【完結】疲れ果てた水の巫子、隣国王子のエモノになる

カシナシ

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本編

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数々の落ち込む出来事が重なり、僕は痩せていった。元々人並みには食べていたのに、最近は果物をすこし、パンをぽそぽそとひと齧りしただけで具合が悪くなってしまう。

そんな気迫のない僕だからか、プリシラ嬢は駆け寄っては、ぴょこんと頭を下げてくる。


「ごめんなさい、シュリエル様!プリシラ、そんなつもりはなくって……」

「いえ、気にしておりませんので」

「でもっ!許して頂かないと、プリシラ、教会に睨まれちゃうって聞いて……とっても怖くって……」


『また虐めてる』

『プリシラ様の人気が高いからと、見苦しい』


こうしている間にも、悪意のある小声を聞かされている。

プリシラ嬢は怯えるようにしながらも、僕の元に訪れてはわざわざ謝ってくるのだ。場所は必ず、人の多く見ているところで、内容は多岐に渡る。


『人々をたくさん癒してごめんなさい』

『シュリエル様のお客さんを奪ってしまってごめんなさい』

『ディル様と仲良くしてごめんなさい』


眉根を下げてはいるものの、プリシラ嬢の瞳はそうではないことを雄弁に語っていた。

僕は、はっきり言って、困惑していた。
プリシラ嬢の言葉選びや申し訳なさそうな演技はとても巧みで、僕のことを悪く言っていないように見せかけて、僕を悪者にする。

もっと直接的に言ってくれればいいのに。
許すと言っているのに追いかけてくるし、では許さないと言えば、それこそ周囲が許さないだろう。

こんな時、僕ではどう対処すればいいのか分からない。これまでの人間関係の浅さが仇となって、僕を苦しめていた。












そんな中でも、重大な催しが容赦なく近づいていた。とてもではないが休める状態ではない。


僕は一人、隣国の王族を歓待する夜会の手配に奔走していた。


ラウラディアはここルルーガレスより何倍も大きく、豊かな土地を持つ大国。

そこの第二王子はディルク殿下や僕と同年代で、つまり、17歳にも関わらず、もう外交を任されているらしい。


そんな大物を招くとあって、僕は緊張しきりだ。
国内だけの催しならまだしも、僕にとって初めての、他国の貴族を招く夜会を準備するのだから。


これは本来ディルク殿下の仕事なのだが、彼の婚約者として立派に支える姿勢を示せるいい機会と思って、気合を入れて前々から動いていた。
その上、最近に至ってはほぼ全て丸投げされていて、実質的な責任者。


朝の豊穣の水やりに加え、放課後もウォルに乗って城へ行って進捗を確認し、指示を出し、担当者からの質問に答えて、また寮に戻ってからは学習や執務に明け暮れる。


もう、僕はディルク殿下と直接話すことすら出来なくなっていた。
どんなにディルク殿下と話したくとも、その側には常にプリシラ嬢と、牙を剥いた番犬のようなシリウス様がいる。

連絡事項はシリウス様を通じるのみ。


シリウス様に近づくだけで、胃がキリキリと痛むようになった。まったく躊躇なく無抵抗の人間を殴れる人間は、怖い。

向かわなくてはいけないと考えるだけで、過呼吸も頻繁に引き起こす。
それを、スイちゃんたちに宥められ、撫でられ、冷や汗で背中をびっしょり濡らしながら執務の報告などをするのだけど。

その度に、『遅い』やら『またプリシラを泣かせて』などと言いがかりをつけられては殴られる。

結界を張って自衛をしようとすると、『罰はちゃんと受けろ。痛みを知れとのディルク殿下の命令だ』と言われ、解かなくてはいけない。

目に見える所ではないのは、救いなのか、何なのか。

来ると分かっているのに結界を張れない。
下手な魔物と対峙する時よりもよほど高いストレスに晒されていた。



このことは枢機卿に報告出来なかった。

もし言えば、シリウス様だけでなく、命令をしたディルク殿下も即刻、破門になるだろう。当然、破門者と水の巫子である僕の婚約なんて論外だから、解消、もしくは向こうの有責で破棄なんてことになる。

ディルク殿下との婚約が無くなる。……たった一つ残った、僕とディルク殿下の繋がりが。


それが辛い、という個人的な気持ちももちろんあるけれど、それとは別の問題もあって、最悪、教会と王家の全面対立が勃発し、水の巫子も神官も引き上げさせたり、関係のない人々を巻き込んでしまう恐れすらある。


それは、いけない。僕が、なんとか上手くやって、被害を最小限に収めなければいけなかった。


でも、どうやって?


殿下に近づけない一方、プリシラ嬢とディルク殿下は加速度的にどんどん距離が縮まっていく。

このままではいけないと分かっているのに、あの冷たいディルク殿下の視線や、シリウス様の暴挙を思い出しただけで足が竦み、何の策も打てなかった。


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