悪役令嬢は、もう推しません

カシナシ

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番外編

攻略対象・エイドリアン

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【攻略対象ナンバー03:魔法師団長令息 エイドリアン・ビア侯爵令息
 容姿は美少女だけど魔法オタクのエイドリアン。可愛い見た目とは違って、中身は男らしい⭐︎『可愛い』は禁句だよ× 魔法に興味を持つことや、魔法に関する質問をすることで、好感度が上がりやすいみたい⭐︎】







(エイドリアンside)


 僕の興味は昔から、魔法だけだ。

 父も母も小柄な家系だから、体格に期待できない。けれど男どもから舐められるのが嫌で、風魔法はかなりの数扱えるようになった。

 14歳。学園に入る前にあらかたの魔法書を読み尽くし、レオナルド王子殿下の側近に無理やり任命され、人生かったるいなと思い始めた頃だった。


「……エイドリアン・ビア侯爵令息はいらっしゃいますか」


 凛と透き通った声が聞こえた。殿下の執務室にいた僕は、顔を上げて少女を見つけた。


「ダリアローズです。こちら、見ていただきたいのです」


 驚いた。ダリアローズ嬢はいつもレオナルド殿下の金魚の糞と化しているご令嬢。

 非常に美人で能力が高い。少し近寄りがたい雰囲気があって、令息よりもご令嬢に人気がある。箱入り育ちのお嬢様の典型で、婚約者である殿下への愛が重たい。

 僕から見ると、殿下は彼女を、よく懐いた妹のように扱っている。実際の妹王女はもっと破天荒で懐いていないからかな。あんなに極上の美少女にあれだけ好かれたら、僕なら嬉しくて堪らないだろう。


 しかし殿下はそれが当たり前になってしまって、結構頻繁に色んな女の子と話し、“見聞を広めている”。


 ダリアローズ嬢は逆に、ちょっと珍しいくらい男の子と話さない。うそ。話すは話すのだけど、こんなふうに仕事絡みとかばかり。僕はさておき、隣にそびえるトリスタンという超絶美青年にもひと瞬きもくれてやることなく、事務的に話していく。

 そういうところ、好ましいと思う。レオナルド殿下しか視界に入ってない感じ。まぁ、つまり僕も入っていないんだろうけど。

 彼女が渡してきたのは、魔術回路を現した図形だった。
 僕たちはそれぞれ持つ魔力の属性の魔法しか使えないけれど、魔術回路を使えば、色々な魔術を使うことが出来る。


「…………?これは?」

「孤児院の子の練習用に描いていて、偶然産まれた産物です。闇属性魔力を倍増出来る回路なんですが」

「えっ!?!?!?」


 とんでもないものを持ってこられた。そんなの、論文にして出さなくちゃいけないものだ!
 フスフスと鼻息を荒くして、血眼で渡された回路を見つめていると、ダリアローズ嬢はスッと紙束を出してくる。


「こちらが論文です。見ていただいても?」

「もっちろん!でも、僕でいいの?」

「はい、魔法、魔術に関して、ビア侯爵令息の他に相談できる人を知りません。もし宜しければ、専門の方に繋いで頂けると嬉しいのですが」

「わぁ……!それはぜひ。僕の得意分野です。知り合いいっぱいいます。それに……」

「そうなんです、対象属性を変えることが出来たら、出力威力をもっと上げられたら、というケースも検証したいのです。が、わたし、そこまではどうしても時間が無くて。ビア侯爵令息にお任せしても……?」


 うわぁ。僕、何も言っていないのに、ここまで話がスッと通ること、あるの?そうそう、それを言いたかったんだ。

 感動で語彙力が無くなる。


「うわぁぁ!!嬉しい!ありがとう!うん!第一論文はシャルドネ侯爵令嬢の名前で、第二第三が出てももちろん名前は書かせてもらいます!あと、僕のことはエイドリアンでいいですよ!」

「ありがとうございます。エイドリアン様。わたしもダリアローズと。それから……」


 興奮してダリアローズ嬢の手を握ってぶんぶんしようと思ったら、すっと避けられちゃった。ははっ、そう言うところ、好き。

 まだ何かあるのかな、と思ったら、ダリアローズ嬢が近付いてきた。えっ?何何?あっ……すっごい良い匂いするんだけど?力抜けそう。あと僕よりダリアローズ嬢の方が背が高いから、目の前に胸が……。


「この話、レオナルド様には内密にして頂きたいんですの。女が魔術回路をこね回しているなんて、恐ろしいでしょうから」

「あー、僕はそうは思わないけど……分かった。レオナルド殿下の前でこの話はしないようにする」

「助かりますわ」


 にっこりと微笑むダリアローズ嬢。共通の秘密が出来たみたいで、なんだか高揚する。

 一緒にいたトリスタンには口止めをしなくていいのかと思ったら、ダリアローズ嬢がじっと見つめただけで、トリスタンが僅かに頷いていた。それだけで通じるんだ。

 そういえば、トリスタンとダリアローズ嬢が話している所、見たこと無いなぁ。トリスタンは女の子とは殆ど何も話さない。僕とだってぽそぽそ話すくらい。

 ダリアローズ嬢が去った後も、その小さな執務室には微かに香りが残っているような気がした。


「はー、良い匂いだったなぁ、ダリアローズ嬢」

「……深呼吸をしないでください。気持ち悪い」

「君しかいないんだからいーじゃん。それにしてもダリアローズ嬢、こんなのが作れるとはね。本当に多才すぎる」

「それは同感です。ご令嬢で魔術回路を描ける人間はほとんどいないでしょう」

「言えてる」







 学園へ入学すると、聖女ユリアナがレオナルド殿下にくっつくようになった。

 殿下はこれまで見たことのないタイプだからか、簡単に引っ掛かる。僕からすればあんなに何にも出来ない子供に何の魅力があるのか分からないけど、顔だけは可愛いからかな。

 聖女は僕よりも背が低い。ぱちぱちと上目遣いで、言うんだ。


「エイドリアン様……、魔法学のところで、分からないところがあって……教えて下さいませんか……?」

「え?ごめんなさい、僕、忙しいので」


 ダリアローズ嬢から齎された魔術回路の改良をずっと続けているからね、素人の素人質問に付き合っている場合じゃ無い。

 だって聖女の差し出してきたテキストは、僕が6歳かそこらで習得したものだ。なんたる時間の無駄遣い。無駄の極み。人に教えることで知識が定着するなんてよく言うけど、そんな次元じゃ無い。そりゃ、聖女は最近教育が始まったらしいから、遅れているのは仕方がないけどさぁ。

 だけど、そんな初期で躓いてるくらいなら、魔法学なんて取らなければいいのに。

 聖女の聖歌は魔力とは無関係だし、貴族令嬢は特に結婚して魔法を使うことは殆どないから、必須じゃない。ダリアローズ嬢、あの人が特殊なだけで。


「えっ……で、でもぉ、あたし、他に相談出来る人、いなくて……」

「?教師に頼んだらいいじゃないですか」

「でも……だって、大人の男の人、緊張しちゃって……」


 ははーんなるほど?僕が女の子みたいに可愛くて男っぽくなくて緊張しないからって?っておい、放っておいてくれる?僕、気にしてるんだから!!

 でもでもだってともじもじする聖女にイライラが募る。こんなの、よくレオナルド殿下は相手に出来るなぁ。


「ふうん。それなら、の成績良い子に教わったら良いと思いますよ。僕に知り合いはいないので、他に探して下さい。では」

「えっ、待っ……」


 そのまま逃げた。その勢いのままレオナルド殿下を見つけて、思わず引き留めた。


「どうしてダリアローズ嬢を差し置いて、あのもじもじクネクネする聖女につきっきりなんですか?」

「それは、ユリアナが困っているからだろう。ダリアは大丈夫だよ、彼女は私のやることに否を唱えることはないから」

「そうだとしても、可哀想です、ダリアローズ嬢が」

「可哀想?ダリアが?」


 きょとんとするレオナルド殿下に、何故だか背中がゾクゾクするほどの薄気味悪さを感じた。


「ダリアは何でも持っている、恵まれた女の子じゃないか。ユリアナは違う。神様に選ばれた特別な乙女なのに、何もかもがナイナイ尽くしで、可哀想なのはユリアナの方だ。ダリアは少しくらい寂しいかもしれないが、そのくらい我慢すべきだよ」

「……え……」


 まるで理路整然かのように、それが当然で正論かのように聞こえてくる。本当に?
 だってレオナルド殿下の婚約者はダリアローズ嬢じゃないか。だから、大事に……するべき、でしょう?僕、間違ってる?

 僕が何と言っても、全く通じなくなってしまった殿下。


 あとは卒業式を残すだけになって、ダリアローズ嬢を一時的に娶る役から落選した僕は、非常に拗ねた。拗ねて、いち早く魔術師団に入り研修で山籠りをしている間に、ダリアローズ嬢の婚約者がトリスタンに替わり、そして何故かダリアローズ嬢が聖女となって、殿下と元聖女は落ちぶれていった。

 僕が王都に帰ってきた時にはすべて終わっていて、ダリアローズ嬢はあの!感情なんて全て生まれた時に捨ててきましたみたいなトリスタンに!それはもうガッチリ絡め取られて、溺愛されていた。


 …………僕って、ものすごーく、間が悪い。せっかく背も伸びてちょっとは格好良くなったのに。もっと早く帰ってこれていたら?……いや、無いか。ちぇ。





【好感度:0%(バカは嫌い)】
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