悪役令嬢は、もう推しません

カシナシ

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本編

31 攻略対象・レオナルド


【攻略対象ナンバー01:レオナルド第一王子
 みんな大好き王道の王子様⭐︎婚約者のダリアローズ・シャルドネ侯爵令嬢の我儘に振り回されて、可哀想。言うことを聞いてくれない婚約者にストレスを抱えている。守ってあげたくなるような清楚な子がタイプらしいゾ⭐︎】





 ユリアナは、特別な乙女である。神に突然愛されたユリアナは、産まれたばかりの雛がよちよちと歩くのを練習するかのように危なっかしく、『自分が見てやらねば』という使命感に燃えた。


 可愛い可愛い、特別なカナリアを従える聖女。

 すぐに弱って死んでしまいそうな、レオナルドの聖女カナリア







***





「どうして思い通りにならないッ!」


 レオナルドはがしがしと頭を掻き乱した。


 愛しいユリアナは、想定以上に何も出来ない。自分を頼る姿は可愛らしいと思っていたのに、こうも全てを放り出されると、『無能』という単語を無敵の通行証が如く、振り翳しているようにすら思えた。


 出来ない、わからない、教えて、あなたがやって。


 何度も何度も繰り返して、根気強く教えてやれば、出来るようになると思った。

 王城には最高峰の教師が在籍し、また数多の蔵書を備えており、環境はこれ以上なく整っている。誰でも、たとえ猿であっても、そこにどっぷり浸けておけば、いずれはダリアローズのようになる、と。


 ダリアローズが学んでいた知識、教養。次期王子妃としての執務、人脈作りに茶会の主催、贈り物の手配、流行の形成に、レオナルドの補佐。

 すぐにそうなれと言う訳じゃない。ダリアローズの抜けた穴はあまりにも大きかったが、三年。三年の内ならばまだ、『教育中』だと誤魔化せると思っていた。


 しかし。


 結婚後、ユリアナはレオナルドを手に入れて安心したのか、やけにトリスタンを構うようになった。レオナルドに対しては我儘や要求を通す時だけ甘えた声を出し、それが通らないと知ると不機嫌になる。何度か機嫌を取って、疑問を抱いた。


(何故、自分を支えるべき人間の、機嫌を取らねばならないのだ?)


 レオナルドは、機嫌を取られる側の人間である。

 それに気付いた瞬間、結婚式をピークにユリアナへの愛情が目減りしていった。ダリアローズという良き相棒を退けてまで正妃に据えたのに、当の本人は努力のこれっぽっちも示さない。5歳の子供にすら負ける程度の、マナーのない振る舞いは、レオナルドに羞恥すら齎した。



 救いなのは、聖女であること。特別スペシャルなレオナルドに相応しい、特別な神の子。

 怪我も病も治せる聖女だからこそ、ひとたび治癒をさせれば民の好感度は爆上がり。人ではないような神聖さに、レオナルドはその時ばかりは、恍惚と心酔する。

 そのため多少の粗には目を瞑り続けていたが、徐々に、執務の回らなさによる疲弊が心を蝕んでいった。か弱いはずのユリアナは、今やトリスタンに色目を使い始めている。神聖さの欠片もない、欲に従った行動だ。他にやるべきことは、山のようにあるのに。


(形だけでも妻でありさえすればいいか……)


 ユリアナを離宮へ押し込んででも、ダリアローズを至急手に入れたかった。結婚当初はただ執務のためだけにそう考えていたが、今は違う。薄化粧のダリアローズは、ユリアナよりも庇護欲を唆る妖精のような可愛らしさだった。


 それに、ダリアローズのスタイルの良さは前から知っていた。派手なドレスはどれも身体に沿うもので、豊かな双丘が動くたびぷるんと揺れる。ほっそりとした細腰に、形良い臀部。そのスタイルの良さを持ってしても、あのドギツイ化粧と、気の強さのせいで手を出そうとも思えなかったのだが。


 寝台に潜り込み、既成事実を作る。そう想像しただけで、レオナルドのレオナルドは元気よくたち上がった。邪魔なトリスタンには、ユリアナをくれてやる。不貞を犯したとしてダリアローズと離縁させ、纏めて離宮へ押し込むのだ。聖女ユリアナと離縁はしたくないが、彼女に似た子供は欲しくない。子供ならダリアローズと作れば、優秀な子が産まれるだろう。

 ダリアローズは自分のお手付きとなり、王族の子を孕んでいる可能性があるとして、第二妃にすれば良い。少々手荒だが、過去そういう王が居なかったわけでもない。いける。


 そう思ってトリスタンを連れ出し、閉じ込め、向かったのに。

 レオナルドはすっかり忘れていたのだ。素顔が可憐でも、ダリアローズはダリアローズ。気の強さも、闇魔法を有していることも、変わらないということを。



 頭の中身がかき混ぜられた。いつの間にか部屋へ戻され、暫く吐き続けた。あれから影が、怖い。あちらから、こちらから、あの恐ろしい手が伸びてきて、レオナルドを振り回そうとする。


 ダリアローズは、いつまでもレオナルドを愛しているものとばかりに思っていたのに。

 夜這いも受け入れてくれると思ったのに、恐ろしい闇魔法の力をレオナルドに奮うほど、拒否された。


(ダリアを得られないのならば、ユリアナとトリスタンの不義を問わない代わりに、それをネタに一生忠誠を誓わせて、ユリアナの代わりに執務をやらせればいい)
 

 しかしトリスタンは、裸のユリアナに見向きもしなかったらしい。残されていたのは茫然自失のユリアナと、開け放たれた窓。足を滑らせれば命を失うリスクを負ってまで、窓から逃げるくらい、ユリアナを全力で拒否したのだ。


「ひっく……ひっく……なんで、あたしぃ、頑張っ……たのにぃ…………」


 それを聞いて、レオナルドは『勉学ではなく、こういう時だけ頑張るのか』と呆れた。結局ユリアナは、自信を着飾ることと、男を誘惑することでなれば頑張れないらしい。


 自分を慕っていた優秀な妃ダリアローズと、どんな命令でも従う優秀な側近トリスタン。あまりに大きなものを失い、得られたものは一体、何だったのだろうか。







【好感度:100……80……60%(幻滅した……)】


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