【完結】疲れ果てた水の巫子、隣国王子のエモノになる

カシナシ

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本編

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クライヴ殿下とジタリヤ様は暇を持て余したのか、旅の間じゅうずっと僕の事を知りたがり、僕もまた二人のことを沢山教えてもらった。

例えば、こうして外の空気を吸うのが好きなこと。


「ふう……」

「やはり、外はいいな。しかしこうも暇だとかなわん」

「暇、ですか?来られた時は違いましたか?」


僕はウォルに跨り、クライヴ殿下とジタリヤ様は騎士さんから軍馬を奪い取って、外の空気を楽しんでいた。

ずっと馬車の中だと辛い。適度な運動は大事だ。


「ここ周辺は森しかないから人より魔物の方が多かった筈だ。一度も襲撃が無いなどあり得ない。見てみろ、騎士たちもつまらなさそうにしているだろう?」


クライヴ殿下が顎で示した騎士さんは、慌てたように顔をキリッとさせていた。

確かに、少しくらいの刺激があった方が飽きないのかもしれない。


「申し訳ありません、クライヴ殿下。僕が普通にしていると魔物、寄ってこなくなってしまうんです……」

「……?水の巫子とは、そんな力があったか?」

「いえ……普通の神官では、起こらないのですが……でも、僕が気配を消したら、また出てくると思います。今、やりますか?」

「それはまた特殊だな。少し待て。騎士達に通達してからだ」


クライヴ殿下は進行を止めさせ、これから魔物が来るので警戒の体勢を取るように騎士さん達へ通達する。
そのノリはまるで、ちょっとしたショーでも待っているような軽さだ。

でも、確かに、この人たちの強さがあれば問題ないのだろうな。声をかけられた彼らの、士気と殺意がピリピリと高まっていくのがわかる。


「良いぞ、シュリエル。準備は出来た」

「畏まりました。尚、僕、気配を殺している最中は言葉を発せられないので、勝手に支援したり動きますが宜しくお願いします」

「何だって?」


僕は集中力を高め、フッ、と気配を消した。と言っても姿形が消える訳ではない。身体から僅かに漏れている魔力を完璧に遮断したのだ。

その途端。

僕らを避けていた魔物たちがぽつ、ぽつと現れ出す。一匹、二匹、五匹、二十匹。
ゴブリンから、ファングボア。オークに、オークソルジャー。
次第に、強くなってゆく。

僕の魔力は殺意の高い魔物にとって近寄りたく無いものだそうだから、それが無くなって様子を見に来たのだろう。


「シュリエルの言った通りだな。全員、配置を守りつつ、かかれ!」


騎士さん達は躍り出すように魔物へ襲いかかっていく。屈強な体躯が生き生きとして、笑顔すら浮かべながら暴れている。どちらが魔物なのかわかったものではない。


隣ではクライヴ殿下もうずうずとしていた。僕は殿下のお背中にそっと触れ、第八階位の――上級魔物から致命傷を受けたとしても無傷でいられる――結界をかける。
クライヴ殿下を、淡く発光した膜が包み、すぐに定着して見えなくなる。


『行ってください』と唇の動きだけで伝えると、クライヴ殿下は頬を赤くして、力強く頷いた。
くるりと踵を返し、騎士さん達に混じって行く。


「はぁ……すごい。さすがです、シュリエル様。ボクも痺れそうになりました。たまらんでしょうね……」

『?』

「ボクはここでシュリエル様に流れ弾が行かないように見張ります。不要と言われようが見張りますよ」


ジタリヤ様は小楯と槍を持ち、危なげなく僕の周囲を警戒していた。確かに僕の周りにも――ジタリヤ様も含めて簡易結界を張ったので、そうそう崩される事はないと思うけど、気にかけてもらえるのは嬉しい。

ぺこりと頭を下げると、ジタリヤ様はほんわかしたような顔をしていた。


結界を維持するのはなんてことないのだが、やはりじわじわと魔力は減り続けるため、こういった魔物討伐や、何か危険を察知した時だけ張るようにしている。

いつかプリシラ嬢が言ったように、『いつも張っている』なんてことはありえない。魔力と集中力が保たないもの。
特に治癒を施す時なんかは、自分自身は無防備になる。結界と同時並行で治癒を、なんてことは到底出来ない芸当だ。




それにしても、クライヴ殿下は凄い。全く、姿を追えない。

パッと現れたと思えばオークの身体が上下に泣き別れているし、消えたなら全く別の場所でオークソルジャーの頭部を切り落としている。
闇属性の影移動、だろうか。それとご本人の身体能力と剣技、天性の戦闘センス。

弱そうな僕に向かって走り寄る魔物を切り捨ててはニィと笑うのが、こう、悪い感じで、どきどきしてしまう。


ジタリヤ様も、時折飛んでくる小石やら切り飛ばされた何かの肉片を、飄々ひょうひょうと叩き落としている。ただの一つも撃ち漏らしなく、素晴らしく的確に捌いている。何で騎士ではないのだろう?


僕の結界に当たっても僕自身なんにも影響はないのだが、確かに顔あたりにべちゃっと付くのは嫌だから、助かる。





あ。

僕は遠くからこっそり狙ってくる魔物に気付いた。ウォルに乗って空間収納鞄からショートボウを取り出し、矢をつがえる。ジタリヤ様がハッと息を呑んだ。


キンッ――!

その音が耳に届いた時には、もうオークメイジの頭は身体から離れていた。
僕の矢が突き刺さった所から、断裂されたのだ。


「なんっ?一体……?」


僕はそのまま、カッ、カッ、と何発か放つ。その全てが、遠くから狙おうとしていたオークメイジを狩っていった。

あとはクライヴ殿下や騎士さんたちで処理できそうだ、と判断してウォルから降りると、ジタリヤ様が困惑した顔で目をぱちくりさせていた。
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