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本編
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しおりを挟むジョスリン殿下が帰国して数日後。
突然、弟が婚約者を決めたと連絡を寄越してきた。
僕が王子の婚約者だった頃は、下手に婚約者を決められなかったディオン。
何故なら、優秀な婚約者であれば妨害されるし、そうでない婚約者は侯爵家というブランドしか目に入っておらず、不利益をもたらす可能性が高かったから。
ジョスリン殿下はその点、婚約者としてはバッチリのお家柄だったが、性格に難があると分かったものね。
だから、ディオンの婚約者選びはしばらく難航するかな、と思っていたのだ。
「でぃ、ディオン!どうしたの!?急に!」
「あ、兄さん。グロリアスさんも、どうぞかけてください」
「ああ、……おめでとう。で、いいのか?」
「……ありがとう……ございます」
グロリアスはバッチーン!とディオンの背中を叩き、ディオンは笑ったまま睨みつけるという器用なことをしていた。二人とも、仲が良いみたい。
「で、結局誰にしたんだい?ディオン」
「パレモア伯爵家の次男坊に、『癒し』のスキルを持つ子がいまして。5つ年下の、まだ12歳なのですが、会ったところ向こうにも気に入ってくれたようで。気立の良い素敵な子で、是非にとこちらから打診しました」
「そうなんだ!そっかぁ~!うわぁ、おめでとう!おめでとう!ディオン!良かったね~!」
どんな子なんだろう、すごく気になる!
肖像画を見せてもらうと、ふんわりしてとても優しそうな雰囲気だった。こういう子程、領地から出てこないから希少かもしれない。良くも悪くも、人の多い王都にいるのは精神的にもタフな子が多いから。僕も、昔は気を張っていた。今はそれほどじゃないけど。
「……それで、その……兄さん。こないだは、ごめんね。オレ、どうかしちゃっていて……」
「ううん!ううん!いいんだよ、薬が悪いんだし、ディオンはその後の後片付けもちゃんと出来て偉かったよ。僕は全然気にしてないからね」
「……そ、そっかぁ……ヨカッタ……」
ディオンは何故か肩を落としたが、うん?
僕がそう言っても気にしてしまうのが、可愛い弟だ。ディオンの頭をぎゅっと抱き抱えると、幼児にするようにぽんぽんとした。
「……これからは、この役割はその子に譲ることになるんだね。少し寂しいけど……幸せに、なるんだよ。そして婚約者くんも、幸せにしてあげて」
「うっ……うん。兄さん。ありがとう……」
僕が感極まって涙声になってしまうと、ディオンも胸を抑えて、強く僕を抱きしめた。多分、これが最後の抱擁になるかも。
グロリアスの隣へと戻ると、とんでもなく遠い目をしていた。
ディオンの内心――――
(めちゃくちゃ罪悪感感じるんだけど……というか兄さん、少しくらい気にしてくれたって……いや、いいや。分かっていたけど、完全に脈なしってことだ)
グロリアスの内心――――
(シオン、ディオンくんの気持ちに一切気付かず祝福を告げるなんて、天然で残酷だなぁ……同情はするが、情けは不要。これで、シオンを悲しませることは無くなるなら、ディオンくんが媚薬に妙に弱すぎたという点には目を瞑ってやるか……)
そんな二人の思考なんて、僕は知らずに、まだ見ぬ義弟を思い浮かべてはニコニコとしていたのだった。
屋敷へ帰り、僕の外套を丁寧に仕舞うブロディへ声をかける。
「そう言えば、ブロディは?」
「えっ……、わ、私ですか!?」
僕が聞くと、ブロディはギョッとして目を剥いていた。
「そうそう。ブロディは良い人、いないの?」
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