌われ、今後の国交も危うい。特に、国の救世主を貶めようとしたツケは大きく、帝国は大損害を受けた。




 しかし、損害は、それだけではない。




 王国ーーーーシオンの父である国王は、ジョスリンの婚約者であるカベリオン公国宛に先手を打っていた。つまり、ジョスリンの振る舞いについて、婚約者である公子はご存知かと、知らせていたのだ。

 帝王の元には、すぐに公子からの婚約破棄と賠償を求める文書が届いた。当然の要求であり、帝王はそれを受け入れ、要求された以上の慰謝料を付けて、謝罪の気持ちを表した。小国とは言え、公国はほとんど全ての国と良い関係を築いている、卓越した交渉力を持つ希少な国であり、印象を損なうことは出来ない。

 だからこそ、愛する娘の嫁入り先に選んだのだから。







 ジョスリンは優良な婚約者を失ったことにも気付かず、まだ駄々を捏ねていた。そこで帝王はやむなく、とある人物へ嫁に出すことにした。


 蛮族の長である。


 帝国の西の端には、未だ帝国に下ろうとしない蛮族が住んでいた。そこへジョスリンを降嫁する代わりに、支配下に入るよう交渉したのだ。

 交渉は成立し、嫌がるジョスリンを縄で縛り付け、帝王は泣く泣く出荷したのだった。


「なんでこんな……野蛮な奴に、嫁がなきゃいけないなんて」

 蛮族は、常に上半身裸で腰には布を巻きつけているだけ。特別な染料で絵を身体に描くことで、服の代替としている。

 それは女もまた、然り。ジョスリンは上半身を晒し、ペイントをした。いくらそれが、女の中で最も地位の高い者にしか許されない模様だとしても、ジョスリンにとっては屈辱。ドレスや宝飾品の、存在すらないなんて。


 初夜も、同様。長との行為はグロリアス(とまだ思っている)とは大きく違い、3、4回腰を振って終わる。そうして天幕を持ち上げると、臣下の男たちが行列になって待っており、一回ずつジョスリンに恭しく種付していくのだ。

 つまり、この蛮族らの認識では、誰が遺伝子上の親なのかどうかなど関係がなく、ジョスリンがこの蛮族の子供を授かることだけが重要であった。

 一回一回の行為は異常に早く、まるで水汲みに並ぶような気軽さ。すでに女の喜びを知っているジョスリンは、まるで違う行為の雑さに、欲求不満を抱えるようになる。




(なんて屈辱なの。わたくしは、こんなところで、こんな軽々しく扱われるような、女じゃないのに!帝国の姫なのにっ!もっと尽くしなさいよ!)




 そう思うも、蛮族は独自の言語を使っているので、意思疎通も敵わない。そしてジョスリンに、学ぶ気もない。

 夫とは違う、若くて調教しやすい男に狙いを定め、自分に奉仕させることにしたが、やたらおどおどしている。言葉が通じないこともあり、ジョスリンの求める基準には達しない。


(こんなことなら……まだ、カベリオンの公子の方が、マシだったかもしれないわ。公子はわたくしのことが好きだったし、弱小国家のあそこなら、わたくしは帝国の皇女として、うまくやれたのに)




 そんな後悔をした所で、今更のこと。




 胸と尻の大きい女性は、教会のない蛮族にとって『繁栄の印』として大事に扱われた。

 ジョスリンの『膨張』のスキルは牛や豚などの家畜に使われることで、霜降りの高級肉となり、それなりに丁重にもてなされることとなったが、ジョスリンはいつまでも引きこもり、蛮族の女たちと交流をすることも拒絶した。


 蛮族の長は、最初の数年こそジョスリンの心を開くために色々ーーーーとっておきの高級食肉虫の幼虫や、小さな蝿程度なら食べてくれる美しい色の多肉植物などを贈ったりーーーーしたが、あまりにも頑ななジョスリンに諦めを抱き、他の女性を愛するようになる。


 ジョスリンに情夫がいたことも知られたが、長はもう気にしなかった。


 ジョスリンは蛮族の子を三年ごとに五人産み、15年もの間母乳を出し続け、蛮族の子に与えることとなった。民族の乳母として活躍し、役目を終えると、静かに暮らせるよう配慮された。

 ただし情夫は他の女性と婚姻し、ジョスリンの元へは通わなくなった。

 もう美しさも、ハリのある体も無い。その現実から逃げるように、いつまでもグロリアスや、グロリアスの美しい竜の鱗、それから嫁ぎ損ねた公子を思い浮かべては悲嘆に暮れるのに忙しい。





 悲劇のヒロインに成り切ったまま、目を覚ますことはなかった。






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