虚構の愛は、蕾のオメガに届かない

カシナシ

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第一章 一回目の結婚生活

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 不安なことはあったものの、リスティアは生半可な気持ちで王家へ嫁いできた訳ではない。マルセルクとつがいになりたいという気持ちは固かった。

 アルファがオメガのうなじを噛む事によって、『つがい』になることが出来る。噛まれた瞬間に体質変化が起こり、そのオメガのフェロモンは番のアルファにしか効かなくなり、オメガは他のアルファに触れられると拒否反応が起こるようになる。

 その代わりに精神的安定を得たり、発情期が軽くなったりする他、一生マルセルクだけのものだと対外的にも示せる意味合いもあった。

(それに、噛まれた拍子に開花するかもしれないし……、番関係があるのに開花してない、なんて聞いたことないもの)

 開花にこだわっているリスティアだが、蕾のままでも花紋を持たないオメガと然程変わらず、妊娠確率やフェロモンに問題はない。
 ただ、花紋を開花させるというのはアルファにとってほまれらしいので、早くマルセルクに捧げたかったのだ。


 いつもリスティアを見かけては頬を緩めるマルセルク。
 愛の言葉を囁き、抱き寄せ、体温を分けてくれるマルセルク。

 そんなマルセルクならば、全てを捧げてもいいと思えるほど、愛しているから。


 結婚して初めての発情期が来ると、リスティアは頸を守るネックガードを外し、待っていた。マルセルクは宣言通り、リスティアの寝室に現れた。

 リスティアの方はもう既に、愛液で濡れていた。マルセルクを甘く誘う桜桃チェリーに似た香りのフェロモンが、部屋いっぱいに充満する。


「はやく……はやく、来て、下さい……っ」

「ああ、すぐに……」


 ナカを埋めて欲しくて懇願するリスティアを、マルセルクは初夜と同じく、優しくそれを与えた。

 二回目、それも発情期中なのに間が開いたからか、やはりリスティアの身体はすんなりとは受け入れられず、苦悶の表情になってしまう。

 それでも発情期の力もあって、引き攣れるような痛みはあるものの、なんとか最後まで繋がることは出来たのだった。


「ふ……っ、う、はぁ、あっ……」

「入っ……た……っ!」


 マルセルクもまた、狭い蜜壺に尋常ではない汗を流していた。そして実際、ろくに動かずとも、リスティアの絞り取るような内壁の動きに翻弄され、呆気なく達する。

 しかしそこで、予想だにしないことが起こったーーーーマルセルクが中に白濁を放ったと同時に、強烈な嫌悪感がリスティアを襲ったのだ。


「っうぐぅ!?」

「はぁ、はぁ、愛しいな……リスティア」


 呻き声を嬌声と捉えたのか、マルセルクはそのまま、頸を噛んだ。

 プチッと肌を食い破る、アルファの犬歯。注ぎ込まれる白濁と、フェロモン。


「いっ……!、んんん!!」


 痛みに歯を食いしばった。

 マルセルクのフェロモンにより、身体が作り替えられていく、快感。

 それなのに、リスティアの腹の中には禍々しいほどの魔力が渦巻いていて、気持ち悪さに吐き気すら催す。

 結果として、訳のわからなくなったリスティアは、失神してしまったのだった。







 ぼんやりとしたまま起きると、まだリスティアの発情期は続いているというのに、マルセルクの姿は消えていた。
 頸に噛み跡があるのはわかった。くっきりはっきりと、マルセルクだけのオメガになったことが、証明されていた。


「はぁっ……でんか……は、いま……どこへ……?」


 扉越しに呼びかけた護衛騎士は、小さな声で淡々と返してくる。


『恐らく、フィル様の所へと。あちらも発情期になったようです』


 そんな!


「い、いつ……こちらには……?」

『私では、分かりかねます』


 はぁ、はぁ。
 ずるずると、開かない扉にもたれかける。
『番』になったリスティアはもう、マルセルクのものだ。このフェロモンはマルセルクだけを誘い、他のアルファは感知も出来なくなる。

 一方でマルセルクの方は、他のオメガの発情期のフェロモンを受けても強制発情させられることはなくなるものの、フェロモンを嗅ぎ分けることは出来る。そのため、リスティア以外のオメガとも番になれる。

 フィルとマルセルクはまだ番ではなかったはずだし、その予定も聞いていない。

 ぼんやりとした視線を下げた先に映ったのは、未だ蕾のままの、自らの花紋だった。ぐるりと臍を避けるようにして生えた枝の先、小粒の蕾が点々として沈黙を守っている。


(もしかして、いつまでも開花しない僕に呆れて、彼を優先した……?)


 リスティアの中では、そうとしか考えられなかった。そうでなくては、自分よりフィルを優先するマルセルクの気持ちを、理解できなかったから。


(本当に僕より子猫の方がいいなんて、ことはないよね……?マルセルク様……どうして……)


 こうなれば、自分一人で発情期を消費しなければならない。

 持て余した身体はいくら擦っても赤くなるばかりで、自分の細い指では物足りない。快感は遠ざかっていくのに反して、『孕みたい』『孕ませて』と訴える本能は強まって、苛々する。

 苛立ちと、もどかしさ。

 思っていたのと違う結婚生活。
 フィルの存在、マルセルクの態度、侍女たちの噂話。

 まだ腹の中に残る、べっとりとした気持ちの悪さ。

 吐き気に従い、吐いて、吐き過ぎて、頭痛までして。


「うぁああああ!っあああああ!!」


 ガンガンと鐘を鳴らされるような酷い頭痛を消すため、壁に頭を打ちつけていたところ。
 音を聞きつけてやってきた薬師団長に、強制的に眠らされてしまったのだった。








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