【完結】疲れ果てた水の巫子、隣国王子のエモノになる

カシナシ

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本編

11 プリシラ・シュガーパック

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プリシラ・シュガーパックは吊り上がりそうになる口元を抑えきれなかった。



今の自分には、野暮ったい一重や低い鼻など存在しない。
ぱっちりとした宝石のように美しい大きな瞳に、すっと通った鼻筋、ぷるんと柔らかそうな唇。

手入れなどしなくてもツヤツヤふわふわのピンクの髪。

顔も小さくて手足は長くて、まるで小さい頃に憧れた人形のよう。



プリシラには前世の記憶がある。よくプレイしていた乙女ゲームによく似た世界に転生した、と気付いたのはおよそ一年半前。

数多くの乙女ゲームをプレイしてきたが、そのどれとも違う世界だ。なぜなら、王子と婚約しているのが男なんていう乙女ゲームは、知らない。


それから、ゲームの中の王子の婚約者は、例外なく悪役令嬢だったが、シュリエルはぼうっとして何もしてこない。

それでも王子やその側近の顔面の良さ、プリシラの完璧な容姿、覚醒して水の巫子の上をいく聖女となり、貴族に引き取られるというありふれた要素は、何らかの乙女ゲームに違いないと確信していた。


(なんで乙女ゲームにBL要素があるのよ、意味分かんない。全然要らないんですけど?悪役『令嬢』でしょう?普通。)


大人しすぎるシュリエルが敵役では話が進まないと思ったプリシラは、積極的に関わっていくことにしたが……張り合いの無いくらいあっさりと攻略していける。

なんてイージーモード?ゲームだったらつまらな過ぎて売れないだろう。少なくとも、乙女ゲーム上級者のプリシラならば絶対に選ばない。






その記憶を思い出すまでは地味な色だったが、生まれ変わったプリシラは注目の的だった。なんせ、プリシラ自身の描く理想の容姿そのものだ。

近所の男の子たちからは我先にと告白されて、スタンプラリーでも出来そうなくらいだった。


男の子達は、簡単だった。
ただ、この顔でにっこり微笑めばいい。

それだけで、面白いくらい鼻息を荒くして、目にありありと欲望を浮かばせる。当然、顔と身体と身分がよくなければ相手などしない。



平民だった時は生活が苦しく働かなければならなかったが、令嬢になってからは違う。

生活が苦しいなんてことはない。むしろ、どんどん新しいもの、流行りのもの、高いものが欲しくなった。
この顔、身体の魅力を存分に引き出さないと勿体無い。

男爵からのお小遣いは微々たるものだが、学園の令息に買って貰えばいい。


プリシラにとって、自分の美貌も体も武器だ。
使えるものは使って何が悪いのか、プリシラには全く分からない。


引っ掛けて、落とすのは楽しい。

前世では懸命に努力してダイエットし、詐欺レベルのメイクを施し女子力を駆使して、ようやっと恋人を得ていたプリシラは、恋愛に夢中になった。

男爵に引き取られ、家族から引き離されても、全くもって問題ない。それどころか、足手纏いがいなくなって済々したくらいだ。

なぜならば、いつかは家族から自立して結婚するから。早いか遅いかの違いしかない。

そしてその相手は良い男であればあるほど良く、トントンと階段を登るようにして、より良い男に乗り換えていく。


勉強など、なんの役に立つ?


貴族令嬢が一番大事なのは、容姿。姿形。それからほんの少しの、かわいく見せる努力であって、まじゅつ?れきし?そんなものは必要ない。


知らなくとも、隣の男の子が丁寧に教えてくれて、そのついでに惚れられれば貢いでもくれる。


ほら、一ミリだって問題が無い。


『聖女』の力は、願えば叶う。ドレスやケーキが降ってくることは無いが、治癒だって浄化だって、何にも学ばずとも感覚で出来た。

あえて一年、王子と入学をズラしたのは、この力の検証に時間をかけたため。
男爵に引き取られた時点では、突然美少女になったということしか分からなかったが、その後王家から使者が来て色々試してみると、癒しの力が使えて歓喜した。

使えるものは使わなくては、プリシラの美学に反する。


だからマナーなど覚えていない、必要がないから。

舞台は貴族の多くいる学園。ここでは、むしろ作法など覚えずに明るく振る舞った方が頭一つ出ることができるだろう、という打算もあった。





プリシラの最推しは、ディルクだった。みな美形ではあるけれど、レベルが違う。

次元を越えるほど可愛いプリシラの隣に並んでも、霞むどころかピタリとハマったように似合う。


ただ一人。ディルクの婚約者を名乗るシュリエル・エバンスは邪魔でしかなかった。
初めて見た時、その美貌に思わず鳥肌が立った。それは、そんなものは……狡い。


何にもしなくてもプリシラに惚れるのは仕方のない事だが、気に入らないシュリエルがいたからこそ、ディルクは積極的に、念入りに、ボロが出ないよう慎重に狙った。

そうしたら、少し時間はかかったけれど、やはりプリシラのものになるのは必然だった。


結婚相手としても最適なのはディルクだ。話は堅苦しくて面白くないけれど、箱入りだし仕方ない。それより立場が美味しすぎる。

シリウスは体力があるし、アレも大きくお気に入り。その他の皆もカッコよく、どれが良いなど甲乙つけ難い。たまには味変もしたいし、纏めて手に入れたいところ。

その夢に、シュリエルの存在は、邪魔でしかなかった。












シュリエルにわざとぶつかった。結構勢いをつけたから本気で痛くて、演技をするのは簡単だった。
相手からぶつかられたように振る舞えば、ディルクは簡単に信じた。

愛する者の言葉だ。当然といえば当然だが、一応は婚約者のシュリエルの前で、というのが笑えた。


そうだ。水の巫子は結界を使えるのが気に入らない。プリシラには、結界は使えなかったから。
常に結界を張っているのかどうか、プリシラは知らない。知らないが、先ほど衝突した時にも張っていたから、きっと使っているに違いない。

だから、閃いた。

『シュリエルは痛みを知らない』と吹き込めば……、面白いくらいアッサリと、シュリエルに制裁を加えていた。


もう、あと少しで笑いを堪えきれなくなってしまいそうだった。いけない、『可哀想なプリシラ』が台無しになってしまう。

だって、プリシラはそこまでしろとは言っていない。精々パチンと叩くくらいかな、と思ったら、結構容赦なく殴られていた。

細くとも男だし、治癒の力もあるからすぐに治るだろうが、ディルクに突き放された時の顔は傑作だった。
もしスマホがあれば、保存して何度も再生したいくらいに面白かった。

シュリエルがこちらに近付く度に、ディルクに抱きついて『怖い……!』ってうるうる上目遣いをしたら、それだけでディルクは正義感を漲らせた。


シュリエルは下手で間抜けな悪役。特に何もしていないが、

プリシラが不愉快になったという点で、十分な罪だ。
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