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本編
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しおりを挟む「あ……、良い人ではないですが、訳あって、婚約することになりそうです。正式には、まだですが」
「わ!やっぱり、アルフレッドさん?」
それは大当たりだったらしい。ブロディの藍色のかっこいい猫耳がピクリと動いた。でも顔は顰めっ面をしている。
「そうですけど……、偽装婚約に近いです。我々の利害が一致しただけであって」
「ふうん?」
「アルフレッドは、幼馴染に『30歳になるまでお互い独身だったら結婚しよう』と約束していたらしいんです。それで、もう彼29歳なので、ケリー様に追いかけ回されているらしく……」
「迂闊な約束したね……」
「当時、5歳だか6歳だか、幼かったらしいです。それを覚えているケリー様の執念を感じます」
確かに……。アルフレッドは近衛騎士で、実力もあるし容姿も端麗。少し根が真面目すぎるきらいはあるけど、それも騎士として適性があるとも言える。
「シオン様について夜明けまで話せる相手なんで、偽装結婚してもいいか、と。互いに結婚願望は無いですし、ちょうど良いので」
「そう?……僕は、本当の夫婦になれると思うけどな」
そう言うと、またブロディは嫌そうな顔をした。
ふふ、今は喧嘩の多い二人だけど、いつかきっと本当の夫婦になると思う。
けれどブロディは素直に認めないだろうから、言わない。僕狂いのブロディにも良い伴侶が出来そうで、ほっこりとした。
「なぁ。シオン……少し、旅行しないか?」
「旅行?」
就寝前。まったりと本を読んでいると、隣で僕の尻尾と遊んでいたグロリアスが言う。
「そう。俺たちは転移を使えるし、何があっても早々死にはしない。だからふらりと旅に出て、美しいものや珍しいものを見てみるのもどうかな、と思うのだけど」
「うわぁ、それ、すごくいいね。港町はまだ行ったことがないし、一回行きさえすれば転移を使えるから弟にもお魚を食べさせてあげられるし……」
「それだよ、シオン」
「へ?」
はしゃいでいた僕を、グロリアスが止める。
「もう少し、弟を大人として認めてあげたらどうかな。彼だって立派な17歳。もう手を離してもいい頃だ。あえて君には頼れない状況を作った方が、本人のためにもなるんじゃないかと思って」
「え、あ……」
うわ。そうなのか。考えても見なかった!
でも、よく思い返せば可愛い弟が僕を頼ってくるのが嬉しくて、今だけだと言いながら引っ付きすぎたのかもしれない。……グロリアスの言葉に、思い当たる節があった。
先日媚薬を飲んでしまった弟は、完全に男として成熟していた。僕が、可愛い可愛いと言っていた弟の、成長を間近に感じたのだ。
だから……そう。弟には婚約者も決まったのだし、少しずつ、離れないと。二人の仲を、下手におせっかいをする義理の兄なんて、厄介すぎるよね。うんうん。その通りだ。
「そうする……あ、でもブロディが、そろそろ婚約するって。アルフレッドに会えなくなってしまうのは可哀想かも」
「それなら、婚約休暇やらなんやら理由を付けて休ませればいい。奴は気がついたら24時間働いてしまう」
「そうだね。でも、少し寂しいから……グロリアスは、ずっと僕の側にいてね」
「勿論だ。伴侶には頼っていいと、法律で明文化しておくべきだった?」
「ふふ。違うよ、グロリアス。僕は伴侶だから、じゃなくて、グロリアスだから、頼りたいし甘えたくなるんだから」
「……可愛いことを。旅の準備は、明日からでいいよね」
グロリアスは僕を担ぎ上げると、そのまま寝台へ連れていく。いつも何でだか、不思議なタイミングでスイッチの入ってしまうグロリアスだが、……悪い気はしない。
こうやって僕は、グロリアスに甘やかされ、溶かされ、それでもいいと肯定されて、幸せの涙を溢す。
いつまでもずっと、グロリアスと共にあれますように。
ひかひかと輝く満点の星空に、想いを浮かべた。
End
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