【完結】疲れ果てた水の巫子、隣国王子のエモノになる

カシナシ

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本編

27 ディルク・アスタナ・ルルーガレス

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――――――――ディルク 視点


おおよそ自分の人生に登場しないと思われるタイプの人間がいれば、ちょっとした興味を惹かれるのは仕方のないことだと思わないか?




親に用意された婚約者に否やはない。美しさも知性も持ち合わせたシュリエルは、私の隣に相応しい。

精霊とリュミクス神様に愛されたシュリエルは、人外じみた美貌を持つが、中身は穏やかで物静かな少年だ。年々青年へと成長しつつあるシュリエルは、そこはかとない色気すら纏うようになった。

彼は潔癖で、少し世俗に疎い。

この国では、水の巫子候補生は皆厳しい修行に耐え抜き、その力を損得勘定抜きに振舞ってくれる神の使いと同等。もはや信仰の対象ですらある。


尊敬と感謝の思いを抱かせ、その上息も止まるほどの美貌を備えたシュリエルに、生徒達は困惑し、近寄れなかった。あの清廉とした雰囲気の彼の前で、下衆な話しなど出来ようもない。

彼はそれを知っているのか知らないのか、ただ一人、水面に佇む水の精霊のように過ごしているようだった。

それは私にとって安心材料だった。彼を口説くような者はいないし、彼は他の男など知らないまま、私だけを一心に慕って、並々ならぬ努力をしてくれる。


だからこそプリシラと出会った時、容姿の良さに驚きはしたもののほんの一瞬で、毛色の変わった猫が来たな、としか思っていなかった。


陛下には『聖女の力が水の巫子の代替になると分かるまでは、どちらも手放してはならない』と指示されていた。
そんな無茶苦茶な、とは思ったものの、要は両方に優しくしておけばいい。簡単なことだ。


私としてはシュリエルと結婚したいが、陛下は教会とは関係のない、それでいて水の巫子のような働きが出来る聖女というのは貴重すぎる存在という。













貴族として育てられたならば、不用意に身体を触らせるなんて、はしたないことは絶対にしない。自分の価値を低く見せる行為だから。

だから、プリシラが腕に飛びついてくるのは、子猫がじゃれつくようなもの。妹がいるならこんな感じだろうか。男のシュリエルよりも、当然ながら小柄で華奢だし、振り払ってしまうと怪我をしてしまうかもしれない。

その身を案じて好きにさせていると、その身体の柔らかさに気付き、ドキドキしてしまうようになった。


何だか良い匂いもするし、頭がホワッとするような良い気分になる。何回か経験してしまうと、プリシラが離れていくのに寂しさを覚えた。

こんな感覚は、シュリエルには抱かなかったものだ。なるほど、これが、恋か。


シュリエルと結婚することは、もう何年も前から決まっていること。しかし、恋はしてみたいと思っていた。

結婚してしまえば出来ないこと。今の、この学生時代だけでいい。プリシラと恋がしたい。
それは、陛下の命令には背いていない、はずだ。


自分から手を握ったり、髪にキスしてみたり。シュリエルにもしない気障な真似を、プリシラには遠慮なくし始めた。そうすると、プリシラは恥ずかしそうに笑う。
とても、可愛い。


この時、こんな私の姿を見たシュリエルがどう思うかなんて、想像すらしていなかった。
これはほんの戯れ。彼は、私だけを慕っているし、結婚をするのは彼なのだから、と。












少し経つと、シュリエルが鬱陶しく感じるようになった。


『手伝いを』と言うシュリエルは、私の仕事を完璧に、いや、期待以上の成果すら出して見せた。

最初は私とて遠慮したものだ。未だ婚約者という身分なのに、王子の政務を任せてしまっていいものか。……一方で、面白くない気もしていた。いつか、シュリエルの方が頼りにされてしまうのではないか。


しかしプリシラといるうちに、それはとても良いことのように感じてきた。彼が自ら私の力になりたがっているのだから、どんどん与えてやれば良い。

臣下を上手く使うのも王の務め。

勉学だって、私は十分こなしてきた。貴重な学生という青春を謳歌する。勉学なら後でいくらでも挽回できるが、若い時間はそうもいかない。
今は、プリシラを愛でる大事な時間だ。


彼女の側は居心地が良い。他の令息も砂糖に群がる蟻のようにわらわらとプリシラに集まってきたが、一番はこの私に決まっている。

この美しくて癒しを与えてくれる彼女は、私のもの。














水の巫子であるシュリエルは清廉潔白だと信じていたのに、プリシラを執拗に虐めていると知り、心の底から失望した。

少々頭に血が登っていたかもしれないが、私はシリウスに命じ、人の痛みを知れるよう躾をすることにした。

彼は常に結界を張っているからいけない。それでは、痛みというものを知れる訳がない。
プリシラの言う通りである。


シリウスがシュリエルに躾をしている姿を見れば、気分がスッとする。そうそう、水の巫子たるもの、痛みを知らなくては。私は彼に、より良い水の巫子になってほしいのだ。

あの澄まし顔が苦痛に歪むのは、これまで見たことがなかったからか、私の気分を高揚させたと同時に、胸の奥の方で、ズキリと痛むような気もした。


その胸の痛みは、プリシラと話せばあっという間に霧散する。

シュリエルとは同じ空気も吸いたくなくなった。少し話すだけで、プリシラといる時に感じる高揚感が目減りするのだ。

プリシラにどんどんのめり込んでいく。
その柔らかい身体をあばいても暴いても、欲しいと願う欲求は尽きることはないどころか、余計に欲するようになった。











シュリエルの姿を見かけなくなってしばらくして、隣国の王子が来る日となった。

その王子はシュリエルを案内役にしていた。いい気味だ、侍女のような扱いを受けるだなんて。

王子を歓待する夜会にも、プリシラが出たいと言うので連れて行った。聖女の色と、私の色を全身に纏った愛らしい姿を皆に知って欲しい。



そうして迎えた夜会で、何故か王子が怒り、何故かシュリエルが連れていかれることになった。


どうしてそうなったのだったか。プリシラが何かして……?いや、プリシラは何をしても愛くるしいだけだ。
怒ることなど何もない。
やはり、シュリエルが悪いのだな。



呆気なく婚約は解消となった。
いずれ解消、いや、シュリエルは私を愛していたから、抵抗するようなら婚約破棄をしなくてはいけないと思っていた。
それが拍子抜ける程にあっさりと、彼との関係は無くなった。


だから、勢い込んでプリシラとの婚約を陛下に持ちかけたのだが。


「陛下、何故です?聖女との婚姻は、この国に絶大な利益をもたらすはずです。陛下もそう仰ったではありませんか」

「確かに言ったが、わしはシュリエルを無下にしろとは言っていない。……まだ待て。気になることがある。その調査が済むまではお前は誰とも婚約させる気はない。それに聖女といえどもクライヴ王子を怒らせるような令嬢だ。王妃という重要な立場にさせる訳にはいかん」

「……それは……わかりました。私はプリシラと共にいますので、後はよろしくお願いします」

「お前は本当に……はぁ」





しかしその後、私とプリシラが結ばれることは無かった。











シュリエルが隣国へ連れて行かれた後、どうやって生活していたのか、まるで記憶にない。


急速に混濁していく、意識。


学園の空き教室で常にプリシラを抱いていたような。

プリシラを抱くと得られる、強烈な快感にまさるものは、人生において、ない。

プリシラが横にいなければ、食事も味がしない。

講義?そんなものよりプリシラだ。

プリシラは プリシラの


プリシ、ラ










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