【完結】疲れ果てた水の巫子、隣国王子のエモノになる

カシナシ

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本編

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僕の隣には常にクライヴ様が張り付く様になり、フォンタナ公爵令嬢はそれを見ては傷ついたように目を逸らす。

僕はその横顔を見るたびに、ディルク殿下を思い出してしまっていた。

プリシラ嬢と仲良くするディルク殿下。
僕ではない人に、柔らかく甘やかな顔を向けるディルク殿下。
最後の方には蔑むような視線しかくれなかった、ディルク殿下。

とっくに諦めは付いていると、自分では思っていた。いや、今もそう思っている。

けれど疼く胸の痛みは、一体、何?






……それは多分、雨の日にだけ古傷が疼き、その存在を思い出させるようなもの。






思い出してしまうと、クライヴ様からも距離を取りたくなってしまった。
まるで、そうすることで過去の自分を慰めるように。


よそよそしくなった僕を訝しむクライヴ様は、ほんの少し目を伏せ、それを見ても胸が痛む。

それならば避けなければいい。彼の方の顔を曇らせないよう普段通りに振る舞えば良いのに、何故か大事にされるほどに辛いのだ。


フォンタナ公爵令嬢も、クライヴ様も悪い訳ではない。
分かっているのに、距離を詰めようとするクライヴ様を受け付けることができなかった。







どうすればいいのか分からなくて、油断していたのだ。


「そーいえば。シュリエル様、あの本読めました?」

「!」


あの本。どの本?あれか……!
思い当たった僕は、思わず顔を赤くさせてしまった。

ジタリヤ様はニヤニヤしながら、僕の赤くなった顔を眺めている。そよそよとしたうららかな陽気で、クライヴ様もおらず、すっかり油断してしまっていた。
サッと流せばよかったのに!


「ええと、ジタリヤ様に貸していただいた本、ですよね……、はい、とても……勉強になりました」

「ん?勉強……?」

「あまり使わない言葉が出てきて……えっ、と、辞書で調べながらなので、読むのが遅くなってしまい……」

「ああー!なるほどなるほど!ははーん、へぇ……」


しどろもどろの僕を見て、ジタリヤ様はパチパチパチ……、ピコン!と思い当たったように手を打つ。


「シュリエル様、閨教育、受けていらっしゃらない?」


ピキッ。
身体を硬くする。

閨教育を受けていない。それはすなわち、ルルーガレスでは、精通していないことの暗喩。ラウラディアでは違うかもしれないけど、同じかもしれない。

恋愛物語を読んでしまった僕にとって、それはとても恥ずかしい、人に知られるべきでない事柄であった。

ジタリヤ様の察しの良さが、今は恨めしい。
気付いてしまってもいいのだが、口に出してしまうのは、あまりにデリカシーが無い。

彼はクライヴ様の側近として、今後ずっと国内を巡る。だからこそ結婚をする気がないと分かっているのに、率直すぎる言い方のせいなんじゃないかと邪推してしまうくらいに、遠慮がない。


「……婚約を解消したからです。それに、今は留学中で……私のせいでは、」

「シュリエル様って、距離を取ろうとする時に『私』って言いますよね。分かりやすくて、すごく可愛い~っ!」

「ひぇ……」


こうなれば逃亡しかない。居心地の良い木陰から立ち上がり、駆けた。
幸いなことに、ジタリヤ様はにやにや笑うだけで追いかけては来なかった。








自室に立て篭もり、第十階位結界を張る。音も何も入らないし漏らさない、すぐ側に爆撃されても安眠出来るレベルの強固な結界だ。


恥ずかしい。ぎゅむとハクを抱きしめて丸くなる。


ジタリヤ様に知られてしまうということは、クライヴ様にも共有されるということ。それはとてつもなく、泣きたくなるくらい恥ずかしいことだ。

まだ子供だと思われるだろうか。未だ毛も生えていないし、僕の雄は淡い桃色。

物語に出てくるモノは赤黒いらしいし、陰毛など、なんとみっちりと芝生の様に生い茂るらしい。
到底、そんな風になれる気がしなかった。





少し落ち着けば、何故、そんなに恥ずかしいのか分からなくなる。だって、日常生活で、彼の目の前で服を脱ぐことなどないのだから。脱がなければ分からない筈だ。

経験がないことが恥ずかしい?それは少し、違う気がした。経験があるからといって誇れるものでもないのだから。


「うーん……?」


このもやもやする気持ちは一体何だろう?
どうしてクライヴ様に関しては過剰に気にしてしまう?あの方は、僕の身体を仮に見たとして、変だとか、笑ったりするようなことはしない。そんなことは分かっている。


けれど、……そう。


今の僕が分かるのは、クライヴ様が大事にしてくれているように、大事にしたい。なのに、大事に出来なくて、傷付けてしまう自分に嫌悪している。

はっと、思いついた。

クライヴ様に謝罪しよう。そして、どうか、僕の気持ちをそのまま丸ごと聞いてもらえないだろうか。

彼はとても優しくて、頼りになるお人。僕が子供のように訳のわからないことを言っても、笑ったりすることは、きっと、無い。

それよりも、これ以上避けて、あの方を傷付けたくないから。





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